112. ソルティア⑤ 放してください、ヴィルノア殿下
「フェリシア、大丈夫ですか?」
エリザベスが心配そうにフェリシアを見た。
「おい、冷やした方がいいんじゃないか。」
エリックがそう言う前にシルビアとオスカーが厨房に向かっていた。
フェリシアはボヤっとした顔に戻ると、ぼんやりした声で言った。
「・・・うん。大丈夫だよ。」
「お前、かなり・・・。」
「シア、久しぶり。会いたかった。」
エリックの言葉はにこにこしながら食堂にやってきたヴィルノアによって遮られた。
「会えなくて寂しかったんだよ。」
いつものようにフェリシアの横の席にヴィルノアは腰を下ろした。そしてヴィルノアは、何も言わないフェリシアに首を傾げた。
「どうしたの、シア?」
「フェリシア!」
ジルベールはフェリシアに手を振った。
「兄様!」
フェリシアは立ち上がり、駆け寄ってジルベールに抱きついた。そして、ジルベールの頬にキスをした。
「フェリ、ただいま。この挨拶は久しぶりだね。」
そう言ってジルベールはフェリシアの頬にキスをし、ぎゅっと抱きしめた。
「ふふ、おかえりなさい、兄様。」
「元気にしていたかい?」
キュッとしがみつくようにフェリシアはジルベールに抱きついた。
「あっ、いいな。フェリシア、おいで。」
ジルベールの後ろを歩いていたテオドールは両手を広げた。
「テオ兄様!」
フェリシアはテオドールに抱きつき、少し屈んだテオドールの頬にキスをした。テオドールもフェリシアの頬にキスをして優しく抱きしめた。
「今日の姫は甘えん坊さんだね。何かあったのかい?」
フェリシアの耳元で囁くようにテオドールは言った。
フェリシアはキュッとテオドールの背中に回した手で彼の服を掴んだ。
「ここでは言えない事かな。後で家に寄ろうか?」
フェリシアはこくんと頷いた。そしてテオドールの顔を見て言った。
「テオ兄様、大好き」
「うん、僕は姫の為なら・・・フェリシア、頬、どうした?」
テオドールがフェリシアの頬に手を滑らせた。
その瞬間フェリシアは強く肩を引っ張られ、気付くとヴィルノアの腕の中にいた。
「なんであの挨拶してるの?もうしないでって、言ったよね。」
ヴィルノアは絞り出すような声で言うと、ぎゅっとフェリシアを抱き締めた。そして肩に自身の顔を押し当てた。
フェリシアは再び無表情になり平坦な声で言った。
「放してください、ヴィルノア殿下。」
「えっ。」
ヴィルノアは驚き、とっさに手を離した。
フェリシアはすたすたと自身の席に行き、ほぼ手の付けられていないランチプレートを持ち上げた。そしてヴィルノアの方に向き直り、言った。
「ヴィルノア殿下、私は食事が終わりましたので、お先に失礼します。」
言い終えるや否や、クルリと踵を返しフェリシアは返却コーナーへと歩いて行った。
途中、冷やすための濡れたタオルなどを持ってきたシルビアとオスカーが呼び止めたが、首を横に振ってフェリシアは歩いて行ってしまった。
ヴィルノアは何が起きているのか理解できず、ただただ呆然として動かなくなっていた。
テオドールとジルベールは顔を見合わせ、首を傾げた。
エリックは立ち上がり、焦りながら言った。
「ああ、もう!いいか、オスカーは兄上達に先程のあの王女とのやり取りと、ここ最近のフェリシアについて報告。シルビアとエリザベスはヴィルに同じく先程のこととフェリシアについて話して。バルトも一緒に聞いてくれ。俺は、フェリシアを追う。ごめん。いいかな、エリザベス?」
エリックは指示を出し終えると、エリザベスの側に行って聞いた。
エリザベスはこくんと頷いた。
「早く行ってあげて。フェリシア、きっと今頃泣いているから。」
「いや、それはない。あれは悲しんでるんじゃない。怒っているんだ。本気で怒っている時のフェリシアだ。俺には分る。だてに婚約期間が長かったわけではないんだ。ごめん、エリザベス。行ってもいいかな?」
「謝らないで、エリック。信じてる。」
「ありがとう。」
エリックはエリザベスの頬に口付けをすると、サッサっと食堂を出て行った。
シルビアは固まったまま動かないヴィルノアの肩に手を置いた。
「ヴィル、取り敢えず座れ。」
シルビアがバルトに目で合図すると、バルトは静かに頷き、ヴィルノアの腕を引き着席させた。
「ほら、ヴィル、今から何が起きたか話すからしっかりしろ。聞かないと後悔するぞ。」
シルビアはヴィルノアの頬を軽く叩いた。
「ねぇ、シルビア。僕、シアに何かしてしまったかな?」
ヴィルノアは目を見開いたまま言った。
「それは話を聞いた後で判断しろ。」
「ヴィルノア殿下、しっかりしてくださいませ!フェリシアに何が起きたか、聞いてください。」
「・・・はい。」
エリザベスとシルビアは冬休みが明けてからのフェリシアの様子と、先程の王女とのもめごとについて話した。
そして、フェリシアが平手打ちをされたことを知るとヴィルノアは握り拳をテーブルに叩きつけた。
「まぁ、落ち着け。フェリシアも負けてはいなかったし、少々相手をあおったからな。だからと言ってカルマ王国の王女がやったことは許せないが、な。」
「全くですわ。あの方、何なんですの。同じ留学生として、恥ずかしいですわ!」
エリザベスとシルビアは顔を見合わせ頷き合った。




