13. 学園祭② クッキーとご令嬢
「わたくし全くお料理をしたことがありませんの。エプロンをするのも、厨房に入るのも初めてですわ。」
エリザベスは困惑した表情をしていた。
「私も料理は初めてだ。」
「私もです。」
シルビアとクラスメイトのサラが言った。サラはきれいな真っ直ぐな黒髪の伯爵令嬢だ。
「大丈夫。今日作るのはクッキーだから誰でもできるよ。」
フェリシアはにっこり笑った。
フェリシア、エリザベス、シルビアとサラの四人は学園祭のカフェで出すクッキーを作るグループで、今日は練習のため、学園の厨房を借りて四人で簡単なクッキーを作ることにしたのだ。四人とも王族や貴族なので家には料理人が常駐しており、わざわざ料理を作ることはない。料理経験がないのは当たり前のことだ。
ただフェリシアはお菓子好きが高じてよく家のシェフに習って作っていた。フェリシアの趣味の一つがお菓子作りだった。
「私ができるんだよ。大丈夫!」
フェリシアは胸をポンっと軽くたたいた。
「まずは計量からね。」
フェリシアは秤や材料を作業台に乗せて、軽量の仕方を教えた。
「さあ、やってみて。」
三人に計量を任せ、フェリシアは鉄板に薄く油を引いたり、オーブンに火を入れたりした。一通り作業を終え、軽量していたテーブルに戻ると三人とも薄っすら白っぽい。テーブルの上には測り終えた材料があったが、周りには粉やバターが散乱していた。
「うーん、何があったのかな?」
フェリシアは呆れ顔で聞いた。
「粉やバターを計っていただけですわ。」
「そうだな、計っていただけだ。」
「少しばかりこぼしてしまいましたわ。」
三人は計ることを頑張ったようだ。
「お化粧したのかと思ったわ。」
フェリシアはポケットからコンパクトを出し三人に渡した。それぞれが鏡を覗き込んだ。
「まぁ、白いですわ!」
「白いな。」
「白いですね。」
四人は顔を見合わせて笑った。
「顔洗ってきてね。私このテーブルきれいにしておくから。」
顔を洗いきれいになったところで四人は玉子を割る作業に取り掛かった。
「玉子にヒビを入れて両手で左右に引くと割れるの。中身をボウルに落として、殻は捨ててね。」
フェリシアは実際に玉子を割りながら説明した。
「さあ、やってみてね。」
「うわぁ!」
シルビアは力を入れ過ぎて最初のヒビを入れる作業で玉子をぐしゃりと潰してしまった。
「力加減が難しいな。」
ぶつぶつ言いながらも三個目にはきれいに割ることができていた。サラも同様であった。
「あらっ!」
エリザベスは粉々になった殻を握りしめていた。玉子はテーブルの上に落ちていて、その上には細かくなった殻が振りかけられていた。手を洗い、気を取り直して次の玉子を割る。ぐしゃっ。繰り返すこと五回目。さすがに次こそはできるだろうと全員が見守る中、ぐしゃっと無残にも玉子は粉々の殻と共にテーブルの上に落ちた。
「エリザベス様って不器用なんですねぇ。」
サラがボソッと呟いた。
「・・・」
エリザベスは粉々になった殻がついた両手をじっとみつめた。
サラは、はっとしてアワアワと両手をばたつかせて、慌てて言った。
「あぁぁ!ごめんなさい!!王女様ですものねっ!料理なんてできなくて当然ですよねっ!」
「・・・わたくし不器用なのです…」
エリザベスはしゅんっとして眉を下げた。
「大丈夫!できるようになるよ!」
フェリシアはにっこり笑って、エリザベスの背中を撫でた。
「誰だって最初はできないものだよ。次の作業をしよう。」
「えぇ。」
エリザベスは何とか笑顔を作った。
フェリシアは材料を混ぜ合わせ、鉄板の上にできた種をスプーンで落としていった。
「スプーンを二つ使って、大体同じ量になるように鉄板に落として、並べていってね。焼くと広がるから、少し離して…こんな感じね。さぁ、やってみて!」
フェリシアは鉄板を一つずつ渡し、スプーンを二つずつ三人に渡した。三人はフェリシアの見本を見ながら種を落とし並べていった。サラとシルビアは最初のうちは均等な量の種を落とすことができなかったが、作業を進めるうちに大体同じ量を均等に並べることができるようになった。
「まぁ、落ちませんわ。んんー次ですわ。」
エリザベスはぶつぶつ言いながら夢中になって取り組んでいる。エリザベスをよく見るとスプーン以外に指先や袖口、鼻の頭や頬に種がついている。鉄板の上は不規則に大小の山が散らばっていた。
フェリシアはエリザベスを見て、ふふっと小さく笑った。作業が終わったシルビアとサラもエリザベスの様子に気が付き、ふふふっと笑った。エリザベスは集中しすぎて、気が付かなかった。
「!できましたわぁ!」
にっこり笑顔で顔を上げたエリザベスは、初めて他の三人が自分を見てニコニコしていることに気が付いた。
「どうされましたの?」
エリザベスは頬に手を当て、首を傾げた。
「あはははぁ!」
「ふふっ!」
「…ふっ。」
堪えきれずにフェリシア達は笑い出した。
エリザベスはキョトンとしている。フェリシアは笑いながら鏡を渡した。
「見てみて。」
フェリシアは自身の鼻の頭を指でツンツンとつついて言った。エリザベスは言われたとおりに鏡を覗き込んだ。
「まぁっ!」
「はい、使って。」
フェリシアはハンカチを渡した。エリザベスは鏡を見ながら顔を拭いた。
「お恥ずかしいですわ。」
「ふふっ、普段おしとやかで何でもこなすエリザベスの意外な一面を見たよ。」
しゅんと肩を落とすエリザベスに揶揄うようにフェリシアは言った。
「かわいいって思っちゃった。」
「本当にかわいいっ、あっ、ごめんなさい。不敬でしたよねっ?」
オタオタしながらサラは言った。。
「エリザベスはかわいいよな。」
シルビアは口元を押さえ、肩を震わしていた。
エリザベスは見る見る間に頬を赤く染め、両手で自身の頬を包んだ。
「・・・かわいいって…」
「本当だよ。エリザベスって王女様でいつもは大人びて見えるけど、今日のエリザベスは同じ年のちょっと不器用な女の子って感じ!かわいくて、きゅってしたくなるよ!」
「殿方的反応だな、フェリシア。」
シルビアはフェリシアをからかった。
「だって、かわいいもんはかわいいんだよ。」
フェリシアは頬をぷくっと膨らませ口を尖らせた。四人は顔を見合わせ、笑い出した。
「ふふっ、さぁ、焼きましょう。」
暫くみんなで笑った後、フェリシアは鉄板を持ってオーブンに向かった。




