第3話 推し活してますよ
「ルシェル。」
「何ですか、殿下。」
「エレノア嬢のことです?」
王子は机に肘をついた。
「ノアが婚約破棄しようって言うんだ。」
「俺、何も悪いことしてないと思うんだよ。」
「なのに、清楚系ヒロインと結婚しろとか言うんだ。」
「意味が分からない。」
ルシェルは肩をすくめた。
「清楚系の女子とか、いいじゃないですか。」
王子は即答した。
「よくない。」
「即答ですね。」
王子は真顔だった。
「ノアよりかわいい子がいると思うか?」
ルシェルは少し考える。
「まあ……エレノア嬢は美人でかわいらしくて。」
「とってもスタイルがいいですからね。」
「王都一の美人であることは間違いないかと思いますが。」
王子は満足そうにうなずいた。
「だろう?」
「まだ手だって、あまり繋いだことないし。」
「エスコートのときくらいで。」
「目も、あまり合わせられないんだ。」
ルシェルは真顔で言った。
「重症ですね。」
王子は遠くを見る。
「かわいすぎるんだよ。」
「性格だっていいし。」
「優しいんだ。」
「前だって、俺にクッキー持ってきてくれた。」
「俺が一度、好きだって言ったから。」
「この前だって。」
王子はぽつりと言った。
「ノア、俺の好きな紅茶を覚えてたんだ。」
「しかも、俺に淹れてくれた。」
「“疲れてると思ったので”って。」
一瞬、遠くを見る。
「更に……“練習したんです”って言ってた。」
「かわいすぎだろ。」
「俺のために練習だぞ?」
ルシェルは真顔だった。
「殿下……惚気ばかり聞かされても……」
「普通にエレノア嬢、殿下のこと好きだったと思いますよ。」
「だろ?」
王子は即答した。
「俺、倒れそう。」
「ノアと会って幸せ満喫したい。」
「毎日会いたいんだけど。」
ルシェルは深いため息をついた。
「なのに婚約破棄なんですよね。」
「意味が分からない。」
王子は真顔だった。
「今日なんて。」
「騎士団のルーカスに手を振ってたんだ。」
王子は机に額をつけた。
「無理だ。」
「どうすればいい?」
ルシェルはため息をついた。
「まず。」
「殿下。」
「なんだ。」
「好きって言ったことあります?」
王子は黙った。
「あります?」
「……」
「ないですね。」
「……恥ずかしいだろ。」
「だからですよ。」
「……」
「でも、俺だって一応、何度も好きって言おうとしたんだ。」
「その度にノアが、“このお花かわいいですね”とか言うから。」
「あ……本当にかわいいって思って、一緒に見ちゃったりして……逃したんだ。」
王子は遠くを見る。
「ほら。ノアがかわいいって言うものは、一緒に見たいだろ?」
「それにノアは、いつもかわいいものが好きで。」
「本当に優しいんだ。」
「この前だって、転んでいた子どもにすぐ手を差し伸べてたし。」
「美人なだけじゃなくて、心も優しい。」
「俺に対しても、本当に気遣ってくれて。」
「……ノアしかいないよな。」
ぽつりと呟く。
「初めて見たときから、撃ち抜かれてたし。」
「やばい。好きすぎてどうすればいい?」
ルシェルは肩をすくめた。
「いや、殿下……そんな状態で浮気なんて、むしろ無理でしょう。」
「エレノア嬢、勘違いしてるんじゃないですか?」
「まさかとは思いますけど……」
「無言だし、目も合わせないし、“本当は嫌われてるんだ”“好きな人がいるんだ”って思ったとか。」
「それで、“浮気する”って勘違いした可能性ありません?」
王子は勢いよく顔を上げた。
「なんでだ。そんなわけないだろ。」
「そんなこと言われても……知らないですよ。」
「でも。」
「このままだと。」
「騎士に取られますよ。」
「……」
王子は立ち上がった。
「今からノアに会いに行く。」
「やめたほうがいいと思いますけどね。」
「なんでだ。」
ルシェルは窓の外を見た。
「エレノア嬢。」
「たぶん今頃――」
少し笑う。
「推し活してますよ。」
「……」
王子は青ざめた。
「ルーカス……!」
「騎士団に行ってくる。」
王子が勢いよく立ち上がる。
ルシェルは呆れた顔をした。
「え? またですか。」
「止めないのか。」
「止めても行くでしょう。」
王子は真顔だった。
「行く。」
「でしょうね。」
今回、王子の重症具合がかなり発覚しました。
・好きって言えてない
・目が合わせられない
・毎日会いたい
・紅茶で幸せ満喫したい
かなり危ないです。
しかも本人は、
「こんなに好きなんだから伝わってるだろ」
と思っています。
伝わってません。
そしてエレノアは、
たぶん今日も元気に推し活しています。
ルシェルはだいぶ苦労人です。
次回、騎士団側がさらにざわつきます。




