104. 手紙② 姿絵
次の日もジルベールはフェリシアからの手紙を持ってきた。そして、いつものようにテオドールが一旦預かり、朝渡された書類が終わると渡してもらえた。
ノアへ
ノアからお手紙をもらうのが初めてで、ドキドキして、なかなか眠れません。毎日、送るのは迷惑かなって思って、今日は書いていなかったけど、どうせ寝付けないのならとお手紙を書き始めました。お手紙もらうのって、嬉しいね。
今日はクララに会いました。それで、一足先に出来上がった姿絵をもらいました。ノアの分も持ってきてくれたので同封します。それと注文分とは別に何枚か販売していない物ももらいました。ノアの定期考査の結果発表の時の絵を描いてくれた子が冬花祭の時のノアを描いてくれたそうです。とてもノアが素敵に描かれていていい絵です。こちらも同封しますね。ノアが素敵なんだけど、ちょっと恥ずかしくて机の上に飾るのには勇気がいります。うん、今は無理、かな。
クララはベンジャミン様と上手くいっているんだそうです。クララ曰く『とてもかわいい人』だそうで『かわいくて仕方ない』そうです。まだ犬の耳としっぽが見えているようです。でも、時々手をつないだ時にドキドキしてしまうそうです。クララの方がかわいいよね。
クララとベンジャミン様は姿絵の手配とか姿絵を入れるケース作りとかで一緒に工房を訪れたり、打ち合わせしたりで、冬休みの間もよく会っているそうです。二人ともすごく仕事のできる人たちだから、とても気が合っているようで、良きパートナーだといっていました。
そうそうカードを入れる革のケースも持ってきてくれたの。カードより一回り大きい長方形のケースはハート形にくり抜かれた窓があって、その周りはユーカリの葉の型押しで囲っているの。角の空いたスペースには薔薇の花が二本ずつ型押しがされていて、ちょうどいい感じで、姿絵を装飾してくれているのよ。とても気に入ったので、早速ノアの姿絵を入れて飾りました。学園が始まったら見せてあげるね。
あと、期待して待っています。
心を込めてフェリシアより。
何度か読み返した後、ヴィルノアは封筒の中から姿絵を取り出した。
姿絵の注文分はフェリシアを描いたものと、フェリシアとヴィルノアを描いたものだった。そのほかに入っていた二枚は冬花祭の際、ヴィルノアがフェリシアの前で跪いて髪飾りを渡している場面のものと、フェリシアからもらったコサージュに口付けを落としているヴィルノアを描いたものだった。
「カードサイズの姿絵もいいね。ああ、これって冬花祭のヴィル君だね。頑張っていたよね、ヴィル君。」
いつのまにか近づいてきていたテオドールとジルベールが姿絵を覗き込んでいた。
「はい。虫除けをしておきました。何で、僕がいるのに虫が減らないんでしょう。」
ヴィルノアは冬花祭の姿絵を持ち上げ、眉間にしわを寄せた。
「’うん、そうだね。フェリシアはかわいいからね。仕方ないよね。でも、フェリシアはただただこのシチュエーションを喜んでいたようだけどね。フェリシアは好きだものね、お姫様や王子様。ヴィル君の虫除けには気付いていないよね。」
「シアはそれでいいんです。気付かなくていいんです。」
「フェリは気付かないですよ。フェリシアですからね。」
ジルベールは呆れ顔だった。
テオドールはくすくすと楽しそうに笑って言った。
「そうだね。フェリシアだものね。」
ヴィルノアは穏やかに微笑んで言った。
「シアはそれでいいんです。僕とのロマンスを楽しんでくれていればいいんです。気付かないシア、そこもかわいいんです。」
「はは、ヴィル君はブレないね。」
テオドールとジルベールは苦笑した。
「私もフェリシアの姿絵を注文したんです。これとこれです。」
ジルベールが指さした絵は、花冠を身に着けたフェリシアとエプロン姿でクッキーを作っているフェリシアが描かれたものだった。
「ああ、フェリシアがかわいく描かれているね。エプロン姿は私も見たことないなぁ。」
「フェリはお菓子作りが上手ですよ。これらのフェリシアがかわいいんですよ。だから父と母に贈ろうと思いまして三枚ずつ注文しておきました。。良く描けていますよね。」
「自分の分も注文したんだ。」
テオドールは口元を押さえ吹き出したいのを堪えていた。
ジルベールは澄ました顔で言った。
「当然です。」
「それ、どちらも僕が描いたシアです。夏休みの時、スカイ公爵領にお邪魔した時に描きました。」
ヴィルノアは愛おしそうに二枚の姿絵を撫でた。
「殿下が!?」
「ヴィル君、流石だね。フェリシアが天使のようにかわいいよ。」
「フェリは我が家の天使です。」
「シアは僕の天使です。」
ジルベールとヴィルノアはほぼ同時に言った。
テオドールは一瞬目を丸くしたものの、すぐに優しい微笑みを浮かべた。
「フェリシアは愛されているね。」
「「もちろんです。」」
二人の声が重なり、テオドールは楽しそうに笑った。
ヴィルノアは丁寧にフェリシアからの手紙を封筒に収めると、姿絵も同じ封筒にしまい始めた。
「あれ?飾らないのかい?」
テオドールは首を傾げた。
「ここには飾りません。シアが減ります。僕の部屋に飾ります。」
「フェリシアが減るかぁ・・・ヴィル君、独占欲強いよね。」
「・・・だめですか?」
「ん-、だめではないね。」
「シアは僕だけのシアでいてほしいんです。僕はシアが大好きなんです。」
「うん、フェリシアじゃないけど知っているよ。」
「私も知っていますよ。それこそ学園で知らない者などいないんじゃないですか。」
「はい。それなのに虫が減らなくて・・・困ったものですよね。」
ヴィルノアはふぅっと大きく息を吐くと、フェリシアの手紙に口付けをしてから胸ポケットにしまった。
「ジルベール殿、今からシアに手紙を書きますのでシアに渡してもらえますか?」
「分かりました。帰りまでにください。」
「今すぐ書きます。お願いします。」
そう言うとヴィルノアは手紙用の用紙を取り出し、書き始めた。




