其の弐ノ伍 妹たるもの
「……お兄ちゃんの妹は私だけ……そうでしょう……?」
「お兄さん!! わたしの方が妹っぽいと思うなぁ!!」
二人の天蓋が始めた喧嘩。初めは命の重さと言うか、とても神らしいぶつかり合いで始まったはずなのに、今は本当にただの姉妹喧嘩となってしまった。
なぜこうなったのか分からないが、今は余計な事をして刺激するのはマズい。せっかく神力を放つのをやめたんだ、このまま適当な理由をつけて逃げるのが吉。
「よかろう! ではお前達の兄愛、この長兄に見せてみよ!!」
「……負けない……」
「わたしだって!!」
〈なに言ってんの? 逃げるんじゃなかったのかよ?〉
(いや、まぁ……なんとなく、ノリで……)
やる気になってしまった二人。一先ず神力を撃ち合っての殴り愛は回避された。どうせ子供のやる事だ、すぐに飽きるさ。
他に観光地もなさそうだし、少し妹達につき合ってあげよう。
[私も参加して宜しいですか? 姉として、弟に対する愛が妹などに負けるはずがありません]
〈話が拗れるから引っ込んでおれ……〉
「ではまず!! 兄愛その一! 寝ている兄を優しく起こしに来る天使……ではシニカからスタート!!」
切って落とされた戦いの火蓋。先ほどの地獄のような事にはならないはず。だって優しく、優しく起こすんだもん。
僕は横たわり目を瞑る、ゆっくりとシニカが近づいて来る気配がした。僕に妹はいなかったし、せっかくだから楽しませてもらおう。
「……お兄ちゃん……おっはー……朝だよ……? ……起きないと遅刻しちゃうよ……? ……もう……仕方ないな……絶死……――――」
「――――だっはぁぁぁぁ!?!? 起きるどころか永遠に眠りにつくわ!! 念のため破壊を纏っておいて良かったよ!!」
なんて事しやがるのこの妹は!? どうしてダメだったのか分からないと言った表情をしているが、ダメに決まっているだろ!
ブー!! 零点です。はい次!!
「まったくシニカはダメダメだねぇ! ……お兄さん!! あっさだよぉ!! くらえぇぇ!! 生――――」
「――――くらえってなんじゃい!! なに神の力放とうとしてんの!? 起こすの! 分かる!? 優しく揺さぶったりするの!!」
「で、でもでも生き生きとする力だよ? 一瞬で目が覚めて、すぐに極厚ステーキも食べれちゃうよ?」
寝起きで食いたくないわ!! もっと微睡ませてくれ!! 寝ぼけ眼で可愛い妹の存在を感じたい兄の気持ちがなぜ分からない!?
「お前達には早かったのか……では気を取り直して次だ!! 兄愛その二! 妹の手作り弁当で兄様のハートをキャッチ……スタート!!」
開始の合図を聞くと、その場から姿を消す二人。弁当を作りに行ったのだろう。
[神界には基本的に食物がないから……下界に行ったのだと思う。……お弁当なら、私が用意したのに……]
エル姉の弁当は覚えている、あれは完ぺきだった。さすがにあのレベルの弁当を作るのは無理だと思うが……愛があれば大丈夫。
――――待つ事小一時間。よくよく考えたらこの時間を使って逃げればよかった、なぜ僕は律義に正座して待っていたんだろう。
「……お待たせ……食べて……お兄ちゃん……」
「ちょっとシニカ!! わたしが先だよ!!」
「はいはい喧嘩しない……じゃんけんしなさい」
じゃんけんに勝ったシニカが勝ち誇り、セイカは生の神なのに今にも死んでしまいそうな苦悶の表情をする。
別にどっちが先でもいいでしょうに……しかしそそられん、食べる事は出来るだろうけど、食欲がこんなにも大事な欲だったなんて知らなかった。
「では、シニカの弁当から…………おや、予想に反して見た目はまとも……」
シニカの事だ、死が纏わりついているデスランチかと思ったが、見た目は悪くない。まぁ問題は味だろう、弁当には神力は感じない、であれば死ぬ事はないはず。
「では、頂きます……ムグムグ……ムグ……なんだ、普通においしい――――」
――――おや? ここはどこだ? シニカは? セイカはどこに行ったの? ヴァル? ……あれ!? ヴァル!? ヴァルがいない!?
急に変わった目の前の景色。神達の姿も、神樹も見当たらない。
「ど、どうなってんだ……? ん? あれは誰だ?」
黒い水が流れる川の近くにいた人影。その近くにはボロボロの船が一艘浮かんでいた。
……あれ? ここもしかして、有名なあの川じゃね?
「いらっしゃい…………渡し料はあるかい? ……ない? なら渡れないよ、帰んな」
「か、帰れって言われても……」
「ほら、さっさと帰んなッ!!!」
≪――――クス!? オルクス!! 大丈夫!? しっかりして!!≫
「――――ッは!?!? ここは……あれ? 老婆は? 老婆が超絶美人に!? ……なんだ、エル姉か」
周りを見渡すと、特に何も変化はない。
みんないるし、ヴァルの存在も感じられる。なぜエル姉はそんな悲しそうな顔をしているんだ? よく見るとウィッチも今にも泣いてしまいそうな表情だ。
〈お前、死にかけたぞ? いや、正確には死んでいるが……魂が消えかけた〉
(た、魂が消え変えかけた!? 一体僕はどうなったんだ!?)
「……どうだった……? ……おいしかった……? ……隠し味に疑似死体験いれてみたよ……」
「お前のせいかぁぁぁぁ!! 疑似死って、さっきのアレか!? 変なもん隠すな! 老婆がいたんだぞ!? 僕はどこに渡される所だったんだ!?」
「……ごめん……楽しんでくれると……思って……ごめん……なさいぃぃ……」
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁ!?!? 泣かないで!? うそうそ! 楽しかったよ! シニカのお陰でシニカけたよ! 貴重な体験だった! さすが我が妹である!!」
危ない、子供を泣かせてしまっては色々な所から批判される時代だ。周りに神の目はないように見えるが、どこにパパラッチがいるか分からん。
幼女を泣かせている現場を撮られたら、破壊神は失脚する!!
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