第八話 ヤンデレ
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美を司る神、絶美神ヴィッチビチに会いに来た僕達。
ちょっとお会いして、お話して、ご趣味は何ですか? と聞きたかっただけなのに……現在その究極の美は、最上の美と睨み合っていた。
「ほほほ……貴女様も多少は美しいようですが、わらわと並ぶと月とスッポン、天と地、雲と泥……」
いや、流石にそこまで大きな違いはないだろ……結局は造形物、顔だけ比べれば大差ない、好みもあるし。
〈オル、引っ込まんのか? 引っ込まないと言うなら強力な力を纏うが……〉
(仕方ないだろ!? ならヴァルが状況説明してよ! それなら引っ込む!)
それは無理とヴァルが言うので、纏う破壊の力を強くしてもらう。
それにこんな美神達、網膜に焼き付けておきたい……瞳を閉じても瞼の裏に君達がいるようにしたい。
〈それなら焼き付けるべきは瞼の裏ではないのか?〉
「性格が醜い貴様に言われたくはない。いくら顔を作ろうとも、その醜悪な性格は隠せないようだな?」
エル姉の言葉に、ヴィッチビチの目元にヒビが入る。
……え? ヒビ? 顔が割れた……?
「厚化粧が崩れていますよ? ……そんな物で作った美など偽物。その仮面の下にはどんな化け物が潜んでいるのやら……」
エル姉、結構言うね? 女同士の喧嘩って……怖いって言うか、男の喧嘩とは違うよね。
男が物理攻撃だとすれば、女は精神攻撃のイメージ。【個人のイメージです】
体の表面に出来た傷は簡単に治せるけど、心に出来た傷は治すのに時間が掛かる。
「ふ……ふざけるなよ? わ、わらわが醜いだと? このブス女神が……」
う~ん、それには賛同出来かねる。エル姉が所為ブスであるのであれば、この世の女はほぼ全てがブスと言う事になる。
そんな世界はごめんだ。
ヴィッチビチの怒りの神気がエル姉に襲い掛かる。
しかしエル姉の表情に変化はない、表情が変化しているのは絶美神。その顔は少しずつ歪み、もはやどちらが絶美神なのか分からなくなる。
「醜いブス女神に醜悪などと言われとうないッ!! ……跪きなさい! 魅惑の華!!」
絶美神より放たれた魅了の力、どことなくピンク色っぽい神力が、エル姉を包み込む。
華やかな神力だ、あれが人間に向けられてのであれば、抗う術などないのだろう。
が、目の前の者は神、最上位の女神なのだ。その効果のほどは怪しい。
「……くだらない、私に百合っ気はありませんよ? 有象無象の低位神を惑わせたとしても、私に効くと本当に思っているのですか?」
エル姉とヴィッチビチの……百合? なにそれ、その百合の華、見たい。
そこに不浄は一切なく、ただただ美しい光景が広がるのだろう。うまくその方向に誘導できないかな……?
「忌々しい……力が制限などされていなければ貴女など……」
そう言ってエル姉を睨みつけるヴィッチビチ。
怒っている顔も美しい……が、本当に少し化粧が剥がれてきてるよ?
「仮に制限されていなくとも、貴女の神力が私に影響を及ぼす事はありません。今の私は、弟に対する愛で心が満たされています」
エル姉っ!! ちょっと複雑! 男としては見てくれないんだね……。
「弟……? 人間が? 面白い事を言う。……良い事を思いついた、貴女から弟を奪ってやろう、わらわ以外の女などには見向きもしないほどに魅了してあげる」
ヴィッチビチが僕の目を見る。
僕を奪い合う美神達、それはイケメンにのみ許されし優越感……やれやれ、僕も罪な男だ。
〈オル、奴の目を見るな! 破壊の力を纏っていても、自ら意識を外に出せば意味がないぞ!!〉
うるさいな……これは僕の罪なんだ。
僕の存在が女性を惑わす……僕には答える責任が――――
[――――オルクス? 他の女になんて行かないよね? まったくオルクスは男の子なんだからぁ~…………ちょん切るよ? オルクスの男の子]
ヒィィィィィィィィ!?!? ちょん切る!? 何を!? ナニを!?
エル姉に打ち込まれた断罪の楔、それが僕のアソコに纏わり付く。
(も、もちろんですお姉様!! 僕にはお姉様しかいませんから! ビッチに興味なんてございません!!)
[うん! いい子だよオルクス! 待っててね? ……お姉ちゃんが邪魔な女は片付けるから……]
初めて向けられたエル姉の殺気……? どこか違う気もするが……ヴァルに向けたものじゃない、明確に僕に向けられたものだった!!
〈嫉妬……? いやこれは…………あれじゃないか? ヤンデレ……〉
ヤ、ヤンデレ? そ、そんな……エル姉はいくつ属性を持っているんだ!?
ヤンデレって、貴方を殺して私も死ぬ……的なやつ? 奪われるくらいなら殺す! 的なやつ?
どっちにしても殺されるゥゥゥゥゥ!?!?
〈オルも女運がないのぉ……やっぱり我の事を好みの女に育成する事をおススメするぞ? 何年掛かるか分からんが〉
止めっているはずの心臓がバクバクいっている気がする。愛憎……真逆の感情を同じ人からぶつけられた僕は混乱する。
僕には対処出来ない、忘れよう、見なかった事にしよう、ヴァルを育成しよう。
「……人間、名はなんと言うのです?」
ヴィッチビチが美しい声と表情で僕に問いかける。
しかしもう何も感じない。その時、僕は悟ったのだ。
人を一番簡単に従わせる事が出来るのは、愛でも情でも性でもない。
恐怖なのだと。
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