第七話 最期の願い
「完全破壊!!」
ヴァルと飲み水を探し歩いていた所、水音が聞こえたため駆けつけてみたが、見つかった液体は血液であった。
人か神が魔者に襲われ、大量の血液を流出させてしまった様子。生存は絶望的と思われたが、微かに声が聞こえた。
急ぎ魔者を破壊し、襲われた者に駆け寄る僕。神気は一切感じない、これは人間の男性だ。
蒼い髪は血に染まり、頬には大きな傷があった。この傷は魔者にやられたものではないな、ここ最近出来た傷ではない。傷は塞がっているが痕になってしまっている。
「大丈夫!? しっかり! しっかりって言われても困るよね!? ど、どうしようヴァル!?」
『落ち着け! 取り乱してもどうにもならん…………まぁ、そもそも手遅れか。内臓を激しく損傷している、我らに治癒はできんのだ』
弱弱しく動く胸、今にも消えそうではあるが呼吸はしている。
毒や何かの感染症であれば破壊できた。しかし損傷してしまっていては、破壊の力ではどうする事もできない。
なんて事だ……僕がイケメンの金持ちでも転がってろって思ったから、フラグの神が気を効かせてしまったのかもしれない……。
「………………誰か…………いる…………ですか……?」
「ッッ!? い、います! ここにいますよ! か、仇は取りました!!」
「ありが…………ざいま…………だ…………一人…………い……す」
き、聞き取れない!? 一人……? 一人は嫌だって事か!?
「…………たい…………くる……い…………ろして…………さぃ…………」
「ひ、一人じゃないですよ!? 大丈夫! ここにいますから!!」
『落ち着けというに!! ……まだ一人います、痛い、苦しい、殺してください……そう言ったのだ』
「そ、そうか……! そうだ! 痛覚破壊!!」
胸の動きが徐々に緩やかになっていっている。恐らく数分もしない内にこの男性は息を引き取るであろう。
こんな状態になっても、最初に出た言葉は感謝と他人の事。真っ先に出るのが自分の事ではないなんて、すごい人だ。
そんな彼の頼み事、最期を看取る者として聞き入れてあげたい。
「分かりました。もう一人は僕が必ず助けます! だからっ! 安心して!!」
「あり………………ます…………ねがい…………す……」
「任せて下さい! 必ず、必ず助けますから!!」
「…………りがと……ぅ…………――――」
すでに弱弱しい動きとなっていた心臓が、完全に停止した。最後は痛みなく楽に逝けたはず、その証拠に彼の表情は穏やかであった。
僕はせめてもと、魔者の体液で汚された体を綺麗にする。体を端に移動させ木にもたれかけた後、もう一人の気配を探し始めた。
(……この辺りには人の気配も、魔者の気配も感じないね)
〈ふむ……しかしいつぞやの、フォルナとか言う女の時のようにならんだろうな?〉
(それはないでしょ。あんな極限状態で他人の事を心配できる人だよ? 自分勝手な男なら、あんな事言わないよ)
〈そうか……ではこっちに行ってみるか? 我らはこっちから来た、あちら側にいる事はないはずだ〉
ヴァルの言葉に頷き、来た道とは反対を選択し駆けて行く。
襲われてからそう時間は立っていないはず、普通の人間であればそんなに遠くへは行けないはずだ。
周囲を警戒、気配を探りながら走り回る事数分、ついに痕跡を見つける事が出来た。
(――――ッ!? ヴァル、これ!)
〈足跡……それに踏み荒らされた草木……人間ではないな、もっと大型だ〉
なぎ倒された草木の道を進む。相変わらず魔者の気配などはないけど、草木の状態から見てここを通ったのはついさっきと言った感じだ。
草木をかき分け進む事少し、遠目に見えてきたものがある。
洞窟だ。ぽっかりと崖に大穴が開いており、人どころか大型の魔者ですら入る事ができるほどの大きさだ。
「ここだね。足跡が続いているし、それにこれ……」
洞窟の前に落ちていたのは、ペンダントだろうか? こんな森の中の洞窟の前に人工物が落ちているなんてあり得ない。
ペンダントは汚れてもいないし損傷してもいない。単純に落とした可能性が高い、ここに逃げ込んだ者が。
でもなんだこれ? 開かないな、このペンダント。
〈また洞窟か……そんで? 行くのか?〉
(行くよ! 彼との約束だ! それにこのペンダント、女物って感じだよ? 女性は助けなくてはならない)
〈……今、逃げ込んだ者は男に変わったと思う。フラグの神の力を感じた〉
嘘つけ! 僕には何も感じなかったぞ!? そんな言葉一つで性別を変えられてたまるかよ!!
まぁ男だろうが女だろうが神だろうがどうでもいい、助けると決めたんだ。どうでもいいけどできれば綺麗な女性がいい。
「行くよっ!!」
『おう!!』
破壊を体に纏いつつ洞窟に飛び込む僕達。
この力を纏っていれば怖いものなんてない、どんな脅威も僕に影響を与えられる事はない。
……たまに纏うの忘れるけどね。意識しなきゃないし、力を継続して込めないといけないから少し疲れるんだ。オートだったら楽なんだけどな……。
飛び込んですぐに、複数の魔者の気配を感じる。洞窟の中にいたことで、気配が外に漏れず遮断されていたようだ。
(二……三体かな? ヴァル、人の気配は感じる?)
〈……いや、人も神の気配も感じん……が、何か混ざっているな? 徐々に弱弱しくなっていっているが〉
すぐに魔者の気配のする方に走り出す。霊峰の洞窟の様に広くなくて良かった、すぐに魔者の元に辿り着く事が出来た。
遠目に見えた光景は、二体の魔者の攻撃を結界のような青白い壁を展開させ、必死の表情で防いでいる女性の姿であった。
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