第十九話 最愛の息子
『うおッと! あぶなっ! 掠ったぞ!? 今腕を掠った!』
大丈夫と分かっていても、刃物を向けられるのは怖いよね。
そもそも脅威は全て破壊してきたんだろうし、こんな戦闘は初めてではないだろうか? 徐々に慣れてくるだろうけど。
「ちょこまかウゼェんだよ! これならどうっ……ガァッ!!」
ヴァルが今にも切りかかろうとしていた男に無防備に詰め寄り、腹を殴る。
まさに防御を捨てた捨て身の行動、男達も度肝を抜かれただろう。
完璧な防御があるのだ、この行動は理にかなった行動。相手の攻撃や反撃を一切気にする必要はない、相手の攻撃でこちらの行動が阻害される事もない、まさに迫りくる破壊だね。
『さて、では……臓器破壊・なくなっても生きていられる臓器!』
殴り倒した後に放たれる破壊の力、それが届いた瞬間に盛大に吐血する男と、それに驚愕する周りの男達。
『フハハハ! 愉快痛快、次はどこをっッウオオ!? なんだ貴様!? 何故動ける!?』
吐血した男が立ち上がり刃を振るう、それに驚愕する破壊神。
なくなっても生きていられる臓器を破壊したからではないか? そんな臓器あるのか知らないけど、少なくとも行動出来なくなるほどにはなっていないのだろう。
『破壊って難しいな、半破壊とか……どうやれってんだよ』
破壊神が破壊を難しいとか言うなよ、そりゃ今まで完全に破壊する事ばかりで、こんな使い方しなかったのだろうけどさ。
「おい大丈夫か? お前、噴水みたいに血を吐いてたけど……」
「あぁ、俺もビックリだが逆に体が軽くなったくらいだ、まだ行けるぜ!」
臓器が消えたのだから物理的に軽くなったのだろうけど……本当に大丈夫? 人体に不必要な臓器などあるの? 君、内臓一つ壊れちゃったんだよ?
「行くぜぇ! 俺達に逆らった事を後悔ィィィィゲェェェェェェ……」
再び盛大に吐血する男、そしてそのまま倒れ込む。
……し、死んでないよね? やっぱり人間の体に不要な臓器なんてないんだよ! すまねェェ、殺すつもりは……あ、生きてんじゃん、良かった。
「うぅぅぅぅ……なんだこの感覚…………え? あれ……? な、ないぞ!? 俺のアレがねぇぇ!!」
なんとこの男、己から無くなった臓器の感覚が分かるとは……人体の神秘だね。
い、いったいどこの臓器が破壊されたんだ? 膵臓か? 胃か? 胆のうか?
「ギエェェェェェねぇぇ!! お、俺のアソコがぁぁぁぁぁぁ!!」
触って確認した後で、直接覗き込み視覚情報にて確信する。男が破壊されたのは生殖器。生殖器って臓器なんだ、一つ勉強になりました。
『フハハハハハ!! ツルッツルではないか! お毛毛も役目を終え消え去った! 安心しろ、貴様の体はその状態が正常であると創り変わる』
なんと! それはまさに人体の神秘だ! 生殖器が破壊され、元々ないと言う状態に体が創り変わるとは……。
〈まぁ、適当に言ったんだけどな? そんな都合のいい体があってたまるか〉
(あぁそうですか……でも生殖器を壊すと血を吹き出すんだね? 勉強になったよ)
〈いや、破壊の力で体にかかる抵抗を破壊したからだ。空気抵抗や重力、その他よく分からん要素、ベクトルとか都合のいい部分だけを破壊して、我の正拳突きが恐ろしいほどの破壊力になったと思われる〉
(ちょっとなに言ってんのか分かんない)
よく分からないが、アイツが人間噴水になったのはヴァルが腹を殴ったからという事。身体にかかる抵抗を都合よく破壊すれば、鍛えていない体でも達人級の突きが繰り出せる。
素晴らしい、なんて都合のいい……では破壊の力を間接的に使った半殺しも簡単に出来るではないか! 武闘家だ、我の拳は最強なり!
〈……でも痛いのだ〉
(痛い? 何がだ?)
〈殴った腕、拳が痛い……骨折れてるかも……〉
(馬鹿か破壊神! 痛みを破壊しろよ! その痛みは外的要因だろ!? 言わば殴った所からのカウンター! そのカウンターだけ破壊すればいいのだ!)
〈ちょっとなに言っているのか分からん〉
大体なんで破壊の力を纏ってるのに壊すのが抵抗だけなんだよ? それで殴ったら相手も壊れるだろ?
〈言っていただろう? 都合のいい力だと。抵抗だけを破壊したと言う事にしておけ〉
(分かった。なら抵抗破壊……そう言う事にしておこう)
「ぐうぅぅぅ……くそ! 腹がいてェ……アソコはスースーする……てめぇら! さっさとヤッちまえよ!?」
生殖器を破壊された男が仲間達に声を張り上げるが、周りの男達は戦意を失っていた。それもそうであろう、どうやったのかは知らないが……生殖器が消えたのだ。
男として生まれた以上、最も愛着のある臓器、息子と呼ぶ者もいると聞く。想像してみてほしい、息子がいなくなると言う胸も張り裂けるほどの悲しみ、苦しみ……耐えられん!!
『さあ、どうするパパ? 息子を差し出すか……息子を守るために威厳ある姿で土下座し、息子にその惨めを見せるか……』
父の背を見て息子は育つ……土下座なんて姿は見せられない。しかし息子を失うなんて事に比べれば屁でもない……僕なら地面に息子を擦りつけてでも土下座するね!
「…………う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
なんという選択を……それは最も息子に見せてはいけない姿……逃亡。
情けない顔と姿で逃亡を始めたのは……なんと息子を失った男。何故だ? 貴様にはもう守る者がいなくなった……土下座など容易いだろう?
男の行動に感化されたのか、他の男も後ずさり後に走り出す。彼らは息子を守るために逃亡を選んだ……しかしその選択は、吉なのだろうか?
『それは凶、愚策なり!! 逃がすかァ! 貴様ら全員、マネキン体にしてくれるわァ!!』
迫りくる恐怖、逃げ惑う親子。愚かな行動を取った彼らは……無残にも全員息子を失ってしまう事となった。
そんな中、取り残されていた唯一の女……深い狸寝入りから目覚めた彼女は、この悲惨な光景を見て思った。
「私も息子欲しいな……オルクス様の……」
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