120. ソルティア⑬ 仲良しです。
「ヴィルノア様、お待ちしておりましたの。」
そう言うとソルティアはヴィルノアのフェリシアとつながれた腕に手を伸ばした。
ヴィルノアはその手を避けるようにフェリシアを抱き寄せた。
「行こう、シア。」
ヴィルノアがそのまま歩き出そうとすると、ソルティアは二人の前に立ちはだかり言った。
「ヴィルノア様、おはようございます。一緒に教室へまいりましょう。」
ソルティアは無視されたにもかかわらず、フェリシアを抱えていない腕に手を伸ばした。
「触らないでくれるか。君とは顔を合わせたくもない。僕はね、心底君を軽蔑してるし、会いたくもないんだ。君だって分かるよね。ああ、分からないからのうのうと僕に声を掛けれるんだね。今までもはっきり言ってきたけど、もう一度はっきり言うね。
僕はね、シアが世界で一番大切なんだ。そのシアに君はあることないことを言い、中傷した。そして平手打ちをした。
それだけじゃないよね。エリック兄上やエリザベス王女を蔑むような発言もしたね。
君の行為が酷いものだと君も分かっているよね。
僕がシアを傷つけた君を到底許せるわけない。君が王女でなければ、僕は君を剣で切り捨てたいぐらいなんだ。僕のシアが汚れるから二度とシアに顔を見せないでくれるかな。」
ヴィルノアは冷たい目で淡々と言った。ヴィルノアの発する冷気と圧力で、一瞬ソルティアはひるんだが、再び口角を上げ言った。
「ヴィルノア様、なにか誤解されていますわ。確かにそこの女を叩きましたけど、そこの女が悪いのですわ。王女であるわたくしに無礼なことを散々言うのですもの。叩かれて当然ですわ。」
「そこの女、ね。シアはこの国の公爵家の令嬢であり、僕の婚約者だ。いくら王女でもそこの女呼ばわりしていい相手ではない。まして叩いていい相手ではない。そんなことも分からないのか?」
「ヴィ、ヴィルノア様・・・。」
ソルティアが何かを言おうとしていたのを遮って目に怒りを称えたヴィルノアは言った。
「あのさ、名前で呼ばないでくれる。僕は君に名前を呼ぶ許可を与えていないよね。不愉快だ。二度と顔を見せないでくれ。」
フェリシアはヴィルノアの袖をくいっと引っ張った。
「ねぇ、ノア言い過ぎだよ。」
ヴィルノアは穏やかな表情になって言った。
「そんなことはないよ。言い足りないくらいだ。」
「んー、もういいよ。ノアとこうしてるんだもの。もういいよ。それに・・・関わりたくない。行こうよ、ノア。」
そう言うとフェリシアはヴィルノアの胸元に顔を摺り寄せた。
ヴィルノアはフェリシアの頭を撫でて言った。
「そうだね。もう関わりたくないし、シアを関わらせたくないね。シアにノアって呼んでもらえてるし、シアはかわいいし、うん、かわいい、シア。」
「ありがとう。さっきまた腕を絡められてたら、意地悪してたかも、だよ。」
「絶対嫌だ。あれが一番こたえたんだ。」
「・・・私もあれは言った後でちょっと嫌な気持ちになったんだ。ノアが遠い人になったみたいで・・・悲しくなったの。でも意地悪してちょっとすっきりしたのも事実なんだよね。エリックにも怖いって言われたんだ。私って悪女の素質があるのかも。」
「シアは悪女にはなれないよ。シアはお人好しだから、意地悪言っても嫌な気持ちになっちゃうでしょう。悪女なら意地悪が快感になるはずだよ。それにあれはあんなこと言わせた僕が悪いんだ。シアの笑顔を守るのは僕の使命なのに・・・。」
ヴィルノアはしゅんとした顔になった。
「使命って大袈裟だよ。いつもノアには優しくしてもらっているよ。それに、あれは、その・・・単なるやきもちだから私が悪いんだよ。八つ当たり、みたいなことしたんだもの。子供みたいでしょう。」
ヴィルノアはぱっと嬉しそうな笑顔になって言った。
「やきもち嬉しいって言ったら、シアは怒るかな。シアのやきもち、嬉しい。」
「ノア、おかしいよ。・・・嬉しいじゃなくて、困る、じゃないの?」
「そんなことない。嬉しいだよ。」
「私は子供っぽくて、自己嫌悪だよ。」
「子供っぽくなんてないよ。シアが僕を好きって言ってくれているようなものでしょう。好きじゃなければやきもちなんて妬かないよね。だから嬉しいだよ。シアは嫌な気持ちになるかもだけど、妬くときはめい一杯妬いていいよ。そうしたら僕は妬く必要はないよ、って言うから。僕はシアが好き、シアしかいらないって言うから。シアがもうわかったって言うまで伝えるから。」
「ありがとう、ノア。またやきもち妬いちゃったら、その時はよろしくね。」
「うん。任せて。シア、大好き。」
「うん、知ってる。」
「行こうか。教室まで送るよ。」
「うん。ありがとう、ノア。」
ヴィルノアは再びフェリシアの手を握り指を絡めた。
二人は顔を見合わせ微笑むと、ゆっくりと教室に向け歩き始めた。
ソルティアはヴィルノアからきつい言葉を浴びせられただけではなく、まるで自分の存在がないかのようにいちゃつくヴィルノア達を見て、顔を真っ赤にして唇を噛んだ。そしてキッとフェリシアを睨みつけると校舎の方へと足早に去って行った。




