110. ソルティア③ 淡々と
「失礼ついでにもう一つよろしいでしょうか?」
フェリシアは真っ直ぐとソルティアの目を見た。
「何よ。ヴィルノア様をくれるというのかしら。」
ソルティアは口角を上げフェリシアを見た。
「まさか。それはありません。でも言わなくてはならないことがあります。ノアは物ではありません。この苺の様に、好きでしょう、それならハイどうぞ、とはならないんです。分かっていますか?」
「何を言うかと思いましたら、負け惜しみですわね。ヴィルノア様の心がわたくしに向いているのですよ。彼には婚約者がいて、彼をわたくしが奪ったことになりますでしょう。まぁ、わたくしが婚約者のあなたより魅力的だったということですわね。ですからあなたに話を通した方がいいと思いましたの。
ほほほ、彼から言われるのは、お辛いでしょうから。。」
「ノアがあなたを好きになることはありません。もし、万が一、ノアがあなたに好意を寄せたのならノアは真っ先に私に言います。でも、ノアの気持ちが向くことはあなたにだけは絶対あり得ません。」
「ふふ、放っておかれるようなあなたが何を言いますの。」
「あなたのような方にノアはなびきません。もし、絶対にありませんがノアがあなたを好きになるような馬鹿な真似をするのであれば、ひっぱたいて性根を正します。分かりますでしょう。この国の未来を担う王子としてあり得ない選択です。この国の損失ですもの。」
「なっ、わたくしを侮辱いたしますの!!ヴィルノア様とわたくしが懇意にしているから、醜い嫉妬はお止めになってはいかがですの?あなたは捨てられていますのよ。しがみつくのはお止めなさい。」
「いえ、あなたに嫉妬することは何もありません。捨てられることもありません。ましてノアの心があなたに向くなんて、太陽が西から登るくらいありえないことです。」
「この二週間、放っておかれたあなたが何を根拠にそんなこと仰いますのかしら。全く理解いたしかねますわぁ。ああ、苦しくなって現実逃避なさっているのかしら。」
「あなた様こそ、きちんとノアを見ていますか?見ていれば分かるでしょう。根拠は、そうですねぇ、ノアが常に私に言っていることと、ノアと過ごしてきた時間ですかねぇ。」
フェリシアは無表情に淡々と話した。
ソルティアが何を言おうと何も響いていないフェリシアの態度に苛つきを覚えた。
「時間ですって?あなた、おかしなことを言いますのね。あなたは前の婚約者と長いこと婚約関係にありましたのに、他国の王女が現れたらポンとその王女にくれてやったのでしょう。前の婚約者と仲は悪くなかったそうですのに、簡単にあげたのですわよね。他国の王女に媚びましたのかしら。それとも王女があなたの婚約者を欲しがったのではなくて。上手く立ち回りましたわよねぇ、あなたも。その結果、王女に媚びも売れて、ヴィルノア様と婚約したのですから。婚約はまだ半年にも満たないと聞いておりますわ。わたくしもあなたからすれば他国の王女ですわ。同じでしょう。私が望むのですから、また、くださればよいのですわ。ヴィルノア様との婚約期間が短いのですから簡単でございましょう。」
フェリシアがちらっとエリックとエリザベスを見ると二人とも何か言いたいのを必死にこらえているようで、目に熱を持っていた。特にエリックの瞳は怒りに燃えているようだった。
フェリシアはふぅっと小さく息を吐いて言った。
「ああ、あなた様も王女様でしたね。すっかりまた忘れておりました。まぁ、仕方ありませんわよね。先程も申し上げました通り、私の知る他国の王女様は慎み深く、思慮深い女性です。さすが王女様と思わせる方です。あなた様からは・・・あら、失礼。私の口から言いますと、ねぇ、お分かりいただけますよね。ノアをもの扱いするだけではなく、私の前婚約者でありこの国の第二王子と他国の王女様の二人を侮辱する発言を、この公共の場である食堂でなさるのですもの。忘れても仕方ありませんよね。」
フェリシアは大きく息を吐くと感情の伺えない声で言った。
「失礼いたしました。カルマ王国第二王女殿下。」
ソルティアは真っ赤になり目を吊り上げフェリシアを睨んだ。
「なんて失礼な人なの!あなたって人は!わたくしがわざわざお願いしに来ましたのに、そのような態度が許されると思っておりますの!?」
フェリシアは無表情のまま淡々とした物言いで言った。
「ええ、許されますね。この場にいる方たちはあなたの言葉を聞いていますし、振る舞いも見ています。当然、どちらに分があるかお分かりでしょう。ああ、お分かりにならないから、そんなこと仰ることができるのですね。重ね重ね失礼いたしました。」
ソルティアは一層強くフェリシアを睨んだ。
「不敬ですわ、フェリシア様!」
ソルティアと一緒に来た栗毛の少女が言うと、黒髪の少女も言った。
「そうですわ。ソルティア様に失礼ですわ。謝罪すべきだわ!」
ソルティアは二人の発言を受けて、口角を上げ言った。
「そうですわ。あなたの態度はとても許されることではありませんが、わたくしがヴィルノア様を奪ってしまったから、あなたも冷静さに欠くのですわよね。ええ、わたくし、寛大ですの。今、ここで謝罪なされば、全て不問に致しますわぁ。」
「まぁ、なんてお優しい。さすがソルティア様ですわ。」
「フェリシア様。今すぐ謝罪なさって。ソルティア様は寛大な心で許してくださいますわ。」
ソルティアと二人の少女は顔を見合わせて微笑み合った。
フェリシアは大きく息を吐き言った。
「私がなぜ謝罪しなければならないのですか。その必要は全く感じません。私は真実しか言っておりません。失礼と言うなら、どちらが失礼かは、ねぇ、お分かりになりますよね。カルマ王国第二王女殿下。」
「なっ・・・。」
フェリシアに淡々とした対応に、王女は言葉を詰まらせた。




