第三十二話 弱者の牙
「つ、つまりセカンディさんは……女が好きって事?」
興味本位でウィッチに魅了をお願いし、都合が悪くなったから元に戻そうと記憶破壊をした結果。
あれほどワンスを愛していたセカンディが気持ち悪いと言い放ち、更に恋愛は異性とするものだと言う世界大多数側の発言をしてしまった。
これは魅了の力が作用している状態で記憶を破壊してしまったからこうなったのだろうか? 魅了とは、なんて恐ろしい力なのだ……恋愛対象を変えてしまうとは。
「何を当たり前の事を……と言うかお前は誰だ?」
当たり前の事……か。さも当然だろ? と言った表情で話すセカンディ。横で蹲っているワンスに寄り添う事はなく、それどころか距離が徐々に開いて行く。
「……なんなのだワンス? さっきから」
「ははははは……こんな簡単に壊れるとはな。こんな所に来るのではなかった……貴様のせいだぞフォルナ!!」
そう言って何かをフォルナさんに投げ付けたワンス。それはフォルナさんの腕に当たり、地に落ちた。
投げたのはキーのようだ。この六合窟に入るためのキー・レベル五、それをゆっくりと拾い上げたフォルナさんはワンスへと向き直った。
「私のせい? いきなり何を言うの?」
「お前が六合窟に挑戦しようと言い出したのだろ!! 先日、銀獅子の奴らが五合窟を突破した、差を付けるためにも六合窟を踏破しようと!」
それは論点のすり替えのような気もするけど、最終的に判断したのはリーダーであるワンスのはず。
しかし解散を進言した人が難関のダンジョンに挑もうと進言するとは、なんか色々とおかしなパーティーだな。もう僕帰りたいよ。
〈帰ろうよ? 我も飽いた、お腹も空いたし〉
〔…………あの女……〕
そうだね、僕はもう不要だろう。ウィッチはどこか納得いかないようだけど、まだ見ていたいのだろうか?
帰ろう。余計な事をしてしまった感はあるが、そもそも六合窟に挑むという事は色々と覚悟したはず。なにより僕達を殺そうとしたんだ、自業自得と言うものさ。……本当にごめんね?
「……おい、どこへ行く? まさかこのまま無事に帰れると思っていないだろうな?」
こっそり帰ろうとした僕にワンスから静止の声が掛かる。無事に帰れると思っているけど……まだやるつもりなのだろうか? 君達の力では僕達を止められないと分かったはずだけど。
「……帰ります。お腹空いたし、後はご自由に――――」
「――――ふざけるな!! 全てを壊しておいて、そんな事許されるか!!」
確かに壊したけど、よくそんな事が言える。君だって強者として今までやって来たのだ、今の僕と同じ立場だったはず。
壊されるのはいつも弱き者、壊すのはいつも弱き者より強き者。
弱者に権利などはない、それは僕が身をもって経験した世界の法則。事実君も神教会本部で僕と会った時、僕の事をゴミ扱いしたじゃないか。
色々な強者がいる、あの時の君の言動が間違っているとは言わない。あの時の立場は僕が弱者で君が強者だった。
でも、今は違うんだよ? 暴論だけど、強者は許されるんだよ。強者であり続ける限りはね。
『いい加減にしろよ? 弱者は奪われても文句は言えん。貴様は我に対しては弱者の立場だ、身を弁えろ! 壊されたいのか?』
「ッく……この俺が弱者……ではせめて謝罪しろ!! 弱者でも牙はある、神術を暴走させるぞ!!」
『……謝罪? 何を言っているのだ貴様は? お前はそんな立場にないと言ったばかりであろう? そもそも貴様が最初に――――』
(――――ヴァル、もういいよ。面倒だ、適当に頭を下げて帰ろう)
〈何を言う? 壊せばよかろうこんな者!!〉
(……もう十分に壊したよ。ワンスは色々と失った、もしかしたら壊れるより悲惨な人生になるかもしれない)
壊しても転生するだけ。同じバランスなのだ、ワンスは再び輝かしい人生が始まるのだろう。しかし今世は愛する者を失い、幼馴染も失い、強者としての立場も失った。
今の状況が最大の報いなのかもしれない。
「分かったよ、謝罪する」
そう言いながら僕はワンスに近づいた。ワンスの横にはセカンディが疑問の表情を浮かべなら立っており、背中にはウィッチとフォルナさんの視線を感じる。
「どうも申し訳ありませんでした」
僕は頭を下げた。
内心ではご飯の事を考えるなんて最低の事をしながら。そもそも本気で謝るつもりなんてない、ヴァルと違って悪い事をしたとは思っているけど、先に仕掛けたのはワンスだし。
「これで宜しいです――――」
「――――オルクス様っ!!!」
後ろからウィッチの叫び声にも似た大声が聞こえた瞬間、突如体に走る激痛。
痛みの原因を探ろうと目線を下げると、僕の胸からナイフが生えていた。背中から刺されたらしい、心臓を一突きだ。紛れもなく致命傷、即死でもおかしくない。
誰がこんな……こんな矮小なナイフに、牙に僕が。
「がァ……ッく……」
もの凄い激痛が体を駆け巡る、こんな痛みを感じた事は今まで一度も……いや、一度だけあるか。
僕が死んだ日、あの時も激痛が走ったと思った瞬間、僕の頭に闇が落ちたんだ。
僕は死ぬのか……? でも今回は闇が落ちる事はなかった、僕は生きている。ただ体が動かない、動かそうとすると体に激痛が走る。
痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い!! 耐えられない……壊さなきゃ、この痛みを、感覚を破壊する。
〈オ、オルクス!! 大丈夫か!? 我の声が聞こえるか!? 感覚を破壊すれば二度と感覚を得る事は出来なくなるぞ!? 我に支配権を渡せ!!〉
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