135. もう一つのお茶会③ エリザベスの苦言
「ヴィルノア殿下は男性なのです。この意味わかりますね?」
エリザベスが圧のある声で言うと、フェリシアはやっぱりキョトンとした顔で言った。
「えっ、っと」
フェリシアが視線を下に向けると、ヴィルノアの顔が自分の胸の谷間に埋まっていることに気付いた。
慌てて手を放し、フェリシアは体を離した。
「うわぁぁ、ごめん、ノア!」
「・・・うん。」
ヴィルノアは耳まで真っ赤にして俯いた。
エリザベスはふぅっと小さく息を吐いた。
「ほら、フェリシア。今はわたくしたちもおりますし、殿下が動揺して固まっているから何も起きていません。多分、ヴィルノア殿下がご自身の理性の手綱を必死で握っていることでしょう。そのおかげでフェリシアは無事なままなのですよ。ねぇ、ヴィルノア殿下。」
ヴィルノアは口元を手で押さえて言った。
「・・・はい。シアの胸は柔らかくて、いい匂いで・・・今の僕には刺激が強すぎます。僕は今、僕の理性を総動員しています。シアを怖がらせたくないんです。・・・ううぅぅ、きついです。」
エリザベスは人差し指をピンっと立てて、フェリシアをまっすぐ見た。
「ほら、聞きましたでしょう。自分から危険を呼び寄せてはいけません。ただでさえヴィルノア殿下はスキンシップ過多な方なんですよ。まだ学生でいたいなら気を付けるべきです。」
「ノアの理性が吹っ飛ぶと、私は学生でいられなくなるの?」
フェリシアは首を傾げた。
「そうなる可能性があるということです。婚前といえど、お子ができたら学生してられないですわよ。」
「えっ、子供?」
「理性のタガが外れるというのは、そういうことをしてしまうのを押さえられなくなるということです。シルビアから本を借りたのですよね。平常時であれば殿下は結婚まで待ってくれるおつもりでしょう。ですが理性のタガが外れてしまって、殿下が己の欲求に負けてしまったら・・・分かりますね?フェリシア、殿下は男性なのですよ。力では敵いませんよ。」
「・・・そういうことって・・・。」
フェリシアはシルビアが貸してくれた本を思い出して、首まで真っ赤に染めた。
「ようやくお分かりになりましたね。仲が良いことはそれ自体は良いのです。お二人が仲睦まじくしているのは、見ていてほっこりしますわ。でも危機を回避するには、フェリシアも気を付けなければなりませんよ。フェリシアの無邪気さは大好きですけど、今のは駄目です。」
「・・・うん。これから気を付ける。」
エリザベスはしゅんとしたフェリシアを見て、優しく微笑んだ。
「そうですね。気を付けて下さいね。わたくし、まだまだフェリシアと学園生活を楽しみたいのです。」
フェリシアは顔を上げて嬉しそうに笑った。
「私もエリザベスともっと一緒に居たい!!」
二人は顔を見合わせて、ふふふと笑った。
そんな二人のやり取りを見守っていたアゼリアはふふふと笑ってヴィルノアに言った。
「ヴィルノア殿下も大変ですね。」
ヴィルノアはふぅっと小さく息を吐いて言った。
「はい。シア、フェリシアが大好きなので触れ合うのは大歓迎なんです。それでも、大切にしたいので大人の触れ合いは結婚するまでは、と自主規制はかけているんです。とはいっても、シア、フェリシアがかわい過ぎる時には・・・正直揺らぎます。僕は理性を保つのに必死なんです。」
「ふふ、正直ですね。」
「はい。シアには真っ直ぐに言わないと伝わらないので、できるだけ飾らない言葉で正直に言うようにしています。」
「ふふ、素敵です。頑張ってくださいね、ヴィルノア殿下の理性たち。」
「はい。でも僕には心強い味方の義姉がいますので、何とかなりそうです。」
そう言ってエリザベスを見ると、にっこり笑った。
「ねぇ、義姉上。」
エリザベスはキョトンとした顔で呟くように言った。
「あ、あねうえぇ・・・。」
ぽかんとした顔でヴィルノアを見た後、エリザベスはかぁっと頬を赤らめた。
フェリシアはそんなエリザベスを見て、目を細め微笑んだ。
「かわいい、エリザベス。そうだよね、エリザベスはエリックのお嫁さんになるんだから私にとってもお義姉様だよね。なんか嬉しいね。やっぱりそれだとエリックは義兄様ってことだよねぇ。エリック兄様?うわぁ、やっぱりそれは無し。うん、無い無い。エリックはエリックでよし、だよね。うん。」
フェリシアがブツブツと言い、首を横にフルフルと振った。
ヴィルノアはそんなフェリシアを見て優しく微笑んで、立ち上がってフェリシアを椅子に座らせた。
「そろそろ僕は行きますね。長いことお邪魔しました。この後は女性だけの時間を楽しんでください。」
胸に手を当て王子然とした笑顔を浮かべてそう言った後、ヴィルノアはフェリシアの髪を一房掬って口付けを落とし去って行った。
アゼリアは流れるようなヴィルノアの動きにほうっと小さく息を吐いた。
「私、お二人のやり取りを見るのが大好きです。ファンになりました。物語のようです。」
フェリシアは首を横に振って、苦笑いを浮かべた。
「ファンだなんて・・・大袈裟です。」
「そんなことありません。もっと見てみたいです。これから楽しみにしていますね。」
にこにこと言うアゼリアにフェリシアはただただ赤くなって俯くしかなかった。




