第7話 魔法研究所の眼鏡イケメン
令嬢Aが、うっとりした顔で言った。
「エレノア様……推し活、本当に楽しいですわ」
令嬢Bも頷く。
「昨日も騎士団へ行きましたの」
「ルーカス様が、手を振ってくださいました!」
令嬢たちの間では――すでに大ブームになっていた。
そして今日。
令嬢たちは集まっていた。
通称――推し活令嬢会議。
その中心にいるのは、もちろんエレノアだった。
エレノアは優雅に紅茶を飲みながら言う。
「皆様」
「王都には、まだまだイケメンがいるはずですわ」
令嬢たちがざわつく。
「……!」
「それぞれ好みは違いますし」
「幅を広げることも大切ですわ」
一度、紅茶を置く。
「――視野を広げましょう」
令嬢Aが目を輝かせた。
「どういうことですの?」
エレノアは指を折りながら説明する。
「例えば――」
「魔法研究所」
「商会の御曹司」
「冒険者ギルド」
「騎士団第二部隊」
令嬢たちの目が輝いた。
「……!」
エレノアは、にこりと微笑む。
「推しは一人とは限りません」
「自分に合った恋愛を探す」
「それもまた人生ですわ」
「確かに……」
「視野が広がりますわね」
「さすがエレノア様ですわ!」
エレノアは満足そうに頷いた。
「では――」
「次は魔法研究所へ向かいましょう」
「きゃーーーー!!」
王都の平和は、少しずつ崩れ始めていた。
***
翌日。
エレノアたちは、魔法研究所へ来ていた。
「見てくださいませ」
「魔法研究所の方々、格好いいですわ」
令嬢たちがざわつく。
「あの方……」
「眼鏡イケメンですわ!」
「最高です!」
一人の令嬢が声を上げた。
「もしかして――」
「あの方、噂の」
「天才研究者」
「シリウス=クローヴィス様ではなくて?」
令嬢たちが一斉に手を振る。
「シリウス様ーーー!」
「格好いいですわーー!」
研究所の中がざわついた。
「……なんだ?」
「令嬢がいるぞ」
ロレンツォが隣を見る。
「シリウス」
「お前、呼ばれてるぞ」
シリウスは顔を上げた。
「え?」
「僕?」
令嬢たちが、ぶんぶん手を振っている。
「シリウス様ーー!」
「頑張ってください!」
シリウスは戸惑った。
「えっと……」
そして――恐る恐る手を振り返す。
「キャーーーー!」
令嬢たちが歓声を上げた。
「手を振ってくれましたわ!」
「眼鏡イケメン最高です!」
研究者たちは顔を見合わせる。
「……なんだこれ」
「噂の推し活じゃないか?」
「推し活?」
「知らないのか?」
「最近、令嬢の間で流行ってるらしいぞ」
「イケメンを応援するらしい」
「……なんだそれ」
そのとき、シリウスが小さく呟いた。
「……あの方」
ロレンツォを見る。
「誰?」
ロレンツォは呆れた顔をした。
「知らないのか?」
「あれはエレノア=ローゼンベルク公爵令嬢だ」
「王都一の美人って有名だぞ」
シリウスは、もう一度エレノアを見る。
柵の向こうで、明るく笑っていた。
「シリウス様ーー!」
楽しそうに手を振っている。
その瞬間。
シリウスの心が、大きく揺れた。
「……綺麗な方だな」
小さく呟く。
「公爵令嬢っていうと……」
「身分が全然違うな」
ロレンツォが肩をすくめた。
「ああ」
「高嶺の花だ」
「でも――」
少し笑う。
「殿下と婚約破棄するって噂だ」
「……え?」
「王都の男は、みんな狙ってる」
「それに」
「推し活して恋を探してるって話だ」
シリウスは苦笑した。
「僕には関係のない話だな」
そのときだった。
柵の向こうから声が響く。
「シリウス様ーーー!」
エレノアだった。
満面の笑顔で叫ぶ。
「格好いいです!」
「頑張ってください!」
シリウスの心臓が、大きく跳ねた。
「……!」
ロレンツォが肘でつつく。
「お前」
「呼ばれてるぞ」
シリウスは慌てて手を振り返した。
「キャーー!」
「手を振ってくれましたわ!」
令嬢たちが歓声を上げる。
シリウスの胸が高鳴る。
「……」
小さく呟いた。
「ワンチャン……あるのか?」
ロレンツォは笑った。
「あるかもしれんぞ」
推し活令嬢たち、ついに魔法研究所へ突撃しました。
騎士団とはまた違う、
「静かな眼鏡イケメン枠」が追加されています。
そしてシリウス君。
完全に巻き込まれました。
なお、エレノア様は今のところ、
わりと純粋に推し活を楽しんでいます。
次回もよろしくお願いします!




