第四十八話 別れ
「……あ、あん? ここは~……どこでぃ!?」
起き上がり周りをキョロキョロと見渡すアン。
状況が理解できていないようだ、やはりラクトが強制的にアンの体に入り、操っていたのだろうね。同居していたのなら状況を把握していただろうし。
「ここは霊峰の中かい!? ……あ、あん? お前達は誰でぃ!? アンタらが俺をここに連れてきたのかい!? ……あ、あん? アンタ……ワ、ワンスじゃないかい……」
忙しない女だな。アンがあんあんあんあんうるせぇんだよ、金色神徒なら少し落ち着け。
ワンスの事は流石に知っているようだ、同じ金色神徒だし。つまりコイツの事はワンス達に任せて大丈夫という事だろう。
「ワ、ワンス……どうでぃ? アンタに相応しい女になる為に……ラクトって言う物売りから美顔器買ったり恋の手解きを受けたんでぃ! 契約料、高かったんだぜ?」
……騙されてる。詐欺られている。
ワンスに恋心を抱いていたのか……しかし詐欺られている。その顔は美顔器ではどうにもならん。なんで契約をちゃんと調べないんだ、それじゃいいカモじゃないか。
「……アン、何度も言っているが、お前の好意は迷惑だ。俺には最愛の人がいると何度も言っただろう? それに貴様の顔は何も変わっていない……なんだその気持ち悪い喋り方は?」
「お、男の娘がモテるって聞いたんでぃ! 良縁の石ってのも買ったんでぃ……よく分からねぇけど、契約料は体だとか言ってたんでぃ……」
騙されてる、体乗っ取られてじゃん。男の子って……その容姿で男の子はねぇだろ、あとその喋り方も間違ってると思う。
まぁワンスは男の子が好きらしいが。しかし可哀そうに……壊してやればよかったな、あんな詐欺神。
「お前、急に人が変わったかのように雰囲気が変わったな? げに恐ろしきは神……我らは神の手の上で踊っていたと言う訳か……」
何か悟ったような顔をするワンス。でも君は十分に強いよ? 下位神は軽く超えているし、神器を持っていたワンスであれは上位神と同等かもしれない。
今回は相手が悪いよ。みんな最上位なんだもん。
上位色の神徒や、勇者なんて称号を持っている人間は今後も注意しておかないとね。
「アンタのために変わったんでぃ! アンタの想い人は知ってる! フォルナだろう? でも……さっきチラっと見えちまったんだけど……フォルナは、もう……」
目を落とすアン。その様子から本気でワンスの事を想っているのだと伝わって来る。
他人の不幸を共に嘆く事の出来る人は少ない、ほとんどが嘆いている振りをしているだけ。容姿はアレでも性格は中々に美人のようだ。しかし、君は根本的に勘違いをしている。
「だ、だから! フォルナの代わりにアンタの心を俺が癒すんでぃ!! 銀獅子は今日で解散だ! 俺を金竜に入れてくれぇぃ!!」
「断る、ここはセカンディとの愛のす――――」
「――――えええぇぇ!! 本当、アン!? よろしくねぇ! 女の子のお友達、欲しかったの! いいよね、ワンス!?」
「……うん、いいよ」
はい、良かったね。じゃあ僕達は帰るから、後は勝手にやって下さい。
ワンスの神の記憶は~……まぁいっか。別に不都合はないし、そんな規則も聞いた事ない。またどこかでお会いしましょう、神を知る男と愉快な仲間達よ。
――――その後もなにやら言い合っていたワンス達を置き去りにして、僕達は霊峰を後にした。
ウィッチやエル姉には早く神界に行き、体を治癒しようと言われたが、まだやる事が残っているんだ。またここに降臨して戻って来るのも面倒だし、体も問題なさそうだからね。
エル姉とコトワリィ、そしてシニカとは神界での再会を約束し霊峰で別れた。その後僕達とウィッチは神教会本部の、ある所に足を運ぶ。
「やっ! 戻ったよ、菊地の様子はどう?」
「おうお帰り! 骨折が治るまではまだ数日かかるらしいが、他は全部治癒してもらったから大丈夫だ! って言うかアンタが……大丈夫なん? 胸とか裂けてて気持ち悪いぜ?」
「…………迷惑を掛けた」
この街で、チュウオウ大陸でやり残したのはこの二人の仲間の事。色々あったけど、この二人には本当に世話になった、楽しませてもらった。
初めて仲間と思える事が出来た、初めて宴会が出来た、初めて他人のために怒る事が出来た。
「そっか、良かった! ……僕達もさっき終わったんだ、この大陸でやるべき事が……」
僕の言葉に疑問を浮かべる二人。やるべき事が終わった、それは喜ばしい事のはず。しかし何故そんな暗い顔をするのか二人には分からなかった。
「そ、そっか! 激戦だったんだろ? その体を見れば分かるぜ! やっぱりすげぇな、オルクスと姐さんは……」
「…………あぁ、俺達とは次元が……住む場所が違う」
二人は僕の表情から感づいたようだ。ここでやるべき事は終わった、なら次に進むのだろう……ここではない場所へ。そこに自分達は含まれていないのだろうと。
「……楽しかったよ、色々ありがとう! こんなに楽しいのは初めてだった!!」
「あぁ、俺達も楽しかったぜ!!」
「…………ありがとう、感謝している」
二人と握手をし、いつか再び会う事を誓い合った。
ウィッチは差し出された菊地の手を笑いながら払いのけ、それに笑みを零す菊地とキリやん。俺達はこれから強くなり、変わっていくと言いながら涙を零す二人。男は泣かなくていいんだよ。
「じゃあ……またね? ここで別れても、僕達は仲間……それは変わらない!」
「「もちろんだ!!」」
さて、じゃあ神界に帰ろうか……おっと、忘れる所だった。
「これ、あげるよ! 僕が持っていても仕方ないし、もし使う事があったら二人を尋ねるからさ」
「お、おう! …………なんだこの気色悪いキー……」
僕はキリやんにマスターキーを渡した。霊峰全てにアクセスできるお宝だ、役に立ててくれ。七合窟にだけは入れないけどね? 裏コードがないから。
「またいつか会って、再開の宴会でも開こうよ!! じゃあ、本当にありがとう!! またねぇぇぇぇぇギェェェェェヌグゥおぉぉぉぉ――――」
こうして僕は二人の元を去り、神界に戻った。
残った二人は……。
「……消えた……なんか最後、苦しんでなかったか?」
「…………あの傷だ、我慢していたのだろう…………そんな事より……」
「「宴会で思い出したけど、借金どうすんの!?!? 俺達が払うの!? ねぇ!?」」
二人の叫びは届かない、このマスターキーを売ってしまおうかとも考える二人であった。
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