149. 姿絵コンテスト⑫ ベンジャミン
ベンジャミンは優しくクララに語り掛けた。
「僕がクララにだけ言った言葉が活字になって他の人が読んで楽しんでいたら、恥ずかしくて登園拒否になりそうだよ。クララはどう?」
クララは顎に手を当てて、すっと目を閉じた。そして首を右に傾げたかと思うと左に傾げ、しばらく後、クララはパッと目を見開き言った。
「恥ずかしくてその場で死ねそうね。」
「だろう。あの甘いやり取りはお二人だけのものだよ。確かにお二人は人気のある恋人同士だから、小説になって小冊子になっていたら、みんな欲しがるだろうね。売り上げも多く取れると思うよ。だけど、ね。これは、良い儲け方じゃないと思うんだ。分かるだろう?」
クララは素直にこくんと頷くと、肩に置かれたベンジャミンの手に自身の手を重ねた。
「ありがとう、ベン。私の暴走を止めてくれて。私、考えが足りなかったわ。ベンがきっちり指摘してくれてよかったわ。おかげで人として間違わずにすんだわ。」
「どういたしまして。君の人の意見にしっかり耳を傾けられる姿勢は素晴らしいよね。それに、忘れないで。僕はクララの行動力と洞察力は素晴らしいし、いつも尊敬しているよ。」
「ふふっ、暴走気味の考えの浅い私には、ベンの様に冷静に分析をしてくれる存在が必要よね。私にはもったいないくらいの素敵な恋人よね。」
「そう言ってもらえると、嬉しいな。」
ベンジャミンは破顔した。
クララにはベンジャミンの頭にピンと立った耳と、ブルンブルンと振られたしっぽが見えた。
「うーん、今日もベンがかわいい大型犬。いいわ。」
クララは無意識のうちにベンジャミンの頭を撫でていた。
ベンジャミンも気持ちよさげに目を細め、にこにことしていた。
「というわけで、先程の話はなかったことにしてください。エミリア様、ソニア様、話を振っておいて申し訳ありません。」
クララは静かに頭を下げた。
「いいえ。いいのですわ。」
「ええ、頭を上げて下さい。」
クララが顔をあげると、目をキラキラと輝かせ両手を胸の前で握り合わせたエミリアとソニアがいた。
「クララ様とベンジャミン様は互いに律しあえる素敵な関係の恋人同士なのですね!」
「ええ、わたくしも感動しました。もちろん恋人には甘やかされたいですわ。ですが、ダメなことをダメと言ってくれる、そう、叱ってくれる存在、理想的ですわ。クララ様とベンジャミン様は正にそのような関係。素敵な恋人同士ですわ。」
ベンジャミンはほんのりと頬を赤らめて言った。
「当たり前のことをしただけだよ。クララとはこの先も隣を歩いて行きたいからね。お互いの駄目な所は言いあえる関係でいたいんだ。」
「そうね。パートナーにいい顔だけしていても、私みたいなのだとすぐ粗が見えちゃうものね。それにがっかりされるよりは、そういう粗も受け入れて補い合えたらいいわよね。」
クララは微笑みながらベンジャミンを見た。ベンジャミンも優しい視線をクララに返した。
「そうだね。そうありたいよね。」
「ふふ、考えが一致していて嬉しいわ。ちゃんと叱ってくれてありがとうね。」
「ちゃんと聞いてくれてありがとう。」
「冬花祭でベンからの告白を受けて、お付き合いができて本当に良かったわ。」
「僕もだよ。応じてくれてありがとうね。」
二人はにっこりと微笑みあった。
「大人ですわ、クララ様、ベンジャミン様。フェリシア様とヴィルノア殿下も素敵な恋人同士ですが、クララ様達お二人も素敵です。わたくしも素敵な方とお二人のような関係を築きたいですわ。」
エミリアがうっとりと言うと、ソニアもうんうんと首を縦に振った。
その日、フェリシアは珍しくヴィルノアと一緒に居なかった。というのも、ヴィルノアにはどうしても外せない仕事があり、バルトと共に学園を休んでいた。
「マリア様、一緒に作業してもいい?」
フェリシアは一人で作業をしていたマリアに声を掛けた。
「ええ。」
マリアはにっこり笑って答えた。
フェリシアはマリアの横の席に腰かけると、マリアの作業を手伝い始めた。マリアは姿絵コンテストに投票された投票用紙を見ながらポイントの集計をしていた。
「結構投票されているのね。」
「ええ、盛況ですね。」
「マリア様がお一人で集計作業をしていたの?」
「いいえ。今日だけです。いつもはバルト様と一緒に集計しています。今日はお仕事でお休みと聞いています。」
「そうね。バルトもノアと一緒にお休みだったね。」
マリアはポンと手を叩いて言った。
「ああ、何か違和感があると思ったら、今日はフェリシア様、お一人なんですね。」
フェリシアは椅子をポンポンと叩いた。
「ふふ、今日は椅子に座っているの。」
「ふふ、そうですね。ヴィルノア殿下はいつもフェリシア様を抱えてらっしゃいますものね。」
「ええ、何ですかねぇ、あれは。降ろしてくれないにも程があるのよねぇ。恥ずかしいのに。」
フェリシアは頬を赤らめた。
マリアは優しく微笑んで言った。
「ふふ、仲良しですよね。」
「そうともいいますねぇ。そう言えば、いつもバルトと一緒に作業しているの?」
「そうですね、割と一緒に作業していますね。弟と同じ年とは思えないくらい気遣いもできて、しっかりしている方ですからね。一人で作業していると、必ず声を掛けて下さって、一緒に作業をして下さります。いい方ですよね、バルト様。」
「バルトもね、マリア様は細かいことにもよく気が付く働き者だって言っていたよ。」
「そうですか・・・嬉しいです。」
マリアははにかんだように笑った。
フェリシアは目を見開き、しばらくマリアの笑顔をじっと見つめていた。
「あのぅ、フェリシア様?何か私の顔についていますか?」
困惑顔で尋ねるマリアを前に、フェリシアは首をぶんぶんと横に振った。
「ううん、違うの。マリア様の笑顔がすごくかわいくて見惚れていたの。冬花祭でも一緒に実行委員会でお仕事していたはずなのに、あまりマリア様とお話ししなかったでしょう。だからマリア様がこんなにかわいい人だって知らなかったの。」
「ええっと、かわいい、ですか?」
困惑しきりといった感じでマリアは首を傾げた。




