バンド
「今日は文化祭とのことで、催しがあるのでこの後、体育館に集合してください」
担任の金手が眠そうに言って朝のホームルームが終わった。体育館では、まず吹奏楽部の演奏から始まって、次に演芸タイムと称してコントなどが行われた。
僕はぼーっとそれらを見つめていた。コント。これはまあ陽キャたちの晴れ舞台だ。一生の思い出を作ってください。僕は仏頂面でただ、時間が過ぎるのを待っていた。しかし、そんな僕の心の静寂が壊れる瞬間がやってきた。
「では、次の演目はバンド演奏です」
と、司会の生徒が言った。そして、拍手とともに登場したのは高橋英雄だった。
「ボーカルの英雄DEAH!!盛り上がって行こうぜ!!」
一際、会場が盛り上がった。ドラムがビートを刻み、ギター、ベースが音を重ねる。ん?どこかで聴いたことあるなあと思った。あ。これ。昨日、梨田の家で聴いたバンドだ。あれだ。シャーベット。隣に座っている梨田を見た。うむ。険しい顔をしている。スギムーは?にこにこだ。何度でも言おう。スギムーはやさしいのだ。梨田の好きな美香さんは、楽しそうにリズムに合わせて手を叩き、首を振っている。明日花さんは?明日花さんはどうなのよ?と、明日花さんを見つめると、こちらも楽しそうな様子だ。
なんだ。結局、高校生活ってのは、陽キャと陰キャに分かれて、陰キャは陽キャの引き立て役でしかないのだ。雑草だ。陰キャは。陽キャは花。悔しいけれど。そうなんだ。
「次の曲は、僕の愛する人に捧げます」
と、高橋英雄。キャー、という黄色い歓声の中、高橋英雄は続けた。
「明日花さん。聴いてください。ビーマイベイベー」
は?さむ?こういう寒いことを平気でやってのけるのが、高橋英雄の高橋英雄たる由縁だよなあ。って、おい。せっかく、進んだはずの僕の恋。もう終わっちまうのかよ。梨田が慰めるように僕の肩を二回、ポンポンと叩いた。明日花さんはうれしいような、恥ずかしいような困った顔をしていた。会場はヒートアップして、熱気の中でバンド演奏が終わった。
「あーあ。梨田、スギムー。煙草吸い行こうぜ」
僕は何だか惨めでやってられなくなった。梨田たちを誘って体育館のベランダに出た。死角になっている喫煙スポットで、煙草に火をつけた。
「なんだか、つまんねえなあ」
ため息とともに煙草の煙が青空に浮かんでは消えて行った。
「久太郎、残念だったな」
気まずそうに梨田が言った。
「つまんね、つまんね」
煙草を揉み消して、向かいの道路へ投げた。
「俺らって一体なんだろうね」
と僕はつぶやいた。なんだか、全身から力が抜けていくようだった。梨田はやはり、とても気まずそうだった。
「まだわかんないよ。高橋君と明日花さんが付き合うって決まったわけじゃないんだし」
「スギムー!!!!!!」
僕と梨田の声が合わさった。そうだ、まだ決まったわけじゃない。僕にだって入り込む隙があるかもしれない。希望。僕は輝きを取り戻した。ベランダから体育館に戻ると、次のバンドが演奏をしていた。その演奏が終わると司会の生徒が言った。
「次の催しは、体育館、一階で行われますボクシング大会です。皆様の参加をお待ちしております」




