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第五話 小さな成長

「戦好き、どういう事? 僕の武術のレベルが素人に毛って……」



 体感数か月に及んだ、戦闘の神との修行。様々な武器を手に取り、様々な武器を扱う者との戦闘を想定し、体がボロボロになりながらも、血反吐を吐きながらも耐えた修行。


 血は出なかったけど。


 正直、自分で言うのもなんだけど成長した感覚はある。剣の振り方だって、槍の突き方だって、投合スキルも身につけた。


 それが素人に毛が生えたレベルだって? いくら戦闘の神でも、それは厳し過ぎやしないだろうか?



「オルクスが特に鍛えられたのは精神面と、見切りの力……ようは()()ダ。破壊神と共にいる事で体が神体に近づいた、この修行で一番成長したのは眼ダ」



 神眼? カッコいいけど……え? 目なんて鍛えた記憶ないけど。



「しかし身体能力は変わっておらん。技術力は上がったが……そもそも死んだ人間の体だ。成長しない腕力に成長しない脚力、高めるには神体に昇華しなくてはならん」



 え? 成長しないのこの体? じゃあ何のための筋トレだったの?



「それと……言い難いのだが、オルクスには才能がない。武術全般の才能が皆無、それに気づいた俺は戦闘モードではなく、子供教室モードで稽古していた」



 皆無? 皆無って、全くないって事? 場の雰囲気、戦好きの表情から冗談を言っているとは思えない。僕は子供扱いされていたというの? 子供教室で腕とか吹っ飛ばしたらダメじゃん。



「それなりに武具を扱えるようにはなったが……達人にはほど遠い。剣士と相対する時は槍で突け! 剣では勝てん!」


「……卑怯じゃない? 有利な武器で戦えって事でしょう?」


「せ、戦場に卑怯なんて言葉は存在しない!! なんなら武具ではなく破壊の力を放てばよい!」



 それではここで修業した意味がまるっきりなくなるのでは? 破壊の力を無暗矢鱈に使わなくてもいいようにする修行だったのに。



「でも最終試験って言ったじゃん? そんな事言われて突破したら免許皆伝だと思っちゃうよ、すっげー成長したと思っちゃうよ」


「いや……言ってない! 最終なんて言ってない! 多分言ってない! だってまだ修行続けるつもりだったもん!!」



 もん、じゃねぇよ。


 申し訳なさそうな戦好き、どうやら本当の事を言っているようだ。ギャラリーの感じと、初めて試験ダって言われたから最終試験なんだと思った。


 ……僕は、成長出来なかったのか。



「せ、成長したのは事実!! 身体能力はいずれ神体に近づく事で追いついて来る! 悲観するでない」


「慰めはいらないよ……道理で剣の扱いが下手なコトワリィにすら勝てない訳だ……」


「慰めではない!! 事実ダ! オルクスは成長した! いくら剣に心得がないとは言え、ゼンリは最上位神ダぞ? その腕力は凄まじい。それを見切り、受け流していたではないか! まともに受けていれば体は粉々……神力を纏わず、神体と戦えたのだ、誇れ!!」



 真剣な顔で理由を話す戦好き。その目は嘘を言ってはいなかった。


 確かにコトワリィの、それどころか戦好きの子供モードの攻撃も見えていた、隙も見えた。


 でも神眼とか言うので見えても、素早く攻撃を届かせるための腕力、踏み込むための脚力がない。身体能力が圧倒的に上なコトワリィの素人防御に簡単に防がれてしまう。


 死んだ人間の体の、才能のない僕の限界という事か……。



〈ネガティブになるな。我にも理の攻撃、隙は見えたが、オルほど正確に攻撃を撃ち込めはしなかったであろう。そして防がれても大きく動じる事もなかった、精神力が強くなったとのイクサスキの言葉にも頷ける〉


(……そうだね。成長しない肉体に才能のない僕……でも技術が身についたのは確かだし、自信がついたのも確かだ)


〈そうそう、ポジティブにいこうぞ。努力が才能を上回る事もある、仮にダメでもオルには神体に昇華すると言う奥の手も残っているのだ〉



 ずっと寝ていたくせに、分かったような口を聞きやがって!! どんだけ修行辛かったと思ってんねん! ……ありがとうよ、ヴァルハザード。



「オルクスが望むのなら、修行を続けるが? もう数十年分、今までより厳しく指導すればオルクスの言う達人級の高みも見えてくる」



 戦好きの提案、僕の事を考えてくれての言葉であろうが、それはパスかな? 数十年なんて辛すぎ、更に厳しくなんて恐ろしすぎ。なによりそろそろ世界旅行を再開したい。



「いや、もう十分だよ。ありがとう戦好き! 本当にお世話になりました! 戦好きのお陰で、自信がついたよ!」


「……そうか。俺も中々に楽しかったぞ? 軟弱な人間、神が多い中、オルクスの心力には驚かされた。またいつでも訪ねて来い、稽古をつけてやる!」



 師匠に頭を下げて、神殿を後にしようと歩き出す。


 時の流れが緩やかと言っても、体感時間はとても長かった。それに付き合ってくれた戦好き。


 時に厳しく、時に優しく、時に面白く。父とはこういうものなのだろうか? 実際の父なんて、会話すらほとんどした記憶がない。


 父と思ったら怒られるだろうか? 戦好きなら笑いながら、なに言っているんダ!! 構わん!! とか言いそうだけど。


 神殿の入口で止まり、後ろを振り返る。


 戦好きが何かを言いたそうな顔で僕を眺めている。息子の旅立ちに、どう声を掛けていいのか分からない父。大丈夫、貴方の気持ちは伝わっています!



「ありがとう父さん!! 行ってきます!!」



 そう言って僕は走り出した。振り返らず、雄大な父の視線を背中に感じながら。



「オルクスーーー!! 忘れてないか!? なにか忘れてないか!? 膝枕ーーー!! あと父さんってなんやねぇぇぇぇぇぇ――――」


お読み頂き、ありがとうございます


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