116. ソルティア⑨ 二人の手紙と伝言
フェリシアはエリックの勧めもあり早退し、屋敷に戻った。
そして部屋では晴れた頬を冷やしつつ、お茶を飲んだり、うとうとしたりとゆっくりとした時間を過ごした。そうこうしているうちうちに夕方となり、ジルベールが応接にフェリシアを呼んだ。
フェリシアが応接室に入るとジルベールとテオドールの二人に加え、見知らぬ女性がソファに腰かけていた。
「フェリシア、こちらに座りなさい。」
ジルベールは隣の席を示した。
「はい。」
フェリシアはジルベールの隣に腰かけた。ジルベールはフェリシアの頬を撫で、眉間にしわを寄せた。
「まだ赤いな。」
「遅くなってごめんね。エリック達からこれまでに起こったことを聞いたよ。うーん、ここからでもまだ頬が赤いの分かるね。痛くはない?」
テオドールは心配しきりといった様子で聞いた。
「はい、大丈夫です。ご心配をおかけしました。」
「うん。顔色は昼間よりいいね。良かった。ああ、こちらの女性はカルマ王国の第一王女のアゼリア嬢だよ。つまりソルティア嬢の姉だ。アゼリア嬢、ジルベールの隣に座っているのがジルの妹のフェリシアだ。私の弟、第三王子ヴィルノアの婚約者だよ。」
「スカイ公爵家が長女、フェリシアと申します。お初にお目にかかります。」
フェリシアは立ち上がりスカートを摘まみ挨拶をした。
「フェリシア様、初めまして。アゼリアです。この度は妹のソルティアがご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。」
アゼリアも立ち上がり胸に手を当て、頭を下げた。
フェリシアは慌てて、手を振り言った。
「頭を上げて下さい。アゼリア王女殿下に頭を下げて頂くことなどないのです。どうか頭をお上げください。」
「まあ、まあ、取り敢えず二人とも座ろうか。」
テオドールがにっこりと着席を促した。
「はい、テオ兄様。」
「ありがとうございます、テオドール殿下。」
二人が席に着くと、ジルベールはメイドに新しくお茶を用意させ、人払いをした。
「フェリシア、今回は大変だったね。事が事だけにアゼリア嬢に全て話してあるよ。それでね、エリック達やヴィル君の話を聞いていくうちに、いくつかおかしな点が見つかったんだよ。」
「おかしな点ですか?」
「そうなんだ。ところでフェリシア、ヴィル君からの手紙は届いてるかい?」
「手紙ですか?冬休み中は兄様が届けて下さりました。学園が始まってからは一通ももらっていません。それっておかしいんですよ。ノアはマメな人で、私が手紙を送ると必ず返事をくれたんです。学園が始まってからほぼ毎日、手紙を送っているのに、一回も返事をくれないんです。その事を聞きたかったけど、学園でも会えなくて・・・。テオ兄様も変だと思いませんか?」
「んー、ヴィル君がフェリシアに返事をしないってありえないよね。」
「ヴィルノア殿下ですからね。」
テオドールとジルベールは顔を見合わせ頷き合った。
「フェリシアは誰に手紙を頼んだんだい?」
「執事のハインツです。」
「ジル。」
「分かった。」
ジルベールはさっと立ち上がり部屋を後にした。
テオドールはフェリシアに顔を向けると穏やかな口調で話し始めた。
「実はねフェリシア、ヴィル君は学園が始まってからというもの毎日君に手紙を送っていたんだよ。というのもね、ソルティア王女の世話係や新規事業の立ち上げの責任者の仕事が忙しくてフェリシアに会えないからだったというんだ。」
「・・・何ももらっていません。」
「そのようだね。それにヴィル君もフェリシアからの手紙は受け取っていないんだ。その代わりにフェリシアからの伝言は受け取っていたらしい。王宮の侍女が毎日伝えてくれたと言っていたよ。」
「えっ、私伝言なんて・・・ええぇ。」
「そうなんだよ。おかしいだろう。そこで王宮に戻ってジルと調べてみたんだ。伝言を伝えてきたのはシリア伯爵家の長女エミリ嬢だった。彼女に聞いたところ、妹のリリア嬢がフェリシアと仲が良く、姉が王宮で第三王子付きの侍女だからと伝言を託されてきているのだと言っていたよ。エミリ嬢は妹がかなりフェリシアと仲が良いと思っていたよ。フェリシアとヴィル君の中も知っていたから忠実に伝えていたようだったね。」
「私、エミリ様とは王宮でたまに会うと少しお話しする程度です。妹のリリア様は今日初めてお会いしました。」
「うん。そうだよね。伝言を託す仲じゃないよね。」
「はい。お会いしたこともなかったので・・・そもそも伝言って何ですか?」
「聞いたところによると『おやすみ、大好き、ノア』『愛してる、ノア』とか仲睦まじい、愛の言葉ばかりだったようだよ。」
フェリシアは顔を真っ赤に染め言った。
「そ、そんなこと言いません!」
「んっ、そうなの?たまにはヴィル君に言ってあげてね。」
テオドールは楽しそうに言った。フェリシアは両手で頬を覆い、こくんと頷いた。
「あと手紙のことなんだけど。ヴィル君はエミリ嬢に頼んでいたみたいなんだよ。妹がフェリシアと仲が良いなら確実に渡るだろうって思っていたみたいなんだ。エミリ嬢は妹に渡していたと言っていた。そこでリリア嬢に話を聞きたかったんだけど、相手はまだ学生ということもあってシリア伯爵に話を通す必要があってね、話したところ、伯爵もかなり焦られてエミリ嬢を連れて帰ってしまわれたんだ。事実確認を娘にして、明日報告すると言ってね。内内に調査したかったんだけど、王子の手紙紛失だからね、そうもいかなくなってきているんだ。だからヴィル君の手紙の行方とフェリシアの伝言については今日はここまでね。分かり次第伝えるからね。」
「はい、お願いします。」
「さて、そろそろかな?」
そうテオドールが言うと、タイミングよくジルベールが戻ってきた。
「待たせたか?」
「いや、とても良いタイミングだよ、ジル。」
ジルベールはソファーに腰を掛けると、覚めた紅茶をくいっと飲み、話し始めた。




