117. ソルティア⑩ 薬
「今、執事のハインツに聞いてきたところ、ハインツは’フェリシアの手紙を受け取った後すぐに下働きのポリーに王宮に届けるよう手配していた。ポリーは馬を操れるから、早く届けることができるからだそうだ。ポリーは王宮に着くと門番のティノに手紙を預けたそうだ。毎回、ティノが門番として立っていて、毎回彼が手紙を預かると言ったので預けたそうだ。王宮の門番ということで信用したらしい。で、ティノに話を聞くためハインツとポリーが王宮に向かっている。」
「ありがとう。ハインツ待ちだね。」
「ああ。」
「それにしても門番が王子の婚約者からの手紙を預かるなんて変な話だよね。」
「あまり聞かないな。」
「執事という身分だと調査は難しいかな。私たちが言った方が早いかな。」
「そうだな。行くか。」
二人は顔を見合わせ頷き合った。
テオドールはフェリシアに向かい苦笑いを浮かべて言った。
「という訳で私たちは王宮に行くよ。けど、その前にフェリシアにお願いがあるんだ。ヴィル君に手紙を書いてやってくれないか?フェリシアにヴィルノア殿下って言われたことが相当こたえたみたいで、使い物にならないくらい落ち込んでいるんだよ。だから一言二言のメッセージでかまわないから、何か書いてやってくれないかな。私が責任もって届けるから、ね。」
「・・・はい。兄様。ごめんなさい。ご迷惑おかけしてしまって・・・。ノアも大事な仕事を任されているんですよね。」
「まぁ、そうだね。そのことはいいんだよ。ヴィル君、酷く落ち込んでいて見てられないんだ。それにね、ヴィル君、フェリシアの一言があればすぐ復活すると思うよ。ヴィル君だから、ね。」
「はい。今すぐ書いてきます。」
フェリシアは部屋からバタバタと出て行った。
「ああ、フェリ、淑女なんだから、もっと静かに、って、聞こえないか。」
ジルベールが頭を抱えた。テオドールははははっと笑って言った。
「フェリシアらしいよね。という訳で、私たちは王宮に行くけど、アゼリア嬢も帰るでいいかな。送っていくから。」
テオドールは王子スマイル全開で尋ねた。
アゼリアはこくんと頷き、頭を下げた。
「はい。もう、今日は遅いですし帰ります。今日は無理を言って連れて来ていただきありがとうございました。」
「どういたしまして。フェリシアはいい子だから、きっとアゼリア嬢も気に入るよ。いい友人になれるんじゃないかな。今回の件が片付いたら、お茶会でもしようね。ヴィル君やエリック、エリザベス王女も紹介したいしね。」
「嬉しいです。是非、お願いします。」
二人はにっこり微笑みを交わした。
そうこうしているうちにフェリシアは一通の手紙を持って戻ってきた。
「テオ兄様お願いします。」
「安心して。必ず届けるからね。」
そう言ってテオドールは手紙を受け取り、フェリシアの頭を撫でると、王宮に戻って行った。
王宮に着くとジルベールは執事たちと合流した。
テオドールは、先にヴィルノアの私室を訪れた。ノックをしてテオドールが入ると、制服のままソファーにだらしなく座るヴィルノアが居た。元気なく呆けた様子でヴィルノアは言った。
「ああ、兄上。どうしました?」
「・・・ヴィル君、学園から帰ってきてずっとそのままかい?」
「・・・はい。兄上、何もやる気が起きません。」
「うん、そのようだね。困ったね。でもね、お兄ちゃん、そんなヴィル君に元気の出る薬をもらってきたんだよ。」
テオドールはフェリシアからの手紙を取り出した。
「それが薬ですか?」
「うん。ヴィル君にしか効かないフェリシアからの手紙っていう薬だよ。」
「えっ、シアの・・・。」
「今さっき、書いてもらってきたんだよ。お兄ちゃん、頑張ったでしょう?」
ヴィルノアは手紙を受け取ると几帳面な字でフェリシアよりと書いてあった。
「兄上、ありがとう!」
ヴィルノアははやる気持ちが抑えられず、すぐに開封した。
ノアへ
今日は大人げない態度を取ってごめんなさい。
大好きよ。
信じている。
想いを込めてフェリシアより
短い手紙をヴィルノアは何度も読んだ。
その様子を見ていたテオドールはくすっと笑って言った。
「ジルも来ているから返事を書くなら早くしてね。私はジルと少し調べ物をしてくるから、書けたら持ってきてね。」
「はい!今すぐ書きます。兄上、ありがとう。」
ヴィルノアは急いで机に向かい手紙を書き始めた。
夜になって、ジルベールが帰宅すると、玄関ホールでフェリシアがジルベールの帰宅を待っていた。
「おかえりなさい、兄様。何か分かりましたか?」
「ただいま、フェリ。いい子にしてたかい?顔色があまり良くないね。今日は早く休むんだよ。王宮の方はまだ混乱しているけど、早くに分かりそうだよ。あとフェリにヴィルノア殿下から手紙と伝言を預かってきたよ。ヴィルノア殿下が明日迎えに行くから一緒に学園に行こうって伝えてほしいと。あとこれは殿下からの手紙。」
ジルベールは胸ポケットから一通の手紙を取り出した。
フェリシアはぱあっと笑顔を浮かべて手紙を受け取った。
「兄様、ありがとう!」
そう言って、フェリシアはバタバタと急ぎ足で自室に戻って行った。
「フェリ、淑女ならもう少し静かに行動しなさい、って聞いていないな。」
ジルベールは大きくため息をついた。




