115. ソルティア⑧ 意地悪がしたいの
「ああ、そういえばなんでさっき久々に会ったヴィルにあんなこと言ったんだ。」
エリックは首を傾げた。
フェリシアも首を傾げて聞いた。
「あんなことって?」
「ほら、ヴィルノア殿下って。フェリシアはノアって前から呼んでいるだろう?初めて会った時から数えるほどしかヴィルノア殿下なんて呼んだことないだろう。だからだろうな、ヴィル、固まって動かなくなっていたぞ。」
「ふふっ・・・憂さ晴らし?うーん、いじわる?八つ当たり?・・・そんな感じかな。」
「なんだぁ、それ。お前まだ何か怒っていることがあるのか?」
「ふふっ、エリックは何でもお見通しね。」
フェリシアはスンと無表情になると、静かに話を続けた。
「・・・簡単に腕を絡ませるノアが悪いのよ。あんな胸を押し当てるように・・・14,5のくせに、女の武器と言わんばかりに体押し当てて・・・そんなことを一瞬でも許したノアは駄目な婚約者だと思うでしょう、ねぇ、エリック?」
「・・・女は怖いな。今のお前かなり怖いぞ。顔つきも声色も、何よりお前のまとう空気が怖い!」
「ふふっ、そう?エリックも気を付けてね。エリザベスは私の比じゃないわよ。」
「・・・俺も気を付けるよ。」
「そうね。その方がいいわね。」
「ああ、そのようだな。」
エリックは小さく身震いをした。
「たださぁ、それって嫉妬したようにも聞こえるな。」
「あら、気付いちゃった?」
フェリシアは目を泳がせて、頬を赤く染めた。
エリックは目を細め微笑んだ。
「フェリシア、かわいいな。ヴィルに嫉妬したんだって言ってやれよ。」
「うー、今は嫌っ!ノア見ると意地悪したくなっちゃうもん。」
「もう、充分意地悪しただろう?ヴィルノア殿下って呼ぶ前に、兄上に抱きついてキスしてたじゃないか。ヴィルの奴、すごい形相になっていたぞ。」
「ふふっ、ノアにもうテオ兄様に抱きついてキスしないでって言われてたのよね。」
「それなのに、なぁ。いいのか?」
「なにが?」
「ほら、そんなことしてヴィルに嫌われたら、とか思わないのか?」
「えっ、嫌われる?ノアが私を嫌いになる?」
「考えなかったのか?ヴィルの嫌がること二連発だぞ。嫌われる覚悟がなくてはできないだろう?」
「そうかぁ、そうだよね。意地悪したら嫌われるよね。嫌われちゃったかなぁ。嫌われたよね。ど、どうしよう、エリック。ノアに嫌われっちゃった。」
フェリシアは泣きそうな顔になった。
エリックは苦笑いをして言った。
「フェリシアも変わったよな。嫌われたくないなら、あんなこと言わなければよかったじゃないか。しかもろくに話もせずにヴィルの前から立ち去っただろう。」
「うん、そうなんだけど、あの時は意地悪したい気持ちでいっぱいだったの。あんな女、あらっいけない、王女にボディタッチされまくってたくせに、ノアは何も言ってこないし、会いにも来ないのよ。冬花祭前はべったりくっついてきたのに。冬休みもほぼ毎日手紙をくれてたのに。あの王女の世話係になってから何にも無しで、二人がくっついているとこ見せられて・・・意地悪したくなるのも分かるでしょう?」
「まぁ、言いたいことは分かるよ。でも、ヴィルがフェリシアに二週間も接触してこないなんておかしいじゃないか。話し合うべきじゃないか?」
「うーん、そうなんだけどねぇ。今は無理かな。冷静になれない気がするし、ノアに優しい気持ちになれないよ。嫌われても仕方ないかなぁ。どうしよう、エリックぅ。」
「ははっ、あの王女に自信満々に言っていた奴が、何言ってんだよ。何が起ころうと、ヴィルがフェリシアを嫌うことなんてあるわけないだろう。分かっているんだろう?」
エリックはにやっと笑って言った。
「ヴィルのお前に対する執着はフェリシアが考えている以上のものだぞ。婚約できた今、絶対ヴィルはお前を手放さない。俺が保証する。」
フェリシアは顔を赤らめて言った。
「うん、知ってた。」
「そうは言っても、ヴィルの奴、相当こたえていたからフォローはしといたほうがいいぞ。」
「うん。でも今日は無理。会いたいけど、また意地悪しちゃいそうなんだもん。ノアが私を嫌うことがないなら後日フォローにしようかな。今日は会うのは我慢かな。」
「ははっ、それでもいいんじゃないか。意地悪してこじれるくらいなら、気持ちを落ち着けてからでいいんじゃないか。それに、あんまり寝てないんだろう。今日はもう帰ってゆっくり休めよ。」
「うん、そうしようかな。なんだかんだ言ってノアのこと気になってここの所眠れなかったんだよね。テオ兄様が後で来て下さるから、少し寝てから落ち着いて話そうかな。」
「兄上は実の弟の俺達よりフェリシアをかわいがっているよな。」
「ふふ、テオ兄様大好き。」
「まぁ、そうなるよな。兄上達に、こちらのことは俺が任せろと言っていたと伝えてくれ。今は話してだいぶ気持ちが落ち着いただろう。ゆっくり休めよ。」
「うん。ありがとう、エリック。大好きよ。」
「ああ、俺も好きだ。」
「いつまでも友達でいてね。」
「ああ、フェリシアもな。」
二人は微笑みを交わした。




