123. ソルティア⑮ あきらめてください
「俺は何でこの馬車に乗ってしまったんだろうな。」
エリックは自身の額に手を当て腰を折ると、大きくため息をついた。
「もう諦めて。あと少しの我慢だから。」
エリックの向かいでヴィルノアにお膝抱っこされ、ぎゅっと抱え込まれたフェリシアは投げやりに答えた。
ヴィルノアはフェリシアの肩口に頬を摺り寄せ言った。
「行先は一緒ですよ、兄上。僕はシア不足解消中だから、気にしないで。」
フェリシアは無意識のうちにヴィルノアの頭を撫でていた。
「フェリシア、ヴィルを甘やかしすぎじゃないか?」
「そう?」
「そう、じゃないだろう。所構わずいちゃついて・・・俺がいるんだ。それ以上はやめてくれ。」
「・・・テオ兄上はみんなの前でシアにキスしてもらって、抱きしめて、シアに・・・シアにキスしていたんだ。」
「テオ兄様は兄様だよ。ノアは・・・私の大切な婚約者で、だ、大好きなこ、恋人だよ。」
フェリシアは頬を赤く染めた。
「・・・うん。」
ヴィルノアはフェリシアの頬に手を当てた。フェリシアは擦りっと頬を寄せて言った。
「ねっ、機嫌直して。」
「・・・うん。そうだ。シアに渡したいものがあったんだ。」
ヴィルノアは胸ポケットからブレスレットを出し、フェリシアの左手につけた。ブレスレットは銀でできており、全体に小花と蔦が配されていて中央にリスと猫のチャームがつけられていた。小花は小さなサファイアの花弁とダイヤモンドの花芯でできていた。そしてチャームのリスは小さなサファイアを、猫は小さなシトリンをそれぞれが持っていた
「かわいい。」
「うん。シアをイメージしたんだ。」
「ノアが作ったの?ああ、だからリスと猫なんだ。」
「うん。デザインしたのも成形したのも僕だよ。自分で作ったものをシアにあげたかったんだ。ほら、前にサファイアのくず石、欠片をあげたでしょう。シアがきれいなのにもったいないって言うから、何かに使えないかって言うから、少し研磨してアクセサリーにしてみたんだ。」
「ああ、兄上が言っていたヴィルに任せた新規事業ってこれか。いいな。小ぶりで、普段使いにしたらいいな。フェリシアに似合っている。」
「うん。シアに似合うものを考えたんだ。」
「ああ、いいと思う。だがこの色は・・・ヴィルの独占欲丸出しだな。」
「サファイアの色は僕の瞳の色だってシアが言ったんだ。きれいだって。だからサファイアをメインに所々シアの瞳の色、シトリンを入れたんだ。花芯はダイアモンドだよ。シアをイメージしたリスにはサファイアを、僕をイメージした猫にはシトリンをそれぞれ持たせたんだ。どれも欠片を少し研磨しただけの物なんだ。それでもきれいだよね。」
「確かにこれなら商品として成り立つな。ヴィルの瞳の色か・・・俺も同じだな。」
「兄上もエリザベス王女のための何かをデザインしてみる?王女の瞳は青紫だからタンザナイトとかどう?タンザナイトの欠片もあったよ。こうやって小さめのブレスレットにすれば、制服にも合うよ。ああ、ペンダントもいいよね。でもブレスレットの方が、いつでも目に入って、見る度に兄上を思い出してくれるからいいよね。」
「いいな・・・。」
「デザイン画を描いてもらえれば僕の事業に参加予定の職人に作ってもらうよ。とても腕のいい職人だよ。あと使う石も自分で選ぶ?特別感があっていいよね。」
「いいのか。」
「うん。今ちょうど試作品とか作っているから、そこにねじ込むよ。そうだ、オーダー見本にしていい?王子から王女への贈り物って感じで展示してもいい?」
「それは構わない。・・・ヴィル、王城まであと5分くらいだよな。俺は無性に外の景色を見たくなった。今から俺は外を見る。」
エリックは窓に近づき、外を眺め始めた。
「ありがとう。兄上。」
ヴィルノアはそう言うと、エリックの行動に首を傾げるフェリシアの頬に手を添えた。
「シア、大好き。」
「うん、知って・・・。」
フェリシアが言い終わる前にヴィルノアは優しくフェリシアの唇に自身の唇を重ねた。フェリシアは驚いたように目を見張ったが、すぐに目を閉じた。ヴィルノアは短い時間で唇を離し、フェリシアの頬を撫でた。
「大好き、シア。」
「ん-。」
フェリシアは再び口をふさがれた。ヴィルノアはついばむように短い口付けを繰り返した。フェリシアは ヴィルノアにされるがまま口付けを受け入れた。
「シア、大好き。もう、これからは僕だけにして。」
そう言うとヴィルノアはそっとフェリシアの頬にキスをした。
「・・・うん。」
フェリシアはとろんとした目でヴィルノアを見た。ヴィルノアは目を細め微笑んで言った。
「シア、かわいい。大好き。」
ヴィルノアはゆっくりとフェリシアに顔を近づけると、何度目かの口づけをした。
エリックは後ろから聞こえるチュッというリップ音とヴィルノアの甘い言葉に、多少後悔をしたが、ヴィルノアが幸せそうなのでいいかとも思った。そしてエリザベスに贈るジュエリーをどんなものにするか考えることにしたのだった。
王宮に着きエリックはふぅっと息を吐いてから馬車から降りた。
振り向くと真っ赤な顔のフェリシアと、その手を満面の笑みで握るヴィルノアが立っていた。
「フェリシア、真っ赤だな。」
「うぅぅぅ、ごめん、エリック。」
「お前は悪くない。なぁ、ヴィル。」
「真っ赤な顔のシアもかわいい。」
「・・・満足したか、ヴィル?」
「うん。兄上、ありがとう。」
エリックはにこにこ顔のヴィルノアに毒気を抜かれ、ふぅっと大きくため息をついた。
「諦めろ、フェリシア。・・・何だか弟がごめん。」
「!!」
フェリシアは真っ赤な顔を両手で覆うしかなかった。




