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第三十六話 狂った獅子

「ァガフッ……ア、アン? な、なにを……」



 口から血を流しながらも、刺した理由を問うフォルナ。フォルナの後ろにいて、フォルナを刺した女……銀獅子のアンか。



「あら、ごめんなさい? 手元が狂ってしまったわ」



 薄ら笑いを浮かべながら告げるアン。狂った……か、確かに心臓の位置より少しズレているようだ、致命傷ではあるが即死するほどではなさそう。


 治療すれば助かる見込みもあるだろうが、ここにいる者達でそれを行いそうな者は……。



「即死させてあげるつもりだったけど……中々どうして、その表情は見物だわ」


「な……によ……約束どお……り…………騙し……たの?」



 狂っているのはこの女のようだ。苦しんでいるフォルナを愉悦の表情で眺めるその様子はまさに狂人。


 その狂人の後ろに控える複数の男、そいつらもニヤニヤとした不快な表情をしていた。一体何が起こっているんだ? なんで僕はここにいるのだ? 帰りたい。



〈……帰るか?〉


〔――――あ、終わりました? では帰りますか?〕


(ウィッチ、今まで何していたの? 今、結構凄い状況になったよ?)


〔あれ見て下さい! ワンスが何とかセカンディの気を引こうとしているのですが、セカンディは気持ち悪がるだけで……面白いですよ?〕



 静かだと思ったらそんな物を見ていたのか。別にもう興味はないよ、終わった事だ。



「これは返してもらうわ、それとこれも頂いておくわね! ふふふ……良い()()だったわよフォルナ?」


「私を……仲間にして……くれるって……た、助けて……よ……?」



 アンがフォルナから何かを奪い取った。……神器だ、元々アンから借りたと言う神器と、この六合窟にあった神器。


 その二つをアンが所持した形、この女も狙いは神器という事だろうか?



「仲間ぁ? 本当に馬鹿ね? 騙されたとも知らずに……そんな口約束、誰が守るのよ? 神術を使用しての効力を持った契約ならいざ知らず……契約を勉強し直す事ね」


「……ふざけん……じゃ……な…………わよ……」



 虫の息だな、フォルナはもう……。


 ワンスとセカンディの様子を窺う。セカンディは何やら苦い顔をしているが、ワンスには憂いはなさそうだ。ウィッチが言うには、ヴァルとフォルナが対峙していた時に凡その事を聞かせていたらしい。


 金竜を裏切り、壊滅させようとした。その原因は彼らにあると思うのだが、別に僕は何も言うつもりはない。



「正直金竜の壊滅は無理だと思ったのだけど、()()()がいたのなら分かるわ。ワンスの神器は壊れたようだけど、まぁ満足よ」


「し…………ね……くそおん……な…………」


「アッハハハハハハ!! 死ぬのはアンタじゃない! ……さようなら、ありがとう、お馬鹿さん」



 フォルナに刺さった刃物を、真横に切り払うアン。


 心臓を傷つけられたフォルナは呆気なく事切れ、地に伏せた。



「……ふふふ。さてワンスに……セカンディ、だったかしら? お仲間が殺されたわよ? 敵討ちでもしてみる?」



 挑発的な目がワンス達に向けられる。ワンスはフォルナは仲間ではないと言っていたし、敵討ちをする流れになるとは思わないが……どうするのだろう?



「……そいつは仲間ではない。殺す手間が省けた、宝はくれてやる……消えろ」


「…………」



 やはりそう言う反応か。どことなくセカンディは納得いっていないような様子だが、ワンスの意見に口を出すことなく黙っていた。


 しかし僕達を無視して進んで行く物語、これは僕の物語ではない。いなくなっても問題ないはずだ、早くこの胸の傷を治したいし、帰るか。



「そう、ならアンタ達が消えなさいよ? アタシはそれ所じゃないの……ねぇ?」



 気のせいだろうか? 帰ろうとした僕の目とアンの目が合っているような気がするが、僕に何か用事でもあるだろうか? 正直そんなに可愛くないし、これ以上僕達を巻き込まないで欲しいな。



「どこに行こうって言うのよ? アンタに言っているのよ? …………破壊神」



 ……コイツ、今なんて言った? なぜ僕達が破壊神だと分かる? いや、理由なんて一つか。


 コイツ、何者だ? いやだからあれしかないか、言ってみたかっただけ。



〈神の存在が分かるのは神のみ……つまりコイツは……〉


〔神ですね……しかし神気を感じません〕



 やはり神か。確かに神は下界に溢れている、しかし神器のために人間を騙し、殺したと言うのか? そんな周りくどい事をしなくとも、神であれば容易く目的を達せれるのではないのか?



〈弱神なのか、あるいは……〉


〔……そうせざるを得なかった。人間を利用し、己は隠れる必要があった〕



「さっきジックリと破壊の力を見せてもらったわ。アンタに恨みはないけど、消えてもらうわよ? またと無い機会だもの、弱っているアンタを……破壊神を破壊してやる!」


『抜かせ……何の雑魚神か知らないが、壊れるのは貴様だぞ?』


「二対一よ? 人間の陰に隠れる事しか出来ない奴に、どうにか出来ると思っているのかしら?」



 不敵に笑うアン、それと対峙する破壊神と絶美神。


 嫌な雰囲気だ。自信満々の表情をするアン、恐らく容姿を見た限りは女神体。


 それに対しこちらは負傷した神と、男を魅惑するのに長けた神。一筋縄では、行かない気がする。


お読み頂き、ありがとうございます


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