第八話 間一髪
「くぅッ……このままじゃ……」
凶悪な魔者に襲われ、奮戦虚しく仲間とは散り散りに。あの人は大丈夫だろうか? 最後に見た時は二体の魔者に両脇から襲い掛かられている光景。
彼の実力は私より上、目の前の魔者達程度であれば排除できるはず。
しかし彼の方の魔者が、こいつ等より凶悪であったのであれば……いや、大丈夫。今は自分の事を考えなくては。
「このままでは死は確実……残った力全てを使い、攻撃すれば……」
一か八か、どちらにしろこのまま防御していても、いずれ砕かれ終わりが来る。
それであるのであれば賭けてみよう。愚策ではない、生きるためにできる唯一の善策。
「……怖いよ、兄さん」
私の結界に激しく体をぶつける魔者達。ぶつかる度に衝撃が結界を駆け回り、揺らぎが生じている。狂った目で涎を垂らし、目の前の獲物を喰らう事しか考えていない醜悪な存在。
私もついに、狩られる側に回ってしまった。
……まぁ、世界はもう私達を必要としていない。ここで朽ちても誰も気に留めない、数年前ならば信じられない事。
それなら私は仲間のために、家族のために生き抜こう。世界なんて知らない、利用するだけ利用して、不必要となれば即廃棄。なぜこんな世界の、そんな奴らのために戦ってきたのか。
「チャンスは一度……」
タイミングが重要、最悪な事にこの二体の魔者は性格が違うようだ。
片方は脇目も振らず一心不乱に体をぶつけているが、もう片方の魔者の攻撃は一貫性がない。様子を見たり、かと思えば急に攻撃してきたりとタイミングが計れない。
二体同時に攻撃して来た時に結界で弾いて、仰け反った所に同時に攻撃を放たないと意味がない。一体だけ倒せても、もう一体を対処できるほどの力は残らないだろう。
「それまで、結界がもてば……」
二体の攻撃が重なった時、それが最後のチャンス。一瞬たりとも気を抜けない、何度か同時攻撃はあったのだから、また来るはず。
大型の、馬鹿みたいに結界に体当たりをしている魔者の方に攻撃を集中させ、小型の方は最小限で倒す。
そのチャンスは、意外に早く訪れた。
「――――ッッッ!! ここ!! 解除して……派生神術・氷槍連撃!!」
全力で放った最後の攻撃、私の氷の槍が二体の魔者に突き刺さる。
上手くいった。氷槍は見事に命中し、そのまま絶命し倒れ行く一体の魔者。
……一体? なぜこの魔者は倒れない? なぜこっちに向かって来る? なぜ氷槍で傷ついていない?
小型の方が強かった? 私は……見誤った?
――――グゥルゥガアアアアアアアア!!!
目の前まで迫る魔者、開かれる大口、漂う不快な匂い。
もう力は残ってない、身体強化の神術を構成する力も残っていないため、逃げても無駄。
つまり――――死。
「……ごめんなさい兄さん、お母さん……」
私は死を受け入れた。せめてもと精一杯の殺気を魔者に飛ばし、人間の矜持でも知らしめるかのように目を離さなかった。
≪――――完全破壊!!≫
急に魔者の動きが止まった。止まったと思ったら、急に塵となり消えて行った。
何が起こったのか分からない、魔者はどこに消えた? 私は死んでいない? 生きている? 助かった……?
≪大丈夫ですか!? 良かった、間に合って≫
優しそうな目をした青年に声を掛けられ、私はその目で、やっと助かった事を実感した。
――――今にも食われそうになっていた女性。もっと早く助けるつもりだったのだが、急に横から三体目の魔者が襲い掛かってきたため手間取った。
僕が壊した二体と、女性が倒した一体。やはり三体いたようだ。
僕は周りを警戒しながらも、未だ呆けている女性に近づき声を掛けた。
「大丈夫ですか!? 良かった、間に合って」
焦点定まらぬ目で僕の目を見つめる女性。
美しい蒼髪に透き通るような蒼い目、顔や体には多少の傷は見えるが、特に大きな異常はなさそうだ。
「ある人に頼まれて、ここに来ました。貴女は……蒼髪で頬に傷のある男性を知っていますか?」
彼女の様子に変化が見られる、体がピクリと動いたかと思うと真剣かつ切羽詰まった様子で僕に詰め寄って来た。
まず間違いないとは思っていたが、これで確信。彼の言っていたもう一人とは彼女の事だろう。
「あ、兄を! 兄をご存じなのですか!? 兄さんは無事なのですか!?」
凄い剣幕で問う彼女、それに気圧され言葉がでなくなってしまう。
兄……だったのか。
「兄さんはどこですかっ!? 兄さんも魔者に襲われて――――」
「――――お、落ち着いて下さい! 話は後で、まずはここを出ましょう!」
僕の言葉にハッとし一歩下がる彼女。
この洞窟内に魔者の気配はないが、ここは魔者の住処の可能性がある。逃げ道のない洞窟に籠るのは危険だろう。
女性は多少の慌てを見せたのち、申し訳なさそうな目のまま僕に礼を言い始めた。
「……申し訳ありません、取り乱しました。助けて頂いて、ありがとうございました。私の名は、リンネリア・シュミルスと申します」
「あ、ご丁寧に……僕の名前はオルクス・リミットレスです。よろしくどうぞ、リンネリアさん」
とても綺麗な礼だと思ってしまった。もしかすると高貴な生まれ、俗に言う貴族とかその位にある人なのかもしれない。
それにシュミルス、どっかで聞いた事あるんだよな…………ダメだ、思い出せない。
「じゃあリンネリアさん、ここから離れましょう。魔者が来ないとも限りませんし…………お兄さんの元へ案内しますから」
不安そうな顔をしてしまったリンネリア。恐らく僕の表情からある程度の事を察したのかもしれない。
僕はリンネリアを連れ、洞窟を出たのち兄の元へと連れて行った。
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