もしも、天使達と先に出会っていたならば…序
リクエスト作品でございます。
ある晴れた昼下がり、わたしはドナドナされました。
………理不尽に異世界召還されてから、半年。まさかこき使ってくれてた魔女に、いきなり売り払われるとは思わなかったんだよね。
そりゃあ猫っ可愛がりされてましたとはいわないけど、それなりに仲良く暮らしてきたつもりだったのにさ『お使いに行ってきて』て言われた商家に足を踏み入れた途端、麻袋かぶせられて魔力車に放り込まれるなんて、思わないじゃない。
”ガキでも女は女だ。連中には高く売れるだろうよ”
布越しにくぐもった男の声がしたとき、思わず自分の不幸を呪っちゃったわよ。
トリップするわ、罵られるわ、挙げ句売られるわ。次は何?!…ってね。
埃っぽい麻袋から微かに漏れいる光に唇を噛みながら、手と足を戒める縄を魔力で切って、隙見て絶対逃げてやるって心に決めた、数十分後。
ガチャリと扉の開く音に、勢いよく麻袋を顔から剥いで正面の敵を…敵を?あれ?
「あ、自分で解いたの?怪我はない?」
刀とナイフの中間くらいの長さの刃物を握った天使が、目の前にいた。
…いやいや、金髪だからって碧眼だからって天使と決まったわけじゃない。でもでも、すっごくキレイなんだよね。逆光でキラキラ輝いちゃって、ぱっと見性別不明で、でも声が低いから男の人?手に持ってる刀もどきも薄赤に光ってピカピカと…って薄赤?血じゃん!ぎゃー何これ、血まみれの男が倒れてるんだけど!!
「ひっ!」
ドラマみたいに絹を切り裂く悲鳴を上げてみたかったけど、本気で驚きすぎて寧ろ声が出ませんでした。ガチャって音は外に出るために出た音じゃない。この天使の様な殺人犯が外から魔力車のドアを開けた音だったんだ!
怯えて必死に呪文を思い出しながら後退るわたしに、大丈夫なんて良いながら偽天使が腕を差し伸べてくる。その手もなにげに赤くて、よく見たらその人の来てる白地に金刺繍の学ランみたいな服も血の染みが飛んでいて、なにげにこれってスプラッタだ。恐怖映画!!
「こ、こないでっ」
「あ、怯えないで。僕は誘拐犯じゃない、役人なんだよ。君たちを助けに来た天使…なんだけど、君、獣人じゃないよね?どうしてそんなにキレイなわけ?」
急に目を眇めた自称天使の危ない男は、まだ呪文を完成できていないわたしの手首を掴むと、ずいっと顔を寄せてきた。
えっと、美人の至近距離は凶器です!着色完璧な彫刻が目の前で瞬きとかしたら、恐怖で心臓凍っちゃうよね、今まさにそんな感じ!
他にも床に転がされていた女の人達に邪魔されて、何処にも逃げられなかったわたしは、数秒の見つめ合いのあと不意にそいつに抱き上げられた。
「な、降ろして!」
「ああ、やっぱり。じゃあ、人間なのかな?」
わたしの耳や背中を何度も何度も撫でながら、嬉しそうに笑った殺人犯はおもむろにバサリと背中から何かを出す。瞬間、オーバーヒート寸前だった脳みそは易々と思考を放棄していた。
天使みたいだとは思ったけど、まさか本物だったとは…あの羽、触らせてくれないかなぁ…。
次に目を開けたとき、わたしは生まれて初めて天蓋付きのベッドというものに寝かされていた。
白いベッドに白いレース、白い天井に白い壁に金で描かれた文様。黄金色のカーペットと白地に金細工がくっついた家具………
「目、痛ぁ…」
窓から差し込む西日が反射して、真っ白な品々が容赦なく網膜を焼く。色彩バランスの崩れた部屋が、これほど凶悪だとは知らなかった。
それらを遮るために手のひらで目を覆いながら、わたしはなんでここにいるのかと思い返して飛び起きた。
「天使、見ちゃった。あれってもしかして天国からのお迎えだったのかな?わたしってあの時点で死亡?」
となるとこの恐ろしく柔らかなベッドも、嫌がらせのように白い部屋もお空の上仕様と言うことになる。生きてるうちは結構不幸だったけど、死後の世界は好待遇のようでなによりだ。
でもそれならこの目の悪くなりそうな白づくしを、何とかして欲しかったんだけど。
早く日が落ちちゃわないかな、そしたら眩しくないのになんてつらつら考えていたらノックが聞こえて、さっきの天使と銀髪の見知らぬ男がドアから中に滑り込んできた。
「ああ、起きてたんだ。ごめんね、返事を待たずに入って」
礼儀正しい天使は、口だけだったらしい。
殊勝なことを入ってる割に、遠慮なく室内を進んであっという間に枕元まで来てしまったから。
しかしなんて大きな部屋なんだか。エイリスの家で与えられた部屋の、3倍は優にありそうだよね…。
金銀で並んだ男2人は、とてもよく似ていた。
柔和な表情の多い金の天使も、色つき石膏像が動いているような銀の男の人も、雰囲気と色合いは違うけれど長い髪や顔かたちが酷似している。
血縁関係なんだろうか?それとも神様のお使いってみんな同じ顔してたりするんだろうか?
