111. ソルティア④ そして淡々と
「ああ、そうそう、後ろのお二人はどなたです。初めてお会いするかと思いますけど、名乗っていただけますか。」
公爵令嬢からこう言われて名乗らないでいられるのは王女くらいだ。この国においてフェリシアは貴族の女性トップ数人の一人にあると言えた。指名された二人はびくっと肩を揺らしたが公爵令嬢からの命令ともいえる言葉には逆らえなかった。
栗毛の少女は言った。
「トリト子爵家が次女、サリナと申します。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。」
黒髪の少女も続いた。
「シリア伯爵家が次女、リリアと申します。」
「はい、挨拶ありがとう。トリト子爵様は、御長男のアルノルド様と共に文官として出仕されていますね。シリア伯爵様はご嫡男のハリス様がご結婚されたのを機に爵位をお譲りになって、今は王宮勤めに専念されていらっしゃいますよね。宰相補佐様ですよね。ご長女のエミリ様も王宮の侍女としてお勤めですね。皆様、国の為に力を尽くしてくださっていますね。」
フェリシアはすらすらと二人の家族について挙げた。二人は驚き、そして困惑した。
「父と兄をご存じなのですか?」
「家族は今、関係ありませんわ。」
フェリシアは冷めた目で二人を見て言った。
「関係ない?あなたはもう15歳になっていますよね。15年間、貴族という立場にあり、何を言うのですか。いいですか。この学園において、あなた方はトリト子爵家、シリア伯爵家の代表にあたるのですよ。つまりあなた方の行動は家に関わることなのです。分かりますね。この学園は社会の縮図のようなものなのですよ。あなた方が何か失態を犯せば、あなた方だけではなく家もその責を負うのです。その自覚はありますか?」
「「・・・。」」
「私はこの国の第二王子に嫁ぐということで六年の間、王宮に通い、王子妃教育を受けてきました。ですから各家の方がどんな仕事をされているのかある程度は知っています。当たり前ですよね、王家に嫁ぐのですから。お二人のご家族はしっかりと貴族として、この国のために働いておられます。あなた方はどうです?」
「で、でも、フェリシア様がソルティア様に対して不敬であったことは間違いないですわよね。それが、どうして家の話になるのですか?」
黒髪の少女、リリアが青ざめた顔で言った。
フェリシアは大きく息を吐いて冷めた目をリリアに向けた。
「お分かりになっていないようなので、もう少し分かり易く言いますね。
お二人はこの国の貴族です。つまりこの国に使える臣下の一人なのです。王家はこの国の民が幸せに暮らせるよう尽力されています。つまり臣下である我々もそうあらねばならないのです。ですから国の利益、つまり民の幸福につながることには積極的に行動しても構わないでしょう。しかしそうでもない場合、体を張って止めるか、一人の手に負えない場合はご家族にご相談すべきです。お二人のご家族は立派な方たちです。必ずやいい方向に導くための助言を下さります。
ここまで分かりますね。あなた方はもう15歳なのです。子供ではありませんよね。ご自身の行動が家の評判に、ひいては家の存続に関わっていると理解できましたね。
さてここで考えて下さい。あなた方と一緒にいらしたこちらの方は本当にノア、この国の第三王子に好意を持たれていましたか?私の知る第三王子なら、疎ましく思っていたのではないかと思うのです。
それに、彼女は第二王子のことを侮辱していましたよね。それを聞いていたのに、なぜ何も言わないのですか。あなた方の国の王子が侮辱されたのですよ。よろしいのですか?
そして何より将来この方に王子妃となって欲しいのですか?この方は、この国に迎えたいほどの人格者ですか?私には人のおもちゃを強請り、取り上げようとする幼子と大して変わらなく見えます。15歳でしょうが、ああもしくは14歳ですか、見た目だけで心はちっとも成長していない方に国のトップ近くの女性であって欲しいのですか。第三王子と婚約するということは将来、社交界であなた方は礼を取らねばならない存在で、国の代表として外交などを担ってもらうということなんですよ。他の国の重要な方に誇れる所作でしたか?
いいですか、よく考えなさい。」
二人はさぁっと青ざめ頭を下げた。
「「申し訳ありませんでした!」」
そう言うと足早にソルティアを残し食堂から出て行った。
「ちょ、ちょっとあなたたち・・・。」
二人に手を伸ばそうとするソルティアをフェリシアは冷めた目で見つめていた。
ソルティアは眉を吊り上げフェリシアを睨みつけた。
「あなたって人は権力で彼女たちに圧力をかけるなんて、なんて卑怯な方ですの。恥を知りなさい!!」
フェリシアはふぅと息を大きく吐いて言った。
「私はこの国の貴族の在り方を彼女たちに確認したにすぎません。その結果、彼女たちには分ってもらえたようです。何も恥ずべきことはしておりません。」
ソルティアは眉を更に吊り上げ唇を噛むと、手を振り上げ、フェリシアに向かって振り下ろした。
バチーン。
食堂に音が響いた。
「おいっ!」
エリック達が立ち上がりフェリシアに近づこうとすると、フェリシアは目で制した。そしてソルティアを見据えて言った。
「満足されましたか?私の態度に何か失礼があったというのでしたら、正式に文書で我がスカイ公爵家に抗議してください。ああ、カルマ王国の王女殿下でしたね。そんなこと分かっていらっしゃいましたね。ああ、でも、私は知りませんでしたわ。カルマ王国の王女が他国の令嬢に平手打ちを許されるお立場だったなんて。まだまだ勉強不足ですね。失礼しました。」
フェリシアは初めて淑女の笑みをソルティアに向けた。
ソルティアは顔を真っ赤にし、キッとフェリシアを睨み、ぐっと手を握ると足早に食堂を出て行った。




