133. もう一つのお茶会① アゼリア
王宮の庭園で休日の昼下がり、フェリシアはエリザベス、アゼリアとお茶会をしていた。これはテオドールが三人の交流の場を設けようと企画したものだった。
三人はそれぞれ挨拶を交わした後、お茶会は始まった。
アゼリアはエリザベスに頭を下げて言った。
「先日は妹がエリザベス様に聞くに堪えがたい言葉を言ったと聞きました。不愉快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。妹に代わり謝罪いたします。」
エリザベスは穏やかな表情で首を横に振った。
「顔を上げて下さい。気にしておりません。」
「そう言って頂けると心が軽くなります。王宮でも妹はフェリシア様に対してあまりにもひどい言いようで・・・我が妹ながら申し訳なく、お恥ずかしい限りです。」
「まぁ、フェリシア。そんなにひどい言葉を投げつけられましたの?大丈夫でしたか?」
フェリシアは真っ赤になって両手で顔を押さえた。
「まぁ、どうしましたの?フェリシア、顔が赤いですわ。」
「ふふ、こう言っては何ですが、フェリシア様の耳には妹の暴言は届きませんでしたの。フェリシア様の耳はヴィルノア殿下が両手で塞いでおりました。それに妹が馬鹿なことを言っている間、ずっとヴィルノア殿下がフェリシア様に口付けをされていて、フェリシア様は他にかまっている余裕がなかったのですのよ。」
「まぁ、さすが、ヴィルノア殿下ですわ。容易に想像がつきますわ。」
「本当に殿下はフェリシア様を大切にされていますのね。いけないと思いつつも、お二人の様子を見てしまいました。まるで物語の中の出来事のようで、目が離せなくなってしまいましたの。ふふ、私も妹の暴言どころではありませんでしたね。」
アゼリアがおどけたように言って、ぱちんと片眼を閉じた。
「まぁ。ちょっとだけわたくしも見て見たかったですわ。」
エリザベスは少しだけ赤く染まった頬に手を当てた。
フェリシアはぼそっと言った。
「ノアの、ばかぁ。」
「ふふ、ヴィルノア殿下がフェリシアに夢中で大切にしていることは誰もが知っていることですわ。」
エリザベスは眉を下げ、苦笑いを浮かべた。
「そうですよね。まだこの国に留学して日が浅い私でも知っています。でも婚約してまだ半年と聞いて驚きました。前の婚約者は第二王子のエリック殿下ですよね。今はエリザベス様の婚約者だと伺っております。」
「ええ、そうです。フェリシアは、もう話しましたの?わたくしたちの婚約のこと。」
「ううん、まだ。」
「話してもよろしいですわよね?」
「うん。いずれ話すつもりだったから。」
「話してもらえると嬉しいですわ。私も聞きたかったのですよ。婚約の歪みを解消した結果、今の形になったとジルベール様から聞いたのだけど、今ひとつ分からなかったのです。」
「そうですわよね。フェリシアとエリックが婚約したのは二人が10歳の時だそうです。婚約した後で、初めてヴィルノア殿下とフェリシアは会ったそうです。その時、まだエリックとフェリシアが婚約したことを聞かされていなかったヴィルノア殿下はフェリシアに一目ぼれして告白までされたそうです。ですが数日前に二人の婚約は整っており、エリックを始めテオドール殿下も王妃様もヴィルノア殿下の想いを目の当たりにしても何もできなかったそうです。またフェリシアはその告白を義弟として好いてもらえたと喜んだのですが、どうにもならない状況から全員口をつぐみ、フェリシアの勘違いをそのままにしたそうです。時間が経ってもヴィルノア殿下のフェリシアへの想いは変わることなく、エリックが言うには痛々しいくらいだったそうです。わたくしから見ても苦しいくらいに一途で、でも叶うことのない思いを抱えていて・・・悲しげでもありました。もちろん、フェリシアはそんな殿下の気持ちは知らないままでしたの。
