103. 手紙① 近況報告
「今日もフェリシアからの手紙を預かってきました。」
ジルベールはポケットから一通の手紙を取り出した。
ヴィルノアは嬉しそうな顔で立ち上がり受け取ろうとすると、ジルベールはさっと手を引き、手紙をテオドールに渡した。
「はい、ヴィル君。分かっているよね。お昼休みまで頑張ってみようか。そう、このくらいの量は生けるよね?」
テオドールはにっこり笑って書類の束をヴィルノアに差し出した。
「・・・はい。」
ヴィルノアはすっと顔から表情を消し、書類の束を受け取った。
「はい。頑張ろうね。」
テオドールは楽しそうに言った。
書類を研ぎ澄まされた集中力で取り組んだヴィルノアは通常のお昼休みより30分早く、書類仕事を終えることができた。そして、満足気に書類を受け取ったテオドールから、フェリシアの手紙を受け取った。
ノアへ
今日も元気にお仕事していますか?
先日、エリザベスとシルビアとお茶会をしました。
エリザベスもほとんどエリックと会えていないそうです。エリックの仕事が忙しいのがその理由です。エリザベスはエリックのお仕事の邪魔はしたくないからと、特に会う約束を取ろうとはしていないそうです。会っていない割には、エリックのことをよく知っているので不思議だなって言ったら、手紙のやり取りを頻繁にしているから、エリックに起きたことを知っているのだと言っていました。
よくよく考えてみると、私はノアにお手紙を書いたことがないように思います。先日のは、お手紙というより、ランチのお誘いだったものね。毎日、会いに行くことはできないけど、お手紙なら兄様に渡してもらえるなぁ、と思いつきました。そこで、この手紙を書いています。お手紙なら、ノアの空き時間に読めるし、お仕事の邪魔にはならないよね。私もノアの仕事の邪魔にはなりたくないんだよ。
エリザベスがエリックのことを話す時、いかにも恋する乙女って感じでかわいいんだよ。エリックに見せたら、ますます惚れちゃうね。それくらい、かわいいの。
シルビアはオスカーと毎日会っているそうです。オスカーもエリックの補佐として忙しくしているらしいのだけど、毎日、帰宅途中にシルビアに家によって、夕飯を一緒に食べるのですって。確かにオスカーの家とシルビアの家はそう遠くないけど、オスカーの帰路からは少し遠回りになるよね。オスカーも頑張るよね。オスカーはああ見えて、シルビアに首ったけだから苦じゃないんだろうね。シルビアが嬉しそうに話してくれたよ。あの二人が仲がいいのは嬉しいな。私も幸せな気持ちになるよ。
今日は午後からクララに会う予定です。また、その時のことはお手紙に書くね。
そう、ノアの誕生日に『結婚しよう』ってノアが言ってくれたのに『いや』って言ってごめんなさい。でもあれはノアが悪いと思うの。女の子にとって結婚は一大事なんだよ。思い付きで言われて嬉しいものじゃないんだよ。知ってた?私だって、結婚に夢を見る乙女なんだからね。だから、ちゃんとした本番を期待して待っていてもいいかな?ううん。待っているね。
愛を込めてフェリシア
p.s. もう一通カードを同封しました。お仕事終わったら見てね。
ヴィルノアは何回か読み返すと、丁寧に折りたたみ元の封筒に戻した。そして、軽く封筒に口付けをすると自身の胸ポケットにしまった。
引き出しから手紙用の用紙を出すといそいそと書き始めた。
大好きなシアへ
お手紙ありがとう。とても嬉しかった。
シアがエリザベス王女とシルビアと楽しそうに話している姿が目に浮かびます。
エリザベス王女は見た目と違って面白い人だよね。それにとても気の利く人だと思います。兄上も彼女に思っていた以上に夢中のようです。冬花祭での二人はお似合いの二人で、絵になる二人だと思いました。
シルビアは一見クールに見える人だけど、情に厚い女性だよね。僕は姉のように思っているよ。だから、オスカーといつまでも仲良くいてほしいな、と思っています。オスカーならシルビアを幸せにしてくれるよね。僕は、あの二人の仲睦まじいとこを見るのが好きなんだ。僕もほっこりとした気分になるよ。
僕は今、テオ兄上の仕事を手伝っています。毎日どっさりの量の書類を用意していてくれて、それを頑張ってさばいています。でも兄上とジルベール殿は僕の比ではない量の仕事をこなしています。兄上達が少しでも楽できるように、僕ももっと仕事を覚えていきたいと思っています。兄上の役に立ちたいんだ。頑張るよ。シアから手紙もらったし頑張れるよ。
誕生日の日に言ったことは後悔しています。僕が考えなしでした。ごめんね。ムードも何もなくて、がっかりさせちゃったよね。でも、いつも早く結婚したいって思っていることは事実です。だから、ついつい口に出ちゃったんだ。ごめんね。でも、知っていて。僕がずっとシアと結婚することを夢見てるって。結婚したらシアといつも一緒に居られるんだ。朝、起きて一番にシアにおはようって言って、一緒に食事して、行ってきますって僕が言うと、いってらっしゃいってシアが返すんだ。ただいまって帰るとおかえりってシアが迎えてくれて、夕食を一緒にとって、何気ない出来事をゆっくり話して、お休みって眠るんだ。すごくよくない?毎日がキラキラ輝いているよね。だから早く結婚したいなぁって思うんだ。
でも、仕事も一人前ではない僕に家庭を持つのは無理だよね。まずは仕事を頑張るよ。
あと、僕はきちんと考えるよ。シアに合格点をもらえるようなプロポーズを。絶対素敵なプロポーズを大人な僕がするから待っていてください。大好きだよ、シア。
ヴィルノアより 心を込めて
ヴィルノアは書き終えるとジルベールに手紙を託した。
仕事が終わり、部屋に戻ったヴィルノアは早速、フェリシアからの二通目の手紙を取り出した。小さめな封筒の中には小さなカードが入っていた。
今日もお仕事お疲れ様。ゆっくり休んでね。
大好きなノアへ
心を込めてフェリシア
カードに書かれた文字の横には花らしきものが描かれていた。
「・・・か、かわいい」
ヴィルノアはしばらく眺めてから、手紙と共にベットサイドに置いたのだった。




