第六話 再び二人きり
『ところでオル、ここはどこだ?』
「知らないよ、見た事ない所だ」
「『………………』」
教えてくれる姉も、物知りな美女もいない。誰も答えてくれない。
戦好きとの修行を終え、時の神殿を飛び出した後に勢い余って下界に降臨してしまった、僕と破壊神。
一応ヒガシ大陸をイメージして、人のいない場所を選択するだけの余裕はあったのだが、そもそもなんで降臨したんだっけ?
〈また二人きりだね、オルクスきゅん!〉
(気持ち悪い……やめろよ、声は可愛いけどさ。もう僕の中でヴァルは雄だ、オッサンだ)
降臨先は下界ではあるようだが、見覚えは全くない。目の前に広がるのはデケぇ湖、陽光が水面に反射して光り輝いている様子は神秘的だ。
神が降臨する場所としては相応しいけど……。
〈我は別に構わんが、もう少し余韻を楽しんだら良かったのではないか? 師匠もギャラリーも置いてけぼりにして下界にダイブ……勢いか?〉
(……勢いだ、なんとかなるだろうと思った。なんでか分からないけど、当たり前のようにエル姉とウィッチが付いて来ていると思ってた)
世界は都合よく動いてくれなかった。現在そのような女神達の姿は見えない。
ヒガシ大陸と言えば勇者と幼馴染。エル姉やウィッチという存在は必要だ。しかしどちらかと言えば、ビッチの方を悔しがらせたい。
どっかにイケメンの金持ちでも転がってねぇかな。
〈……一度神界に戻るか?〉
(そ、そんなカッコ悪い事できないよ! 大丈夫、そのうち来てくれるさ!)
――――根拠のない理由を携えて湖を後にする。とりあえず人のいる街に行けばどこか分かるはずだ。
僕は一応ヒガシ大陸の生まれ、田舎者ゆえそこまで詳しい訳ではないが、さすがに王都や主要都市には行った事があるし記憶もある。
しかしあんな大きな湖、あったなんて知らなかったな。
〈しっかし毎回どうしてこうも……森ばかりなのだ?〉
(今回は湖があったじゃない。大丈夫、数時間も歩けば街につくはず)
〈……そうですか。まあ頑張って歩いてくれ〉
――――歩き出してどのくらい経ったのだろう? 辺りが少し暗くなり始めた。夕日は下界にしかない光景、神界には朝も夜もないからね。
ヴァルは操縦を代わってくれなかった、お前の体だろと今更な理由で。疲れてきたし少し休みたいと思うのだが……少し先の方に魔者の気配を感じるんだよね。
修行で身についた、気配察知能力。なんて大層なものじゃなく、以前に比べて広範囲に様々な気配を感じられるようになっただけ。
魔者のような禍々しい気配はなんとなく分かるけど、恐らく人間などの気配は近づかないと分からないかもしれない。
〈野宿など今更だ。破壊を領域展開させ、今晩はここで野宿でいいだろ〉
(そうだね、街まで後どのくらいなのかも分からないし。そうと決まれば食料調達だ! ヴァル、代わってよ?)
〈まぁ……良かろう。その代わり明日の朝からはまたオルの操縦だぞ?〉
拠点を確保した後、獲物を探しに歩き出すヴァル。拠点と言っても、少し開けた場所にあった座り心地の良さそうな切り株の周りに、巻木を集めただけだけど。
『サバイバルの基本その一! まずは水であろう、川を探せ』
「んなもんねぇよ。大体あったとして、どうやって運ぶんだ? 入れ物もないのに」
『……口に入れて運べばよかろう? 喉が渇いたら飲めばいい』
「アホか!? わざわざ運ばずその場で飲むわ!! それに含んでいる間なにも食べれないじゃないか!」
ぶつぶつと文句を言いながらも足を動かす破壊神。僕の体は死んでいるのに腹も減るし喉も乾くから質が悪い。
まあどんなに空腹でも死にはしないから、最悪我慢すれば大丈夫だろうけど。
『まったく、人間の体は本当に不便――――ッッは!? 今水音が聞こえたぞ!? 間違いない、こっちだ!!』
「お、おい! その方向は――――」
ノロノロと怠そうに歩いていたくせに、急にキビキビと走り出すヴァル。僕には水音は聞こえなかったが、分かる事がある。
徐々に近づいていく気配、それは間違いなく魔者であった。
別に魔者なんてどうという事はない、でもわざわざ向かって行かなくたっていいと思う。水音も魔者の涎とかそんなオチだろうよ。
(ヴァ、ヴァル! 分かっているだろうな!? この先には魔者がいるぞ?)
〈分かっておる! だが間違いなく水音がした! 涎じゃないぞ? もっとサラサラした液体の音だ!〉
すげぇなコイツ、音で液体の粘度が分かると言うのか。神の耳……神耳か? かみみみって、ださいね。
『せめて神耳だろ……おっと、ここのようだ……が』
ピチャピチャと不快な音が聞こえる。
目の前には一体の魔者。僕達に背を向け、何かを啜っているようだ。
薄暗いがハッキリと見える、あれは人間……もしくは神だ。ここからでも足が見える、地面に広がる赤い液体は血液だろう。
魔者に襲われたか……。
〈まぁ液体ではあるが……さすがに血は飲みたくないな……〉
(そんな事言ってる場合かよ? 他の感想はないのか?)
〈そう言うオルも随分と落ち着いているではないか? 他を探そう、湧き水くらいどこかにあるだろう〉
そのまま回れ右をするヴァル。この場合は仕方ないか、せめて次の人生では幸福であることを願う……あぁ、同じバランスだったか。
ならばせめて仇を取ろう。この異物は僕が排除する! 君のような犠牲者を一人でも減らすために!
≪――――ぅ………………ガフッ…………≫
「い、生きてる!? ヴァル! まだ生きているよ! 僕のかみみみにも聞こえた!!」
『しかしもう手遅れ……ッおい! 急に支配権を取るな、ビビるだろ!』
お読み頂き、ありがとうございます
宜しければブクマや評価のほう、お願い致します




