119. ソルティア⑫ 仲良し?
「シア、隣に座ってもいい?」
馬車に乗るとすぐにヴィルノアはフェリシアに聞いた。
「うん。いいよ。」
フェリシアと肩の触れ合う距離にヴィルノアは腰かけた。そしてヴィルノアはフェリシアの膝の上に置かれたフェリシアの手を優しく自身の両手で包んだ。。
「シア、改めて謝らせて。ごめんね。もっと早くシアに会うべきだった。」
ヴィルノアは眉を下げしゅんとした顔で言った。
「シアを不安にさせる気もなければ、ましてあの王女に心移りなんてありえない。嫌な思いをさせてごめんね。」
フェリシアは首をゆっくり横に振った。
「うん。兄様達に聞いたわ。私も意地悪をしてごめんね。」
フェリシアはヴィルノアの頭を撫でた。ヴィルノアは気持ちよさそうに目を細めると、フェリシアの肩に顔を摺り寄せた。
「私ね、毎日、ノアに手紙を書いたの。でも返事が来なくて・・・直接聞こうかなって思ったんだけど、なかなか会えないし、仕事の邪魔をしたくなかったし・・・それなのに、遠目に見かける度にあの王女に腕を絡めさせてて・・・久々にノアの顔見たら嬉しかったのにどうしても意地悪がしたくなっちゃって・・・ノアに嫌な思いをさせました。ごめんなさい。」
ヴィルノアはフェリシアの肩に顔を寄せたまま、首を横に振った。
「あの女、振り払っても、嫌だからやめろって言っても何事もなかったようにまとわりつくんだ。学園からの依頼だったから、我慢して二週間過ごしていたんだ。あんな女だから、シアに会わせたくなくて、食堂にも行けなくなったんだ。僕の行くとこ行くとこあいつは現れるんだ。もし僕が食堂に言っていたら、あの女も来てシアを不愉快にすること間違いなしだったよね。とにかく必要以上接触しなくて済むように、バルトとあちこち彷徨っていたんだ。シアに会いたいのに会えなくて、シア不足で死ぬかと思った。」
ヴィルノアはフェリシアの腰に手を回して言った。
「二週間が終わってやっとシアに会えるって、食堂に行ったらあんなことになって・・・僕のせいだよね。シアに不愉快な思いをさせたのも、頬を叩かれたのも。痛かったよね。ごめん。本当にごめん。」
フェリシアはヴィルノアの頭を撫でて言った。
「ノアのせいじゃないわ。悪いのはあの王女でしょう。それなのにノアに意地悪をした私は大人げなさすぎ。私こそごめんね。」
「シアは悪くない。」
「ふふ、じゃあ二人とも悪くないってことでいい?」
「うん。」
「ノアのこと信じていたよ。」
「シアが僕の気持ちを疑ったことないって言ってくれたって聞いて、すごく嬉しかったんだ。」
「だって、だってだよ。毎日のように好きって言ってくれて、こうやって態度でも示してくれて・・・疑う方が無理だよ。それとも、ノアは少しぐらい疑ってほしかった?」
「ううん、疑われるのは嫌だよ。僕はずっとシアが好き。大好き。シアだけだよ。」
「うん。知ってる。」
「シア、大好き。信じてくれてありがとう。」
「うん。好きになってくれてありがとう、ノア。私もノアが好きよ。」
「嬉しい。ありがとう、シア。大好き。」
ヴィルノアはフェリシアの背中に手を回し優しく抱きしめた。
フェリシアもヴィルノアの胸に頬を摺り寄せた。
「かわいい。シア、大好き。」
スカイ公爵家のタウンハウスから学園までの30分ほどの馬車旅の中、会えなかった時間を埋めるようにとりとめのない話をし続けたのだった。
学園に着くとヴィルノアはフェリシアの手を取り、指を絡め上機嫌で教室に向かって歩き出した。
柔らかく微笑むヴィルノアに女生徒たちは息を飲んだ。
また、指を絡められ頬も耳も赤く染めつつはにかむフェリシアに男子生徒の目は釘付けとなった。
「シアと登校するの初めてだね。」
「王宮から直接来た方が早いもんね。今日は遠回りしてくれてありがとう。早く出なければならなくて大変だったよね。」
「全然。早く出ることでシアと登校できるなら、いくらでも早く出るよ。」
「ノアって朝強いの?」
「うーん、強くはないかな。でも目的があれば別かな。」
「それなら、明日からはいつも通り別々で登校ね。ちゃんと休んで欲しいからね。」
「・・・一緒に行きたい。」
「だめ。私を迎えに来るために少なくとも一時間は早く起きないといけないでしょう。ただでさえ、ノアって何かに夢中になると夜もあんまり寝ないでしょう。また小さい頃みたいにノアが体壊したら嫌だもの。だからだめ。」
「・・・分かった。我慢する。」
「うん。いい子ね。」
フェリシアは背伸びをしてヴィルノアの頭を撫でた。ヴィルノアは目を細め嬉しそうに微笑んだ。
「背、伸びたね。」
「うん。まだ伸びると思うよ。膝とか痛いもん。」
「うわ、そうなんだ。いいことなんだけど、届かなくなっちゃうね。頭撫でれない。」
「うん。そうだね。でも背伸びすればここは届くでしょう。」
ヴィルノアは自身の唇をトントンと指でつついた。
フェリシアは真っ赤になって目を逸らした。
「・・・ノアのえっち。」
「・・・シア、かわい過ぎ。」
ヴィルノアも頬を赤らめた。
「ヴィルノア様!」
誰もが二人のやり取りを静かに見守る中、ひときわ甲高い声が響いた。声の主は赤い髪を揺らし走って二人に近づいてきた。




