第二十九話 教訓
秘め事を見られたワンスが、僕達とフォルナさんを殺そうとしている状況です。しかし彼の神術は僕には通じず、彼は肉弾戦を挑んでくるのでした。
「言っておくけど、剣も僕には効かないと思うよ? その剣、立派だけど壊したくないならやめた方がいいと思う」
「世迷い事を……俺の剣は魔者すら打ち滅ぼす、貴様などに防げるものか」
……世迷い事って何だろう? 魔者すら打ち滅ぼすか……確かに圧は中々、僕が今までに出会った人間の中では最強かもしれない。
手に持つ剣からは雷神の殺気が、体から剣神の闘気が感じられる。この力を破壊するのは簡単だけど、彼に実力の差を教えるのは別の方法がいいかな。
つまり彼が放つ自信満々の攻撃を正面から受け止め、圧倒的差を知らしめる。最後に神と名乗ってもいいかもしれない、人間では神に勝てない事を教えてやろう。
「そこまで言うなら、いいよ。君の最高の攻撃を受け止めて見せようじゃないか」
僕の言葉にワンスの目元がピクリと動く。静かなる怒り、そういう所は見習いたい。雑魚みたいに喚き散らすことなく、無知な僕に怒りの視線を向ける。
しかし無知はどちらだろうね。君は初めて敗北を知るよ、どんなに足掻いても敵わない強者は存在すると知れ!
「……良い度胸だ。なら受けてみろ」
腰を深く落とし、居合の構えを取るワンス。その瞬間に増す神の加護。
中々の圧力だ。うん、中々の圧力だ。あれ? 中々の圧力じゃね? 大丈夫だよな? 大丈夫だよ、破壊の力も纏っているし、ベクトル破壊の準備も完璧だ。
しかし気のせいだろうか? 一瞬、胸元が光ったような気がしたが……。
「この剣と勝利をセカンディに捧げる……雷剣閃!!」
爆発的に強くなったワンスの闘気と殺気。その気を感じた瞬間にワンスが消え、気づいた時には僕は吹き飛ばされていた。
もの凄いスピードで迫ったワンスの一閃に対応できず、僕は壁まで吹き飛ばされ激突する。ガラガラと音を立て崩れ落ちる岩と砂、傍から見たら即死。
「………………ふふふ、そ……その程度、かい?」
砂煙を巻き上げながらも、立ち上がる僕。その姿には恐怖を覚えた事だろう、とても生きていられるほどの光景には見えなかっただろうからね。正直僕も怖かった、だって……。
(いッ………………テェェェェェェェェェェ!!!)
〈ど、どうしたオル!? 痛い? そんなはずなかろう? 破壊を纏っていたのだぞ? そもそもなんで吹き飛ぶのだ!?〉
(いやいやいやいや!! 痛いよ! お腹痛いよ! ビックリだよ!! 吹き飛んだよ!!)
〔だ、大丈夫ですかオルクス様!? 面白いくらい見事に吹っ飛んでましたけど!?〕
どうなっている!? 僕は生きているし、ちゃんと立てるし、どこにも異常はない、この腹部の痛み以外は! 恐らくワンスの攻撃は腹部に当たったのだろう、服が破けているし。
「……まさか立ち上がるとはな。しかし驚きだ、恐怖すら感じる」
僕も驚きだよ! 破壊の力に対抗できるのは最上位神レベルの神力だけと言う話だったはずなのに! 何故だ!? 世界の設定が変わったのか!?
「怖いな、この力。自分の力が恐ろしい……ここまで強化されるとは」
なんだと? 立ち上がった僕に恐怖を感じたのではなく、自分の力に恐怖を感じる? 強化されるって……自分が使った神術に驚くなよ。
〈……いや、これは異常だ。神術程度が我の力に影響を与えられる訳がない〉
(そ、そんな事言ったって……事実影響受けてるよ? めっちゃお腹痛かったもん)
「先ほど拾った宝の効果か……これは素晴らしい」
そう言って胸にぶら下げていたネックレスのような物を手に取り見つめるワンス。宝って、もしかしてこの六合窟にあった宝? さっきの宝箱の中身かな? さっき光ったのはその宝だったのか?
〔あれは……神器です。どのような効果を持っているかまでは分かりませんが、状況から見て神術の大幅な強化……いえ、神力に近い力に変換する能力があるのかもしれません〕
相変わらず物知りなウィッチ、ヴァルも少し見習った方がいいと思う。しかしなんて都合のいい宝なんだ、神力に変換? そりゃお腹痛い訳だよ、神力と同等の攻撃をくらったんだもの。
〈だとしても、オルがもっと強力な破壊を纏えば問題なかった。所詮は上位神の力、甘く見て破壊の力を弱めたのが原因だろ〉
「まだ終わらんぞ? 神術・雷走! 雷網!」
足元を這って来る雷と、体に纏わりつく雷の網。本当だ、最初は何ともなかったのに今は雷に触れるとピリピリする。電気風呂に入っているみたいだ。
「流石に動けまい! これで終わりだ! ――――神雷突破!!」
見えない、最初の攻撃も全く見えなかった。気づいた時には喉元に剣先が迫っていた。いや、通常であればすでに喉を貫かれて絶命していたのだろう。
それほどまでに神速、纏う雷は地面すらも焦がすほどの熱量、もし初めにこの攻撃をされていたら痛いでは済まなかったかもしれない。
人間と、神術だと侮り力を抑えた。大海を知らなかった蛙は僕だった。神の力、宝を使ったとは言え、その攻撃は確かに届いた。どんなに強者でも慢心すれば足元を掬われる、いい教訓になった。
痛かったよ、アリに噛まれたゾウはこんな気分だろう。
「……ば、馬鹿な……」
ワンスが持っていた剣は、剣先から半分ほどが消えていた。
折れたのでも、融けたのでもない。剣と言う物質はこの世から破壊された。慌てて纏った強力すぎる破壊の力に触れてしまったがために。
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