真面目に天使の不思議について考えていたら、ちょっと笑った金の人がつっとわたしの髪をかき上げる。
「ほら、これが証拠。耳が僕たちと同じだろう?それなのに彼女の背には翼がないんだ」
「確かに…だか、きちんと確認はしなければ何とも言い難い」
「それもそうだね。ね、君。君はどこから来たの?」
無邪気に問われて、わたしは首をかげた。
「獣人の街です」
察しが悪いわけじゃない。賢くはないけど、それほど馬鹿でもない。
そんな自負があるわたしは、彼等の様子からどんな情報を引っ張り出したいのか何となく察して、すっとぼけた。
キレイじゃないと罵られた召還現場と、魔女から繰り返される忠告でわかったのは、人間てバレない方が平和に暮らせるんじゃないかってことだ。
この世界の美的範疇で低空飛行ぶっちぎりなわたしだけど、別に元の世界で石投げられるほど容姿に困っていたわけじゃない。ごく一般的な女子高生でいることができた。
だけど喚ばれてみればひどい言われようで、完全無視だ。それでも人種を隠して生活していれば、女だってだけで優遇された生活を送れたんだから、正直にトリップしましたなんて言わない方が良い。
ここが例え天国だとしても、天使が平等主義者とは限らないじゃないか!
「…即答、か。わかっててとぼけてるでしょ」
お美しいお顔に似つかわしくない黒い笑顔で、金髪天使が糾弾する。
うん、やっぱり天使には特殊能力が備わってるのかな。すっごく不利なことをしてる気がしてきた!
しかし怯えながらもここで頷くとまずい気がするので、誤魔化すなら最後までと無駄な気合いを入れてみた。
「どういう意味ですか?とぼけるって何を?っていうかここはどこ?あなたたち誰ですか?いきなりいろいろ失礼ですよねっ」
声が震えてるのは疚しさからじゃない、腹立ちからです。だって情報は不足しっぱなしで、いろいろ不当な扱いなんですが?と抗議の意を込めて質問し返してみた。
普通に考えたらこれってすごく理不尽な場面じゃない。誘拐されて気絶して、気が付いたら知らない場所で正体不明な人たちに取り調べを受けてるなんて、不当だよね。その上、若い女の子に無断で触るとか、どうなの。いくら顔が良くても痴漢行為は許されません。
さあ説明しろと精一杯の虚勢を張っていたら、銀色のお兄さんが不機嫌に顔を歪めた天使を押し留めて、一歩こちらに近づいた。
「すまなかった。君は気を失っていたから、状況がわからないのだったな。私はこの家の主でサンフォル。そしてこちらのメトロスも同じくここの主だ。人買いに売られそうになったことは覚えているか?」
硬質な見た目に反した柔らかな声での自己紹介に辛うじて頷くと、サンフォルさんは小さく頷いて後を続ける。わたしがちょっと聞き逃せない主が2人な疑問に躓いている暇もなく、流れ作業で説明は続く。
えーっと、さっきからずっと思ってるんだけどね?お願いだからちっぽけな人間にも人権があるんだって、認めてもらえませんか権力者さん!
「我々は奴らを捕えるため、女性を買いたい貴族に扮していた。作戦は成功して犯人は一人残らず牢の中だし、君と共に捕らえられた女性達も無事保護したので安心してくれ」
「はぁ…」
にっこりと笑顔で教えていただいたニュースだけど、一言良いだろうか。犯人の行く末はともかく、顔も知らずに同じ魔力車に押し込まれてただけの女の人達のこと、そんなに心配してませんでした、ごめんなさい。
だって見ず知らずなんだもん!麻袋のせいで顔も知らないんだもん!だからほら、石投げないでっ!
良心の呵責から必死に逃げている最終にも、自己中なサンフォルさんのお話は続いていたらしい。
「…だから、君の正体が知りたかったんだ」
「あー…はい」
ぼーっとしているうちに確信を聞きそびれてしまいました。そして悪いことに、こんな時に発動しましたよ、日本人の必殺笑って誤魔化しちゃえ!…が。
適当に頷いたら、メトロスさんに先を促された。早く早くと子供のように急かしてくる。
これは、あれだね。もう自分が何者か白状しちゃうしかないよね。ああ、せめていきなり怒鳴られたり蔑まれたりしないと良いなぁ。
涙目になりながら覚悟を決めたわたしは、ぺろっと真実を吐き出した。
「地球から無理矢理召還されてきました、綺麗じゃない人間です」
多分にイヤミと皮肉を塗したのは、ご愛敬だ。散々な目に合って、今も現在進行形で正体を隠さなきゃいけない人間の、ささやかな矜持だ。
さあこの憐れな被害者を、罵れるもんならやって見やがれ!
こんな気分で目の前の美貌を睨み付けていたわたしは、美人もぽかっと口を開いてびっくりを表現するんだなぁ、と感心することとなる。
そして、そんな思いを維持できないほど馬鹿力でぎゅうぎゅうに抱きしめられたのはその直後だ。
「信じられない!なんて僕たちは幸運なんだ!!」
「ぐぇっ!ぐ、ぐるじ…」
「ああ、本当に…生きている間に、人間を手に入れることができるなんて」
しみじみ呟いてますけどね、サンフォルさん!さっさとこの人引き離してくれないと、死にます、死ねます!
酸欠で遠のき始めた意識はその時信じられない言葉を捉えていたのだけど、結局問いかけることなくブラックアウトしたのだった。
「本当に人間はキレイだったんだ!」
え~…そう思うなら、なんで抱き殺そうとするのよぅ…。
何やらリクに添えているか不安ですが…悪魔の双子より天使の双子の方が脳天気に出会いをクリアするんじゃないかという仕上がりです。
書き手イメージとして彼等の方が頭が軽い…ゲフンゲフン。