第三十話 興味本位
「ば、馬鹿な……こんなはずがぁ!!」
刀身の半分が消えた剣を投げ捨て、僕に殴りかかって来るワンス。自分の拳が剣と同じようになってしまうかもとは考えないのだろうか?
拳までなくなっては可哀そうだと、僕は迫るワンスの拳のベクトルを破壊した。僕の体に届く前に勢いを失くし停止する拳、流石にもう分かっただろ。
「無駄だってば、もうやめようよ? 君達の事は誰にも言わないからさ、それでいいでしょう?」
「黙れッ!! こんな醜態をセカンディに見られたままで終われるか!」
どこまで行ってもセカンディのためか、その一途さは尊敬するが……最も大事なのは君が無事でいる事ではないか? 壊れてしまっては、死んでしまっては終わりなのだよ?
「ワ、ワンス……もうこれ以上は……」
流石に見ていられなくなったのか、悲しい顔をしたセカンディが止めに入る。しかしワンス止まらない、何が彼をここまで駆り立てるのか。
「ワンス、もういい。どこか誰もいない場所で静かに暮らせばいいだろう?」
「こんな世界にそんな場所などない! ちょっと男同士で手を繋いだだけで白い目で見られる、ちょっとチュッとするだけで気持ち悪がられる、そんな世界に!!」
そ、それはちょっと気持ち悪いが……人前でしなければいいだけじゃん。まぁ、世界が認めてくれれば隠す必要もない訳だけど。
「お前達も面白おかしく俺達の事を言いふらすに決まっている!! そもそもなぜ俺達は隠れなきゃいけない!? 俺はただセカンディを愛しているだけなのに……」
振り上げた腕が力なく下がり始める。俯くワンス、それに寄り添うセカンディ。美しい光景であるのだろうが、ごめんよ、僕の中にある歪んだ常識がそれを破壊する。
男同士なんて歪、普通じゃない、異常。そんな常識が根付いている人には理解できない光景、理解できない物を人は畏れ、遠ざけ、否定する。
確かに彼らにとってこの世界は……。
「分かっている、ワンス。お前の気持ちは俺が一番分かっている。いいんだ、ワンス、俺はお前が傍にいてくれればそれで……」
「……セカンディ」
今にもチュウしてしまいそうな二人。本当に隠す気があるのだろうか? そんな雰囲気を出されても困る。やっと理解しようと動き出しただけで、僕にはまだ理解できていないのだよ。
相当に愛し合っているようだ。僕もこんな人が出来たらいいな。
〔あ、あの……オルクス様? 私は、その……準備が出来ていると言うか……〕
(ウィッチ? なんの準備が出来てるって?)
〔いえ、その……あい、あいし、あい……あい〕
あいあいあいあい? 僕はお猿さんじゃないよ? ……そうだ、ウィッチ! ちょっと面白い事を思いついた。
(ウィッチ~あのさ…………ゴニョゴニョ――――)
〔――――えぇ!? ……あまり気乗りしませんけど、オルクス様が言うなら……〕
ウィッチは少し曇った表情をしながらもワンス達に近づいた。
これは完全に僕の興味、男を愛している二人はウィッチのような絶世の美女に誘惑されたら抗えるのか? という疑問。
もちろん絶美神としての神力を放つ、通常であれば魅了を通り越し死に至るほどに強力な力だ。念のためウィッチには死なないように配慮するようにお願いしたけど。
絶美の力、男であれば抗えないというのがキャッチコピーだったはずだ。
「はぁ……なんでオルクス様以外の男なんかを…………絶美・艶美」
「な、なんだ貴様!? …………うっ、こ、これは!?」
嫌そうな顔をしながら魅了の力をワンス達に放ったウィッチ。あの目を見るだけで僕はゾクゾクしてしまう、美しい……まさにご褒美だ。
その力には逆らえない、男色も女好きに大変身するはず。ワンスも例外では……。
「な、なんて美しく艶やかな女なのだ……こんな女は…………あいやいやいや!! セカンディ……セカンディ……セカンディーーーー!!」
苦悶の表情を浮かべウィッチを見つめていたワンスだったが、急に頭を振り回したと思ったら急にセカンディを見つめ始め急に叫び出した。
まさか打ち勝ったと言うのか!? この美、下界ではお目にかかれない最高峰の美であるのだぞ!? お前達の愛、認めざるを得まいか……。
「……なによそれ、ムカつくわね。私に跪かない男なんて…………絶美・雅」
「ぬぐぅおぉぉぉぉぉぉぉ!! セカンディーーー!! セカンディーー!!」
「ッチ…………絶美・華美!!」
「おぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!! セッカンディーーーー!!!」
す、素晴らしい。頭を抱えながらセカンディの名を叫ぶ光景は中々にキモいが、そこにあるのは確かな愛。
よもや人間がウィッチの、絶美神の魅了に打ち勝つとは……強者だ、紛れもない強者だ。僕は破壊の力を持ってしてもウィッチの魅了に打ち勝つ自信はない。
「ふざけんじゃないわよ? …………死ね、魅惑のは――――」
「――――ウィッチストップストップ!! もういいでしょう! もういいでしょう!!」
『静まれぇい! 静まれぇい!! この紋所が目に――――』
「――――お前が静まれ!!」
危なかった、ウィッチの神気が急に膨れ上がった。結構本気を出そうとしたんだと思う。て言うか死ねって何よ?
肩で息をして座り込むワンス、それをもの凄い表情で睨むウィッチ。ウィッチにとっても初めての経験なのだろう、その表情には少し驚きも含まれている様に僕は感じた。
「っく……何やら俺のセカンディに対する愛が何かに上書きされる感覚を覚えたが……貴様の神術か!? 残念だが俺には、俺達には効かん!! 俺達の愛は、不滅だっ!!」
「…………あぁ美しき御方……名を、名を教えては頂けませんか?」
……おい、セカンディの愛が滅しているぞ? 完全にウィッチの虜のようだ、セカンディは抗えなかったのか!?
「セ、セカンディ? ど、どこに行くのだ? 待ってくれ!」
「触るな」
よろよろとウィッチに近づくセカンディ、それを止めようとワンスは手を伸ばすがセカンディはそれを振り払ってしまった。
この世の終わりみたいな顔をするワンス、これは……やってしまったか?
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