142. 姿絵コンテスト⑤ やっぱりご褒美は大事
黙り込んでしまったヴィルノアに不安を感じたフェリシアは、ヴィルノアの頬を両手で挟んで顔を覗き込んだ。
「だめ?」
ヴィルノアは首を横に振り、ふんわりと微笑んだ。
「すごく面白いアイディアだと思うよ。欠片をチャームに利用するのいいね。チャームなら価格も手頃にできるよね。企画をおおざっぱでいいからまとめてくれない?」
「うん!エリザベス達に伝えるね。」
「それならば今回のデザインはこんな感じはどう?」
ヴィルノアはペンを取るとスケッチブックにブローチの絵を描き始めた。握り拳大の薔薇に小さなリボン、その下に揺れるチャーム。
「こんなのどう?チャームの形は何がいい?」
フェリシアは首を傾げ考え込んだ。
「婚活ならベタにハート?でもノアなら猫さん?うーん、イラストコンテストだからペン型?それともいっそしずく型とか・・・。」
フェリシアはどこかぴんとこず、まだ首を傾げ唸り続けていた。
「うーん、薔薇じゃなければだめかな?例えば姿絵のモチーフは人物なんだから、人の横顔とかでピアスにチャームを使うとか・・・。」
「あっ、それ面白いね。」
ヴィルノアは女性の横顔を書いて、耳の上に薔薇の花飾りを描きいれ、さらに耳に揺れるピアスを描いた。
「どう?イメージ合っている?」
「あっ、とっても素敵!これならチャームはしずく型がいいな。」
ヴィルノアはこくんと頷くとピアスをしずく型に代え、色を軽く着けた。
「うわぁ、すごくいい!これ欲しいよ。」
「そうだね。いいね。シャレた感じになった気がするよ。」
「うん。ありがとう、ノア!」
フェリシアは両腕を広げてヴィルノアの頭を抱きかかえようとしたが、途中で手を止めた。
「あっ、いけない。これ、だめなんだった。」
そう言ってフェリシアは手を引っ込めた。
ヴィルノアは目を細め、微笑んだ。
「覚えていたんだ。それなら、こっちで。」
ヴィルノアは人差し指で自身の頬をトントンと叩いた。
フェリシアは何をヴィルノアが言いたいのか分からずに、ヴィルノアの動きを目で追い、首を傾げた。しばらくしてパッと目を見開くとフェリシアは頬を赤らめ、顔を横に向けた。
「ご褒美、って言ったら、ねっ、シア。」
フェリシアは周りをキョロキョロ見た後、ふぅっと小さく息を吐いた。
そしてチュッとヴィルノアの頬にキスをした。
「上手にデザインしてくれてありがとう、ノア。」
「うん。大好き、シア。」
そう言うとヴィルノアは片手をフェリシアの頬に当て、フェリシアを引き寄せ、チュッとリップ音を立ててキスをした。
「うん、知ってる。」
フェリシアは頬に手を当て、はにかんだ笑顔を浮かべた。
教室の隅とはいえ注目を集める二人なので、誰もが目の端に二人を捉えていた。もちろん今のやり取りはすべて見られていた。
ある男子生徒がはぁっと小さく息を吐いて言った。
「フェリシア様みたいなかわいい子がご褒美くれるんだったら、俺、どこまでも頑張れそう。」
「あっ、俺も同じこと思った。」
「だよなぁ。」
「それにあのはにかんだ笑顔。いいなぁ、殿下。」
「かわいいよな。フェリシア様。俺もあんな彼女欲しいなぁ。」
「だよなぁ。」
ぼそぼそと男性陣はぼやき合っていた。
「ねぇ、見た?」
「見た見た。ヴィルノア殿下、甘ーいぃ!!」
「私にも、チュッてしてくれないかなぁ。」
「無理無理。殿下、フェリシア様しか見ていないもん。」
「そうよねぇ。いいなぁ。甘い婚約者。」
「素敵ねぇ。」
女性陣のきゃぁっという小さな悲鳴がそこかしこから聞こえてくるのだった。
「あっ、俺、持つよ。」
サイラスはリリアの腕からすっと大きな巻かれた紙を取り上げた。
「ありがとうございます。」
リリアはにっこり微笑んでお礼を言った。
「これ掲示板に貼る告知だよね。リリア嬢が書いたの?」
「はい。サリナと二人で書きました。」
「へぇ、二人とも字がきれいなんだね。すごく読みやすいよ。」
「ふふっ、ありがとうございます。」
リリアは頬をほんのり赤く染めて、嬉しそうに微笑んだ。
そして二人は教室から出て行った。
フェリシアはそんな二人を少し離れてみていた。そう、相変わらず、ヴィルノアのお膝の上で。
「うん。順調かな。」
「何が、シア?」
ヴィルノアは首を傾げた。
フェリシアはヴィルノアを見て微笑んだ。
「今ね、リリアとサイラス様が一緒に教室を出て行ったの。リリアがね、あの件が原因で冬花祭で知りあって折角上手くいきそうだった男の子とダメになってしまったんだって。サリナも同じでね。すごくいい子達なんだよ、リリアもサリナも。かわいそうだなぁって思ったんだ。
今回のイベントの実行委員のメンバーって半分くらい婚活中でしょう。だから、少しでも彼女たちの出会いの場になればいいかなって思ってお手伝いに誘ったの。
もちろん委員の婚活男子がどんな方か軽く調べた上でよ。そうしたら、みんな結構な優良物件だったの。
例えば今出て行ったサイラス様。伯爵家嫡男でご両親は穏やかな方でサイラス様との仲も良好。お一人いる妹さんとの仲も良く、彼自身も穏やかな方。伯爵家の領地経営も安定していて、そこそこの資産が蓄えられるくらいの事業も運営されている。という訳で、リリアとだったら家格も釣り合うし、いいよね。」
フェリシアがすらすらと説明をするのを聞いていたヴィルノアは目をぱちくりとさせた。
「シア、随分調べたんだね。」
「当たり前よ。リリアもサリナもいい子達だから幸せになって欲しいの。変な男に近づいてほしくないもの。」
フェリシアはぐっと手を握った。
ヴィルノアはそんなフェリシアを見て目を細めた。
「シアは優しいね。僕にはできないよ。」
「そんなことないよ。ノアは優しいよ。」
「うん。シア限定だけどね、僕の優しさは。」
「ふふっ、ちょっと嬉しい。」
「ちょっと?」
「すっごく嬉しい。」
「ははっ、シア、大好き。」
「うん。知ってる。」
「うん、うん、相変わらず仲良しですね、お二人は。」
クララはフェリシア達の会話に混ざってきた。




