148. 姿絵コンテスト⑪ 役得
クララから聞いた、マリアのバルトに対する感想は、年上だから姉のように慕ってくれているのでは、という発言からも分かる通り、可もなく不可もなくと言ったところであった。好感はあれど、それ以上迄は発展していないようだ。バルトの熱量との差異があることは否めなかった。
ヴィルノアは苦笑いを浮かべて言った。
「ええっと、どこかで聞いたような話だね。」
フェリシアもこくんと頷き言った。
「・・・うん。すごく親近感あるマリア様の発言だったよね。やっぱり女性が年上だとそう思っちゃうんだよ。懐いてくれた、かわいい弟みたいな存在に見えるんだよ。」
「・・・今もそう見えているの?」
「・・・弟とは口付けはしないよ。」
フェリシアは頬を赤らめ、顔を横に向けた。
ヴィルノアはフェリシアの頬に手を当て、自分の方に顔を向けさせて言った。
「テオ兄上にはするじゃない。」
「頬にだけよ。兄様だもの。ノアとは・・・違うよね。」
「頬も他も全部、僕だけがいい。違うな。僕だけにして。」
「んー、考えとく。」
「考えて。今すぐ。そして僕だけにして。」
ヴィルノアはフェリシアに回した腕に力を込めぎゅぅと抱きしめた。
フェリシアは微笑んで、ヴィルノアの頭を優しく撫でた。
「ノア、ノアのそういう我が儘が嬉しいって言ったら変かな?」
「ううん、変じゃない。大好き、シア。僕だけにして。」
「うん、知ってる。善処します。」
「善処なの?」
「またノアにキレたら、テオ兄様におかえりなさいの挨拶したくなるかもでしょう。兄様に甘やかしてもらいたいかもでしょう。だから善処だよ。」
「もう二度とないよ。僕にはシアだけだからね。」
「ふふっ、それでもよ。ノアにその気がなくても、ねぇ、他の人にはあるかもでしょう。また、くっついてくるのがいるかもしれないじゃない。分からないでしょう。」
「やきもち?」
「そう、やきもち。」
フェリシアは頬を赤らめながらぷくっと膨らました。
「くだらないやきもちだよ。まだ無いことを想像して妬いてるんだもん。駄目な子だよね。」
「本当だ。我が儘嬉しいね。僕はシアのモノだから二度とあんなことはないよ。安心してね。」
「うん。信じてる。」
「大好き、シア。」
「うん、知ってる。」
「シアは僕のこと好き?」
ヴィルノアはにっこり微笑みながら首を傾げた。
フェリシアは小さく息を吐いた後、ヴィルノアの耳元に顔を近づけ囁いた。
「・・・好きよ、ノア。」
短く小さい声だったが、肌が触れそうなほど近くで響く甘い声と、耳にかかる温かな吐息に、ヴィルノアは頬も耳も首も赤く染めあげた。そして口元を押さえてヴィルノアは言った。
「シア・・・敵う気がしない・・・。」
フェリシアはどうしたのだろうと首を傾げヴィルノアの顔を見た。真っ赤になったヴィルノアを見て、フェリシアは微笑んで頭をゆっくりと撫でた。
「ノア、かわいい。」
「・・・シアからは格好いいと言われたい・・・。」
「ふふ、かわいい。」
「・・・シアは意地悪だ。」
「かわいいノアを好きだなって思う私は意地悪な女かな?」
ヴィルノアはパッと目を見開いた後、目を細めて微笑んだ。
「・・・違います。世界一素敵な女性です。」
「ふふっ、言い過ぎよ。」
「本当だよ。世界で一番素敵で、僕の大好きな人だよ。」
「ふふ、嬉しい。」
フェリシアは破顔した。
フェリシアの誰よりも美しい笑顔をいつまでも守りたいとヴィルノアは心の底から思った。
「ねぇ、ソニア。わたくし、今、見たこと書きたいですわ。お二人の、甘々トーク。」
エミリア達はフェリシア達のやり取りを、これでもかと聞き耳を立てていた。
ソニアは静かにこくんと頷き、同意を示した。
そしてクララもこくんと頷いた。
エミリアは真剣な顔で言った。
「この実行委員会でのお手伝いは役得というものですわね。こんなに身近で、憧れのお二人を見ることができるんですもの。」
エミリアとソニアはお互いの両手をぎゅっと握って、目をキラキラさせて、うんうんと頷き合った。
「エミリア様、ソニア様、その本をパーティ会場で先程話した図録と一緒に販売してみませんか。折角ですから、殿下たちのいちゃいちゃ度高過ぎの甘々物語りを出しましょうよ。例の小冊子をフェリシア様にお借りして読みましたよ。あれ、よくできていました。この機会のまとめちゃって、売りましょうよ。殿下に許可を取りますので、やってみましょうよ。」
「ええっと、フェリシア様にもお話しした方がいいですよね?」
「もちろんです。ですが、まずは殿下です。」
「分かりましたわ。殿下の許可を得られるのでしたら、頑張りますわ。ねぇ、ソニア。いいですわよね。」
ソニアはこくんと頷いた。
「そうですね。殿下とフェリシア様の許可が得られるのでしたら、やりましょう。」
「こらこら、クララ、それは駄目だよ。」
ベンジャミンが三人の会話に入ってきた。ベンジャミンはクララの隣に座り、体をクララに向けた。
「ヴィルノア殿下とフェリシア嬢の甘い語らいはお二人だけのものだよ。お二人にとって大事な時間だよ。他人がどうこうと踏み込んで見聞きしていいモノじゃないよ。」
ベンジャミンはクララの肩にそっと手を置いた。




