其の弐ノ参 神樹イブアダム
「とうちゃ~く!! 見て見てお兄さん! あれが生命の樹、神樹イブアダム!!」
生の神セイカに連れられ、やって来た所にあったのは巨大な木。
巨大とは言ったが、巨大すぎる。木と言えばよく木陰で休んだ事もあったが、この木が作り出す木陰は街一つスッポリと覆ってしまうだろう。
しかしこの木は影を作り出していない。いくつもに枝分かれした枝には葉ではなく、光り輝く小さな球体が纏わりついていた。
「まるで葉っぱのないクリスマスツリーだね」
『家の窓からいつも見えたデケェ木、神樹だったのか』
これぞ神界ならではの光景。木の大きさも、葉の代わりに光が生い茂っている様子も下界には存在しえない。
しかしこれだけ光り輝いて見えるのに、なぜか眩しさを感じない。あの光が命……という事なのだろうか?
「ねえセイカ、もしかしてあの光の球が生命なの? いくつか枝から離れて天に昇って行っているけど」
「そうだよ!! まだ魂が作られる前の、純粋な命! 神樹が創った命に、わたしが生を与えるの! 昇って行ったのは生を与えられた命だよ!!」
すげぇぇぇぇぇぇぇ……ここが原点、命が生まれる場所か。
僕の命もここで創られ、セイカに生を与えられ……クソ転生神に不幸人生の烙印を押された訳か。
命を守り、生を与える神……始まりの神という事だろうか? ……ん? という事は……ママ? お母さんなのか!? セイカは僕の母君という事か!?
「は、母上……オルクス・リミットレス、只今戻りましてございます」
「はえぇ?」
母上が困ったような、意味分からんよ顔をしている。
そりゃそうだろう、急に見ず知らずの子が現れて、貴女は私の母親ですなんて言われたらビックリもするか。
でも始まりの神、聖母ではないか? 全ての命の母という事だろう?
〈こんな幼女捕まえて、ママはないだろ……通報するぞ?〉
「あ~そう言う事か!! お兄さんは人間だったよね? 人間なら確かにここで命を創られて、わたしが生を与えただろうから…………息子おぉぉぉ!?!?」
歓喜の表情で僕に抱き着いて来る母上。
お母さん、こんなに小さかったんだね? いつの間にか僕の方が大きくなってしまった。ママが守ってくれたように、今度は僕が母ちゃんの事を守るね!
しかしノリの良い神だな、嫌いじゃない。
「ねぇセイカ、さっき人間なら……って言ったけど、神は違うって事?」
「うん! 神の命は違うよ! あと……魔者の命もここでは創られないかな?」
そりゃそうだよね~。人間と神が同じ場所で生まれる訳ないか。
同じだったらビックリだよね? 貴方と同じ病院で生まれた子、神になったんですってぇ……なんて言う会話が出来てしまう。
でも魔者も生まれない? まぁ神界で、こんな神々しい神樹からあんな禍々しいモノが生み出される訳はないだろうが……では魔者とはどこで生まれているんだ?
生の神が把握していない生…………考えるのやめよう、面倒な事に巻き込まれそうな気がする。
「しかしこれが全て命なのか~、すげぇぇぇぇ…………ん? あれ?」
気のせい……じゃないな。いくつかの光の球が、昇って行っている途中で消えてしまうのが見えた。
いや違うな。消えているんじゃなくて、光を失っているんだ。
光を失った球は、天に昇る事はなく地面まで落下する。地面まで落ちると溶けるように消えてしまった。
神樹に帰った……のか? いや、生まれた瞬間に帰って来られても困りんす。
「…………ねぇセイカ、ボトボトと命が落ちてきているけど……これが本当の落命ってか!?」
「らくめい…………って!! あぁぁぁぁぁあああああ!!! い、命が、生が終わっちゃってる!!」
慌てふためくセイカ。生が終わる……? 死産という事ですか? それはなんとも……悲しい。
それは世界の摂理、命あるもの……いずれ死にゆく……。生まれた瞬間に最初に貰うもの、それは死へのカウントダウン。
しかしいくら何でも早すぎないか? ……あ、また落ちた。あの命なんて三カウントくらいしか生きていなかったと思う。
「こ、これ…………ッッ!!! やっぱりあなたの仕業ね!! シニカ!!」
神樹から少し離れた所で命を眺めていたシニカ。
その手は神樹に向けられており、何かをしているのは明らかだった。
「……生の数……多すぎる……死の数とバランスが取れない……」
シニカは死の力を放っていた。
生を終わらせる力、命を消す力……その力を有しているのが死の神シニカ。
生を始まらせる力、命を創る力……その力を有しているのが生の神セイカ。
「あなた、いい加減にしてよ!? いくらなんでも酷いよ!! この子達は始まったばかりだったのに!!」
「……いい加減にするのは……貴女……無暗に生を与えすぎ……世界の許容量は決まっている……」
睨み合いを始めた二人、再び子供喧嘩が始まってしまいそうな予感。
二人の言い分は……分からなくもない。命が生まれるのは素晴らしい事だろう、本来なら生まれて来る命には何の罪もない。
しかしそれは人間の、下界に住まう者の考え。
バランスで維持されていると言う世界、生が増えすぎれば世界が崩れ行くと言う真実があるのであれば、増えすぎた生は死を招くだけ。
「でもここで新たに生まれる命を消す事ないでしょ!? すでに何十年と生を楽しんだ者に死を与えればいいじゃない!!」
「……この命はまだ何も知らない……何も感じてないし始まってない……すでに始まってて……様々な人に影響を与えている者達の方を……死なせろと言うの……?」
徐々に膨らんでいく二人の神気。
異常な圧だ、ここまで強い神気は感じた事がない。そんな圧を発しているのは二人の少女。可愛らしいなりをしているため忘れそうになるが、この二人は最高峰の神、天蓋。
こ、この天蓋達を止められるのは同じ天蓋しか……。
「あ、あはははは~……ごめ~ん! 僕、用事思い出しちゃった!!」
「し、しか理! ワシも録画しておいた理の理の理を見なくては!!」
なぁっ!? あいつ等逃げたぞ!? 時と理が逃げ出すほどの惨劇がこれから始まると言うのか!?
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