132. お茶会② 小冊子
リリアが取り出した小冊子はノートの半分の大きさで濃紺の表紙には花に囲まれた男女が白一色で描かれていた。薄く、ページ数はそう多くはない。
フェリシアは首を横に振った。
「ううん、知らない。触ってもいい?」
「どうぞ。」
フェリシアは1と書かれた一冊を手に取ると中をぺらぺらと捲った。挿絵が何枚か入っていて、それを見る限り、恋愛もののようだった。二冊目、三冊目と手に取りぱらぱらと捲ってみると、三冊目の挿絵で手が止まった。主人公であろう女性が男性の制服の襟を引っ張って引き寄せ、キスをしていた。制服はどう見てもこの学園のものだ。
「えっ。」
もう数ページ捲るとまた挿絵があって、制服の男性が跪いて女性に花を差し出していた。花は四本の薔薇で、二人の顔はどう見てもフェリシアとヴィルノアの横顔だった。挿絵の横の本文を読むと、冬花祭でヴィルノアがフェリシアに言った言葉だが並べられていた。
それに気付いて一冊目と二冊目に戻って挿絵を見ると、多少の相違はあるものの、初めてヴィルノアを紹介された日の様子に近かったり、食堂であーんをして苺を食べさせてもらっていたり、猫メイドの姿だったりと、心当たりのある光景ばかりだった。
「ねぇ、これって・・・私とノア?」
二人はきゃぁっと声を上げ言った。
「分かりますか!フェリシア様とヴィルノア殿下の間の出来事を綴った小説なんです。中の登場人物の名前は違うのですが、挿絵を見れば誰でもピンときます。それに定期考査の結果発表の際のキスや冬花祭のお二人は私も見ましたので、この小冊子と同じって分かります。」
「そうなんです。お二人の素敵な話でいっぱいなんです。でも婚約前の出来事は本当なのかどうかとあちこちで議論が起きているのです。ヴィルノア殿下について、学園に入る前のことは、あまりに遠い存在ですので何があったのかは知ることができません。ですから、この小冊子に書かれているエピソードの真偽について様々な意見があるのです。私たちの学年では女子なら誰もが読んでいますので、それこそあちこちで議論されています。」
「私も読んでみたい!これってどこで買えるの?」
「多分、一年生の間だけで出回っているものかと思います。窓口になっている方がいて、その方にお願いすると後日小冊子を届けて下さるんです。」
「私でも申し込めば買えるかなぁ?その窓口の子を紹介してくれる?」
「もしよろしければですが、私の読んだ物でよければ、そちらを差し上げますよ。」
「いいの?いくら?払うよ。」
「いらないですよ。私はたくさん読みましたから。今度はフェリシア様が楽しんでください。何か理由がないと受け取れないというのでしたら、お友達になった記念、ということでいかがですか。」
「うわぁ、ありがとう!嬉しい。早速、帰ったら読むね。」
「是非是非読んでみてください。それで、もしよろしければ、そのぅ、内容が本当にあったことなのか教えて頂けませんか?」
「うん、いいよ。」
「本当ですか!約束ですよ!」
「私たち、内容の真偽が知りたかったんです!」
リリアとサリナは顔を見合わせてうんうんと頷き合った。
「でも私とノアの間にそんな二人の興味をひくことなんてないよ。」
フェリシアが困惑気味に言うと、二人は首を横に振った。
「そんなことはありません。お二人の間の出来事はどれもドラマチックです。それに何よりヴィルノア殿下の溺愛っぷりは私たちまで赤面してしまうくらいです。羨ましいです。私も溺愛してくれる恋人が欲しいです。」
「私もです。あーんとかお膝抱っことかされてみたいです。」
「・・・恥ずかしいだけだよ。」
「そうですよね。衆人環視の中ではそうかもしれないです。でも二人だけの時になら、アリです。」
「フェリシア様たちは人気者ですから、誰もがついついお二人を見てしまいますが、私が何しても誰も気にしませんし、見ることはありません。でも、二人っきりの時がいいかな。」
「二人はいいなって思う人はいないの?」
「先日の冬花祭のダンスでお声かけ頂いた方はいたんですけど・・・だめだったみたいです。」
「私も・・・同じです。」
二人はしゅんと困ったような笑顔を浮かべた。
「ねぇ、もしかして今回の件が関係してる?」
「・・・はい。」
「自業自得なんです。」
「・・・そう。二人とも家族思いで、友達思いのいい子たちなのに。お相手も見る目がなかったのね。」
フェリシアは顎に手を置き、むぅっと考え込んだ。
「まだ、お相手を探そうと思っているかしら?」
二人は顔を見合わせ、苦笑した。
「それはもちろんです。けれど、しばらくは無理かと思っています。」
「・・・恋人には憧れています。でも、無理ですよね。」
「二人はどんな方がいいの?」
「私は誠実な方がいいです。」
「私もそうです。」
「顔は?」
「ヴィルノア殿下のように美しく整っていたら最高でしょうけど、私には尊過ぎて落ち着きません。ですから、顔に希望はありません。優しいお顔付であったら言うことはないです。」
「私も特に希望はありませんが、背は私より高いといいなと思っています。私が高い方なので、できればヒールの高い靴を履いても少し見上げるくらいだといいなと思っています。」
「そうかぁ。ええっと、年はどう?」
「特にありません。」
「私もです。」
「えっ、そういうもんなんだ。私は年下と婚約するなんて思いもしなかったよ。」
「「ええっ!」」
「だって、ノアは弟だと思っていたもの。弟を恋人にはできないでしょう。」
「そうですが、今は違いますよね。」
「うん。今はね。ノアが頑張ってくれたから。」
「ヴィルノア殿下って情熱的な方なんですね。」
「・・・うん。そうかも。」
フェリシアは真っ赤になった頬を両手で押さえた。
リリアたちはフェリシアを見て、きゃぁっとはしゃいで言った。
「かわいいです!」
「眼福です!」
「・・・うん。ありがとう。」
更に真っ赤になったフェリシアとリリア達は、ヴィルノアが来るまで話題が尽きることなく、楽しく話し続けたのだった。




