第十話 剥がれた仮面
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「……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ見ないでェェェェェェェェ!!!」
化粧を剥がされてしまったウィッチは顔を隠して蹲る。
そんなにスッピンを見られたくないのだろうか? ……やはりスッピンは化け物なのかな? それともお婆ちゃんだったり?
「うううゥゥゥゥゥ…………消えて……全員よ…………いますぐここから消えて……」
小さくか弱い声でそう言うウィッチ、男神達はその様子に戸惑い、動く事が出来ないでいた。
エル姉も心なしか罰の悪い顔をしている。
「……聞こえなかった? 命令よ、消えなさい…………出てって!!!」
最後に出た力強い言葉に困惑しながらも、男神達は一人……また一人と屋敷を後にした。
残ったのはエル姉と僕達だけ。この状況、どうしよう……このままここを出て行っても後味が悪いよね……。
「…………あなた達も出て行って……最上位神に無礼を働いた事は謝罪する、後でいくらでも頭を下げる……だから、今だけは出て行ってぇぇ……」
少しだけ感じた、変化した声色。堪えていたようだけど、僕は聞き取ってしまった。
泣き声……ウィッチは泣いている、このままここを後にする事は出来ない。
〈では帰るか! オル、一つだけいい場所を知っている! 七色滝! 下界にはない光景であるぞ?〉
[…………そう、ですね……ここにいても……]
相変わらず切り替えの早いヴァルと、罪の意識を感じていそうなエル姉。
ヴァルはともかく、エル姉も心残りがある様子。エル姉の為にも、ウィッチの為にも……このまま帰る訳にはいかないよ。
「……はやく出ていってよぉ、お願いだからぁぁ……」
抑えきれなくなり、ウィッチの声に震えが乗り出す。
僕は顔を隠した時に落ちたのであろうキセルを拾い上げ、ゆっくりとウィッチに近づいた。
「こ、来ないでぇぇぇ!! 本当にお願いっ!! 来ないでっ!!」
完全なる拒絶。神力を纏う事も忘れ、ただただ蹲る女神。
よっぽど酷い顔のようだ……だが大丈夫、僕はそれを受け入れてみせる!! 化け物だろうが、婆ちゃんだろうが、男顔だろうが! なんだって僕は受け入れる!!
[オルクス、大丈夫? 結構な拒絶だと思うけど……]
(大丈夫!! 奥の手があるんだ! 僕は時を戻せるんだよ!!)
〈記憶破壊か……まぁ、それならオルに任せよう〉
僕はついにウィッチに手が届く所まで近づいた。
体は震え、両手で顔を隠すその姿はただの小さな女の子のようだ。
「……ウィッチ? これ、キセル落ちてたよ?」
「いらないっっ!! 何度言えば分かるの!? 消えてってば!!」
う~むダメか。あっ! キセルゥ~って顔を上げた瞬間に褒める作戦は失敗に終わった。
〈その程度で顔を上げれば苦労せんであろう……〉
[………………]
「……ウィッチ―――」
「――――いやっ!!」
「あの――――」
「――――やめてっ!!」
「その――――」
「――――消えてってば!!」
僕の言葉を聞こうともしない。
顔を隠すのに両手を使っているため、耳はフリー。しかし耳に入る言葉を吟味せず全てを遮断している。
…………面倒くせぇな。
言って聞かせる事が面倒……不可能だと悟った僕は行動を変えた。
実力行使……ちょっと酷いが仕方ない、手を払い強制的に顔を見てやる! そして伝えるんだ! 化け物じゃないよ? 君はちょっと魚顔なだけだと!
「ちょっ……やめてよ!? さ、触らないでぇ!!」
「しゃらくせぃ!! 人は顔じゃねぇんだ!! その顔見せやがれぇぇぇぇぇ!!!」
美しい手を握り、強制的に顔から引き剥がす。
ここまで強制的にされると思っていなかったのか、その顔には驚きが含まれていた。
目と目が合う。うむぅ……確かに少しぶすゥゥゥ……? はぁ? なにこれ…………嘘だろう?
「………………可愛い」
「……ふぅぇ?」
え? 化け物はどこ? こ、これも化粧か?
「い、いひゃいよぉぉ……」
ウィッチの頬を引っ張るが、剥がれない……マジ顔のようだ。
マジ顔……え? これスッピン? 素顔? お婆ちゃんはどこ!? え、ブスの定義変わった? これ、ブス……じゃないよね?
「はァァァァァ!?!? なにおめぇ!! めっちゃ可愛いじゃん!! ふざけてんのかその可愛さ!?」
「ふぅぇぇぇぇ!? か、可愛い? わ、私が……?」
驚く美女。その顔で可愛くないと言うのであれば、この世界から可愛いという言葉は消滅する。
すり替わりか!? 本物のウィッチはどこだ!? いつの間に入れ替わった!?
「ほ、本当に……? 本当に私……可愛い、ですか……?」
驚きのあまり立ち上がり本物のウィッチをキョロキョロと探していた僕を、上目遣いで見てくる美女。
「あんたはかなり可愛いよ!? で、ウィッチはどこだ!? 化け物ウィッチをどこに隠した!?」
見当たらない!! くそっ! 化け物に食われちまったのか!?
〈落ち着くのだ……目の前の女がウィッチだ、神気が同じであろう?〉
神気……? どれどれ……ジィーーーーーーーー。
「はぁぅぅぅ……そ、そんなに見つめられると、恥ずかしいよぉ……」
確かに魅了の力、ウィッチの神気を感じる……こ、これがウィッチの正体!? あの和美神はどこいった!?
「か、可愛い……反則級だ、ドストライク……」
「はうぅぅぅぅぅぅ……」
恥ずかしそうに顔を再び隠すウィッチ。性格も変わってないか? どうなっていやがる。
エル姉を美人とするのならば、ウィッチは可憐。
何故あんな化粧をして素顔を隠していたんだ? 必要あるか? まぁ……美人系の顔に憧れがあったと言うのであれば、分からなくもないけど……。
「あ、あのっ!! お、お名前……教えてくれませんか……?」
「え? 僕? 僕はオルクス…………あ」
エル姉の方を見ると……うん、若干睨んでる。名前を教えるなって言われていたんだった……。
「…………オルクス様…………」
呟く言葉は他の者の耳には入らない。
ウィッチはその言葉を胸に刻み込むように、両手をギュッと胸の前で握るのだった。
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