107. 手紙⑤ 新規事業
かわい過ぎるシアへ
毎日手紙を書いてくれてありがとう。
兄上とジルベール殿は午前中の書類仕事が終わるまでシアからの手紙を渡してはくれません。だから僕は頑張って仕事をします。早く読みたいからね。とにかく頑張っています。
シアがサファイアの欠片、確かにこちらの呼び方の方が素敵だね、を、喜んでくれて嬉しいです。何かに使おうと思ったわけではないけど、きれいだからシアにあげたかったんだ。それが僕を思い出させるなんて思わなかったよ。確かに僕の瞳は濃い青だよね。
欠片の廃棄はもったいないっていうシアの気持ちは分かりました。何とかできないか考えてみるよ。
花たちは寒くても自分のペースで咲くからすごいよね。自分が咲く時を知っているんだ。クリスマスローズは美しい花だよね。植物園には様々な色のクリスマスローズが栽培されていると聞きます。一緒に見に行けたらいいな。
×××の意味が分からなくて図書室で調べました。シアは、何で知っていたの?普通、誰もが知っていることなのかな?図書室の司書も知っていたし、ね。
あのカードがシアからのラブレターに思えて、尚更嬉しくなりました。
かわいいは僕的にはちょっとな言葉だけど、シアが好きなら考えを改めようと思います。よく婚約前にシアは僕のことをかわいい弟って言っていたよね。婚約前はそれでよかったんだ。シアが僕のものにならないなら弟でもいいからシアに好意を持ってもらいと思っていたからね。でもね、婚約してからは弟ではなく男として見てもらいたいと強く願ったんだ。男としてシアに好かれたい。それが僕の望みだったから。少しでも年の差を埋めれば、精神的に大人になれば、男として見てもらえるかなって思ったんだよ。
でも、大人にならないうちからシアに好きって言ってもらえたね。僕は幸せだね。
兄上のような大人な男はシアの言うかわいい僕ではなくなるかな。シアに好かれる僕でありたいけど、 シアに頼られるような大人な男でもありたいんだ。
難しいね。答えが見つからないよ。
僕は昔のシアも、今のシアも、未来のシアも好き。大好きだよ。この気持ちは揺らがないよ。
大好き、シア。
知ってるって言うシアに会いたいヴィルノアより
ヴィルノアは手紙を書き終えるとジルベールにそれを預けた。
その後、空き時間や始業前、終業後の時間を使ってヴィルノアは何かの仕事を始めた。国の地図や鉱山に関する資料や本を各部署や図書室から取り寄せたり、その資料を読み地図に書き込んだり、手紙を書いたりと忙しく過ごし始めた。そして図書室から持ってきたジュエリーデザインの本をぱらぱら捲りながら、紙にジュエリーをデザインし始めた。
その様子を眺めていたテオドールはヴィルノアに声を掛けた。
「ヴィル君、ここ最近忙しそうだけど、何を始めたんだい?」
「まだ、何も。調査と検証の段階です。」
「うん、これは女性向けのジュエリーだね。フェリシアに贈るのかい?」
テオドールはヴィルノアの描いた絵を見て言った。
「そうではないんですが・・・。」
ヴィルノアは顎に手を当て、少しの間考え込むと、はっと明るい顔をして言った。
「そうです。そうなんだ。今一つデザインしていても、ピンとこなかったけど、シアに贈るって考えればいいんだ。シアに似合うものを考えればいいんだ。それならいくらでも描けそうだ。兄上、ありがとうございます。」
「んー、何か役に立ったのなら何より。で、ヴィル君は何をやっているのかな。ヴィル君は将来ジュエリーデザイナーにでもなるつもりかな?」
「ああ、はい。ジュエリーデザイナーを目指してはいません。兄上を補佐できるそんな役職に就きたいです。これは、試作品が必要かと思いデザインしているんです。僕が作ります。」
「うん、もう少し順序だって分かり易く説明してくれるかな?ジルも呼ぶから僕らに説明して。」
テオドールはジルベールを呼び、ソファに三人で腰かけた。
「始めてくれるかな、ヴィル君。」
「はい。先日サファイアの鉱山に同行させてもらった時に工房で廃棄予定のくず石をもらってきたんです。何かに使おうと思ったのではないですが、きれいだったのでシアにあげたいなって思って。シアにあげたらシアがこんなにきれいなのに捨ててしまうのはもったいないと言うんです。他の石の工房でも捨てているのかなって。何かに使えたらいいなって。
そこで、このもったいないを解決するために僕は考えました。まだすべての検証が終わっていないので、見通しも曖昧ですが、何となくのプランを聞いてください。
ご存じの通り我が国には、サファイアのほか、ダイアモンド、ルビーなどの鉱山があります。これらの鉱山には付属の工房が併設されておりジュエリー用に研磨され、良質のアクセサリーに使われます。それは価格も高く、貴族などの富裕層向けです。とても平民の手が届くものではない。
そこで、このくず石を使ってもっと手軽なアクセサリーが作れないか、考えてみたのです。
各鉱山に併設された工房に尋ねたら、どの工房でもくず石は廃棄されていました。それらのくず石を取り寄せたのですが、シアの言うようにきれいで確かにもったいないのです。大きさもまちまちですが、大きめの物なら研磨することが可能だそうです。
そこで、これらのくず石をそれぞれの工房で処理するのではなく、一か所に集める新たな工房を作って、手頃なジュエリーをデザインから研磨、製作までできないかと。そうすることで新たな雇用も生まれ、国の産業の一つにできないかなと考えました。また、ここまでやるならブランド化して直営店とか作ってもいいかなと思います。」
ヴィルノアは取り寄せたくず石などを見せながらプレゼンした。
「本当は製作見本や新たな工房や店にかかる費用の試算、始動後の見通しとか立ててからお話ししたかったんですが、まだそこまでできていなくて・・・。」
「あの、視察からヒントを得たんだね。面白いね。」
「シアがもったいないって言うからです。」
「視察じゃなくてフェリシアの言葉が原点にあるのかぁ。」
「はい。」
「本当にヴィル君はブレないねぇ。好きだけどね、そういうとこ。でも、なんにせよ面白いよね、この企画。ヴィル君の勉強にもなるし、ヴィル君主導で進めてみるか。ジルはどう思う?」
「いいんじゃないかと。事業として成り立つように思いますね。まだ細かい所を詰めていないので利潤については何とも言えないところもありますが、目の付け所はいいですよね。進めてもいいのではないですかね。」
「そうだよね。うん、取り敢えず事業プランを作ってみようか。午前中は今まで通り私の書類仕事を手伝って、午後からはヴィル君はこの事業に関する業務をするってことでいいかな。そうしないと休みなくやっちゃいそうだからね、ヴィル君は。」
「そうですね。ヴィルノア殿下が午前中に書類をかなりさばいてくれていますから、可能ですね。」
「じゃあ、そういうことで。ヴィル君、頑張ってね。」
「はい!頑張ります。」
テオドールもジルベールも温かい目でヴィルノアを見たのだった。




