114. ソルティア⑥ 行方不明の手紙
「何で、王女のこと、フェリシアに言わなかったんだ?ヴィルが世話係になったとエリックから聞いたときに、フェリシアが何も聞いていないと言っていたぞ。」
シルビアはヴィルノアに聞いた。
ヴィルノアは喉の奥から声を絞り出すように言った。
「・・・なかなか会えなかったから僕は手紙を書いたんだ。手紙で暫く王女の世話係を頼まれたから忙しくなることと、シアに会わせたくないことを書いた。あの王女はシアに害をなす存在に思えたから。
僕は、学園側から他国の王女が留学してくるからその世話をして欲しいと頼まれ引き受けた。テオ兄上も引き受けたと聞いて、それも王族の務めなんだと思ったから。
僕が世話を頼まれた王女は、僕のことが気に入ったらしく朝も休み時間も昼も放課後も、とにかく引っ付いてくるんだ。婚約者が僕にはいるから触らないでくれと言っても、何かにつけて腕を絡めたり、抱きついたりするんだ。迷惑だと言って振り払っても聞いてくれない。あまっとろい話声で、すり寄ってくる。何度止めてくれって言っても聞いてくれない。そんな女をシアに近づけたくないだろう。僕の行くところ行くところに現れるから、シアの傍に行けなくて。
しかも彼女は姉君と共に王宮の長期滞在用の客間を使っているんだ。うっかり王宮で会うと、またすり寄ってくる。もう、いやでいやで王宮では自室にこもっていたし、学園では最低限の接触だけにして逃げ回っていたんだ。
だから手紙を書いた。冬休みの時のように毎日書いたよ。」
シルビアとエリザベスは顔を見合わせ首を傾げた。
「フェリシアも手紙を毎日のように書いていたらしいのですが、返事が来ないと言っていましたの。」
「ああ、不思議がっていたな。ノアが返事をくれないなんて、と言っていた。」
「僕はシアから手紙を一通ももらっていない・・・。」
「おかしいな。おかしいと言えばなんでフェリシアからの返事がなかったのにヴィルは何の対応もしなかったんだ?ヴィルなら返事がなければ何かしらの行動に出るだろう?」
シルビアは首を傾げて聞いた。
ヴィルノアは口元を押さえて、目を泳がせた。
「伝言があったんだ。ほぼ毎日、王宮の侍女が伝えてきたんだ。」
「ああ、言ってたね。昨日もシアから伝言があって、こう言われたああ言われた的なことを、毎日のように言っていたよね。だからフェリシア様に直接会えなくても腐らなかったんだよな。」
バルトはうんうんと頷いた。
「何と伝えてきたんだ?」
「・・・。」
「あ~僕が聞いたのは、『ノア大好き、おやすみなさい』とか『一緒に居たいけど我慢するね』とか『ノア、愛してる』とかですかね。」
またまた止まってしまったヴィルノアに代わり、バルトが答えた。
「それはおかしいな。フェリシアは照れ屋だから、よっぽど気を許した相手にしか惚気話はしないぞ。私たちにすら、顔を真っ赤にしてやっとのことで話すんだ。」
「そうですわよね。おかしいですわよね。ノアが好きなのって言うのに何十分とかかるのに、事務連絡ならまだしも侍女にそんな愛の言葉を託すなんて、ありえませんわ。」
ヴィルノアもこくんと頷いて言った。
「そうなんだ。今、思えばおかしいんだ。冬休みにシアは毎日のように手紙をくれたんだけど、必ず、僕が書いたことに応えてくれていたんだ。シアは律儀でマメな人なんだ。返事をくれないなんておかしいよね。」
「ああ、おかしい。」
「おかしいですわ。」
エリザベスとシルビアもこくこくと頷いた。
「そろそろ、そっちも話しは終わっているかな?」
テオドールが話しかけてきた。
「はい、話し終えています。そこでおかしなことが起こっていることが分かりました。」
バルトはそう答えると、ヴィルノアの手紙がフェリシアに届いていないこと、同じくフェリシアの手紙もヴィルノアに届いていないこと、そして王宮の侍女からフェリシアの伝言があったこと、それがフェリシアではありえない伝言の数々であることをテオドール達に報告した。
「うーん、確かにおかしいね。その件はこちらで調べてみるね。
ヴィル君、取り敢えず何もしないでね。このまま教室に戻って冷静になれないんだったら早退しても構わないから、うん、早退がいいね。フェリシアが平手打ちされたこと聞いてるよね。落ち着いて居ろって言ってもヴィル君のことだから無理だよね。
まぁ、聞く限り相手の方が悪いんだけど、一応相手が隣国の王女だからね。下手なことをして外交問題になったらフェリシアも嫌だろうからね。
バルト君、申し訳ないんだけど、馬車を呼ぶから王宮のヴィル君の部屋まで送ってやってくれる?」
「はい、承知いたしました。」
「うん、迷惑かけるね。ヴィル君、フェリシアが関わるとポンコツになるんだよねぇ。フェリシアのお願いには有能なんだけどねぇ。」
「確かに。フェリに一喜一憂ですよね。ヴィルノア殿下は。」
ジルベールがそう言うと、ヴィルノアはぴくっと肩を揺らし俯いて言った。
「・・・シアが僕をヴィルノア殿下って言ったんです。」
テオドールは目を見開くと、くすくす笑って言った。
「うん、そこが一番ショックだったんだね。よしよし、大丈夫だから。お兄ちゃんに任せなさいね。」
テオドールはヴィルノアの頭を撫でると、ジルベールと食堂を後にした。。




