102. 誕生日⑧ いや
「ノアっ、ノア!起きて。ねぇ、起きて!」
フェリシアはトントンとヴィルノアの肩を叩いた。
ヴィルノアは薄く目を開けるとフェリシア側にごろんと体を向け、ぎゅぅっとフェリシアの腰に腕を回し抱きついた。そしてフェリシアのお腹に顔を押し当てた。
「うわぁ、殿下!なんてことを!離れて下さい!!」
「ねぇ、ノア。起きてってばぁ。」
「あらら、ヴィル君。そんなにフェリシアに甘えていると、ジルが壊れちゃうよ。」
「殿下!いい加減離れて下さい!ほらっ、フェリシアも離れて。」
「んー、そうは言ってもねぇ、フェリシア。ヴィル君、がっちり抱きついてるもんねぇ。」
フェリシアはぶんぶんと首を縦に振った。そして強めにヴィルノアの背を叩いた。
「もう起きて、ノア!ねぇ、ノアってばぁ。」
ヴィルノアはフェリシアから少し顔を離し、フェリシアの顔を見て微笑んだ。
「おはよう、シア。」
「うん、おはよう、ノア。ああ、そうじゃなくて周り見て。ねっ、早く、周り見て!」
「んー、あっ、兄上、おはようございます。」
「はい、おはよう。良く寝ていたね。」
「はい。シアの傍は心地良いです。」
「そのようだね。それは良かったね。」
「はい。良いです。」
「ヴィルノア殿下。起きたなら、フェリシアから離れて下さい。」
「あー、ジルベール殿。おはようございます。」
「おはようございます、じゃありません!フェリシアからすぐに、速やかに離れて下さい。」
「シアのお膝もシアも気持ちがいいので嫌です。」
ヴィルノアはぎゅうっと一層フェリシアにしがみついた。そしてフェリシアに顔をを擦り付けた。
「幸せです。」
「ちょっと、ノア。恥ずかしいから、もう起きてよ。」
「んー、もうちょっと。シア、大好き。」
「うん、それは知ってるから。ねぇ、起きて。」
「はは、ヴィル君はブレないね。でもそろそろフェリシアは帰る時間だよ。遅くなると、フェリシアを心配して、公爵家が今後フェリシアが王宮に行くことにいい顔をしなくなるよ。それにほらジルが爆発しそうだよ。また今度にしなさいね。」
テオドールはヴィルノアの頭をツンツンとつついた。ジルベールは口角を上げつつ、ぎゅっとこぶしを握り言った。
「また今度、って何ですか。爆発って、俺は常識的なことを言っているだけだよな、テオ。殿下、未婚の男女、いくら婚約しているからと言って結婚前にこの距離は近すぎます。すぐに、離れて下さい。」
ジルベールの目は全く笑っていないのに、顔は笑顔で中々の迫力であった。
「ほら、ノア起きて。」
「んー、未婚だとだめなら、結婚すればいいんだよね。シア、今すぐ結婚しよう。」
ヴィルノアはぎゅうとフェリシアに抱きついた。
「何寝ぼけたこと言ってるの?」
「寝ぼけてなんかいないよ。結婚しよう。」
ヴィルノアは腰に回した腕に力を込め、フェリシアに顔を押し当てた。
「い、や。」
「えっ、いやって言ったの?嫌って、僕のこと嫌い?結婚したくないってこと?ねぇ、シア、僕との結婚は嫌なの?」
「うん、イ、ヤ。絶対結婚なんてしない。こんなプロポーズなんて最低。絶対、イ、ヤ。」
「・・・ごめん。シア、今のなしにして。」
「もっとロマンチックなプロポーズ希望だよ。」
「うん、本当にごめんなさい。・・・僕、頑張るね。素敵なプロポーズしたら結婚してくれる?」
「学生のうちは駄目よ。学園生活を楽しみたいもの。ノアにも楽しんで欲しいわ。ねっ、そうでしょう?」
「うん、そう言うと思っていたよ。シアらしいね。」
「んー、そろそろヴィル君、迷走は終わったかな?」
テオドールは苦笑しながらヴィルノアの頭をつついた。ジルベールはむっとした顔で言った。
「フェリはまだ僕の妹のままでいい。なぁ、フェリ、まだ嫁になんて行かなくていいぞ。だから、殿下は離れて下さい。」
「んー、もう少しこうしていたいなぁ。」
ヴィルノアはフェリシアにしがみついたまま離れようとしない。
「殿下!!離れて下さい!ほらっ、フェリ、帰ろう。」
「はい、兄様。ほらっ、起きて、ノア。このままだと風邪ひいちゃうよ。」
「大丈夫。シアは温かいもの。」
「はい、はい、ヴィル君、ここまでね。誕生日プレゼント、楽しめたでしょう。フェリシア不足も解消したよね。はい、もう起きなさい。フェリシア達を見送りに行こう。」
「・・・はい。兄上。」
ヴィルノアは渋々フェリシアから離れると起き上がった。
「うんうん、ヴィル君が楽しめたようで良かったよ。フェリシアも楽しめたかい?」
「はい、テオ兄様。お花がすごくきれいでした。」
「そうだね。この温室はいつ来ても多くの花が咲いているよね。ほら、ジル機嫌直して。帰るんだろう。馬車まで送るよ。」
「・・・ああ。帰ろう、フェリシア。」
ジルベールは疲れたようにふぅと大きく息を吐いた。
「はい、兄様。」
フェリシアが立ち上がると、ヴィルノアも立ち上がり、フェリシアの手を取って指を絡めた。
「馬車まで送るね。」
ヴィルノアがにっこり微笑むと、フェリシアもにっこり微笑んだ。
「ありがとう。」
「うん。僕の方こそ、誕生日を祝ってくれてありがとう。」
二人の世界に入り込んだヴィルノア達は、馬車止めへと歩いて行った。
「はは、私たちのこと忘れているね。」
「・・・行こう。テオ。」
「ヴィル君は想像していた通りだけど、フェリシアがここまでヴィル君に絆されるとはねぇ・・・分からないものだな。」
「全くだ。エリック殿下の時はあんなに健全な付き合いをしていたのにな。」
「はは、仕方ないさ。エリックとはどう見ても友達同士だっただろう。けどフェリシアはヴィル君には恋をしているよね。好きが違うよね。かわいいね、フェリシアは。」
「ちょっと兄としては複雑な所だが、フェリがかわいいのには同意だ。」
「ヴィル君は最良物件だよ。」
「それは分かっているんだが・・・。」
「ははっ、行こうか。」
「ああ。」
兄達は若い恋人たちの後ろ姿を温かい目で見たのだった。