昨年わたくしが留学し、フェリシアとエリックと知り合いました。そして、わたくしがいけないと思いつつもエリックに惹かれ、エリックもわたくしを想ってくれたのです。ですがこの思いは叶えられるものではないものです。お互い隠していたのですが、フェリシアが気付いてくれて、フェリシアはわたくしもエリックも大切な友達だからと当時同じく留学中でした兄とテオドール様、ジルベール様に相談し協力を仰いでくれたのです。兄達がが尽力してくださり、わたくしとエリックが婚約することになりました。そして長年ヴィルノア殿下の想いを見続けて気にかけていらしたテオドール様たちが、ヴィルノア殿下の願いであったフェリシアとの婚約を結ぶようにしたのです。これが歪みの解消です。」
「そうだったのですね。フェリシア様はエリック殿下に想いはありませんでしたの?」
「ないですね。いい友達ではありましたけど、恋にならなかったんです。エリックも同じで。だからエリックが切なそうにエリザベスを見ているのに気付いた時は嬉しかったんです。婚約者が他の女の子を好きになって嬉しいなんて変な話ですよね。でも・・・その反面私がいなければ、とも思ったんです。ほら、婚約者の私が邪魔じゃないですか。大好きな二人が悲しい思いをしなければならないなんて。それを兄様達に話したら解決してくださったんです。」
アゼリアは胸の前で手を組み、目をキラキラさせた。
「本当にドラマチックですね!物語のよう。エリザベス様もエリック殿下もヴィルノア殿下も想う方との婚約になったのですね。」
「ふふ、ヴィルノア殿下の喜びようはそれはそれは分かり易くて。まぁ、今もですから、アゼリア様も分かりますわよね。」
「ええ、ええ、分かります。」
エリザベスは楽しそうに微笑んで言った。
「今はフェリシアもヴィルノア殿下に夢中ですのよ。」
「エリザベス!」
フェリシアは顔を真っ赤に染め上げた。
アゼリアもふふふと楽しそうに笑った。
「それも見ていて分かります。だって、口付けの後、フェリシア様はうっとりとヴィルノア殿下を見つめていましたもの。あの目は、ね、囚われた者の目ですわ。」
フェリシアはいたたまれなくなってお茶を啜った。
「アゼリア様は婚約されているのですか?」
話を変えるべくフェリシアはアゼリアに尋ねた。
アゼリアは寂しそうに微笑んで言った。
「ええ、おります。でも、お二人のように想い合って、という訳ではないですね。」
「どのような方か、伺っても?」
「ええ、我が国の宰相家の嫡男で私より五歳年上の方です。小さい頃から兄のように慕ってきた方で素敵な人です。彼も私を妹のようにかわいがってくださいました。ですから仲はよいのです。でも、そこに恋心があるかと言えば、どうなんでしょうね。私にとっては憧れのお兄様で、婚約できたことはとっても嬉しかったのですけれど、彼にとっては妹でしょうね。お二人のように恋人同士という訳ではないですね。政略結婚ですものね。だからお二人が羨ましいですね。私もお二人のように想い合う仲になりたいのですが・・・。」
「大丈夫です。アゼリア様はとても素敵な方です。」
「そうですわ。ヴィルノア殿下を見て下さい。エリックと婚約している時のフェリシアにはずっと恋心を隠してフェリシアの望むかわいい義弟であり続けたのです。そしてやっと婚約できてからはずっと好きだと言い続け、フェリシアを振り向かせましたの。あのひた向きな努力に、フェリシアは全く気付いていなくても殿下は頑張り続けましたのよ。それに比べたら、アゼリア様はもう振り向かせるだけですわ。」
エリザベスはぐっと手を握って一気に話した。
アゼリアはキョトンとした顔をしたが、すぐに楽しそうに笑いだした。
「ふふ、エリザベス様って面白い方でしたのね。ええ、私も頑張ってみます。ヴィルノア殿下に負けてはいられませんね。」
「ええ、そうです。あの真っ直ぐな想いにいつも考えさせられますの。」
「分かるような気がします。」
「ノアの評価ってエリザベスの中で高いんだね。」
フェリシアが暢気に言うと、エリザベスが頬に手を当て方っと息を吐いた。
「もう、フェリシアったら。もう少し気付いて差し上げないと、ヴィルノア殿下が不憫ですわ。」
「ちゃんと気付いてるから大丈夫だよ。」
フェリシアはへにゃと顔を緩め微笑んだ。
「こんにちは。随分楽しそうですね。女性だけのお茶会と分かっているのですが少しだけ僕も参加させてくれませんか?」
従者を従えてやってきたヴィルノアは胸に手を当て、三人に声を掛けた。




