11. ヴィルノアという人②
知らなかった…。
シアのことは誰よりも知っていると思っていた。
まさか兄上達との間にあんなことする習慣があったなんて…!
シアが抱きついて、頬にキスしてキスされて、ぎゅって抱きしめて…それも実の兄ジルベールだけではなく、テオドール兄上にまで…!しかもシアがとても嬉しそうなんだ。なんなんだ、あれは。
エリック兄上は知っていて、止めようとはしていなかった。婚約者なのにいいのだろうか?それだけの想いがないってことなんだろうけど…。二人は仲はいいけど、親友って感じで、色恋事は全くなさそうだし、実際そうなんだろうな。
なにより一番苛ついたのは僕にあれを止める権限がないってことだ。恋人でも婚約者でもなく、シアにとって僕は弟なんだから、止めてほしいなんてどんな理由をつければ言えるんだ?僕以外の男に触れさせないでって醜い独占欲が僕の心を真っ黒に染めていても、弟ポジションの僕が言えることではない。だからか「僕はあの挨拶を受けたことない」なんて拗ねた子供のようなことしか言えなかったんだ。本当にガキだ。しかも頬にキスされて、簡単に僕の気分がうきうきと浮き立っていくんだから。本当にガキだ。
食堂から教室に戻る時、シルビアがそっと教えてくれた、「フェリシアはエリックには頬にキスどころかエスコートやダンスで手を繋ぐ、くらいしかしてないぞ。」って。それを聞いて、シアの温かく柔らかい唇が触れたところを思わず撫でてしまったのは仕方ないよね。
シルビアはいつも僕に優しい。姉のような人だ。いつも僕の心に影が差すと、手を差し伸べてくれる。
弟という立場はシアの傍に居られる最も強い肩書だ。シアが兄上の婚約者である限り、僕がシアの幸せの為にこれ以上の距離は縮めるわけにはいかないのだから。
でもさぁ、時々、一人の男として見てもらえたらどんなに良いだろうって思ってしまうんだ。対等に隣に立てたらって。本当にガキだ、ね。
好きってシアにいつも言っているのを、いつものことと嫌な顔一つせず見ていてくれているエリック兄上は大人だなって思う。僕が兄上の立場だったらいくら本当の弟だとしても嫌だからね。僕は心が狭いね。特にシアのこととなると、ダメだ。シアの幸せを心から願っているのに、僕だけのシアにしたいって我が儘な僕がザァーと僕の心を一瞬で黒く染めていくんだ。本当にガキだ。
シアに告白されているところを見られた。
学園に入学してからというものよく告白される。同級生が一番多いが、上級生にもよく呼び出される。それは王子三人の中で僕にだけ婚約者がいないからだよね。よく縁談が持ち込まれるけど、断り続けている。シア以外いらないんだから婚約者はいらないよね。一度冷たく断れば、告白しても誰にもなびかないから無駄って周知されるだろうと思っていたけど、周知はされたけど呼び出しは減らない。まったくもって迷惑だ。行かなければいいのだろうけど、以前シアが告白は断るにしてもきちんと聞くべきだって、聞きもしない礼儀知らずは嫌いだって力説していたから、とりあえず呼び出しには応じているけど、面倒なことこの上ない。
呼び出しは主に昼休みだからシアと過ごせる貴重な時間が減る。ただでさえ告白なんて無駄なものに付き合わされ、大切なシアとの時間を削られ、と最大に苛ついた状態で告白してきた子に対応するのだから冷たい言葉と態度になってしまうのは当たり前だよね。
でも告白は僕にはできないことだから、告白しようと決めて僕に対峙してきた勇者には礼を尽くそうとは思っている。呼び出しに応じるってとこまでだけど、ね。優しい言葉でお断りをする、なんて大人な対応は無理だから、それでもできるだけ正直に応えるように、ね。本当にガキ、だね、僕は。
僕が結婚するつもりはないし生涯今の恋心を捨てる気はないと言った時、優しいシアはすごく悲しそうな顔をしていたよね。悲しませることはしたくないけど、この気持ちに嘘はないから仕方ないよね。ごめんね、シア。悲しませて。でも僕にはシアだけなんだ。シア以外いらない。だからごめんね。悲しまないでね。
僕には好きな人がいるってシアに言った時、シアは案の定すごく驚いた顔をしていたよね。それが自分だとは全く思い当たらないってシアらしくて、ほっとしたな。僕の想いのすべてがシアに向けられているって知らない、気付かないのはシアだからだよね。
僕の気持ちは周りの人は知っている。知っていて何も言わないだけ。本来なら許されない想いだし、僕の行動も正しいものではないよね。でも許してくれている。甘やかされているんだよね。そして存分に甘えてしまっているね。特にエリック兄上に。ごめんね、兄上。自分の婚約者に好きって言ったり、あーんってしたりってされてたら面白くないよね。学園にいる間だけだから、兄上に甘えるのは、さ。二人が結婚する時には満面の笑みを浮かべてお祝いの言葉を送るからね。
いつでもどこでもシアには笑顔でいてほしいな。
それが僕の一番の望みなんだ。




