第26回 今度こそは言う
「シリウス、そういえばエレノアとはどんな話をしているんだ?」
殿下が言った。
……エレノア様は殿下のことで悩んでいる。
「殿下、エレノア様はいつも殿下のことで悩んでおられますよ」
「もしかして……俺が推し活の邪魔ばかりしているからか?」
「でも、嫌なんだよ」
「今日は来たとか、来なかったとか」
「推し活の話はほとんどしてません」
「ただ、殿下が来て困っていたとか、そういう話です」
「……そんなに迷惑をかけてしまっていたのか」
「違います」
シリウスは即答した。
「そこではありません」
「では何なんだ?」
「殿下は本当に話を聞いていたのですか?」
「聞いていたぞ」
「来たとか来なかったとか言っていましたよね?」
「ああ」
「それを気にしている時点で、殿下の話をしているのです」
「……?」
「エレノア様は殿下の行動ばかり見ています」
「むしろ推し活の話より多いくらいです」
「え?」
「この前話したときも、殿下が困っているから協力してほしいと頼まれました」
「殿下は人と話すのが苦手だと思っているみたいで」
「特に女性相手は駄目みたいだから、協力してあげてほしいと」
「いつも殿下の話をされています」
「エレノア様は気づいていないかもしれませんが」
「話題のほとんどが殿下ですよ」
「……そうなのか?」
「はい」
「殿下が来てくださったとか」
「最近忙しそうだとか」
「体調は大丈夫だろうかとか」
「そんな話ばかりです」
「推し活の話よりも多いくらいですね」
殿下は少し黙った。
「嫌われているわけではないのか」
「むしろ逆では?」
「殿下」
「何だ」
「いい加減に好きだと言ったらどうなんですか?」
王子が固まった。
「む、無理だ」
「なぜです?」
「無理だからだ」
「理由になっていません」
シリウスはため息をついた。
「そうやっている間に、本当にルーカス様に取られますよ」
「……」
「彼は本気を出すと思います」
王子は黙った。
「ルーカスはそんなことをしない」
「今はそうでしょうね」
「ですが、エレノア様が誰も選ばない状況が続いたらわかりません」
「ルーカス様は優しい方です」
「だからこそ、諦め続けるとも限りません」
王子の表情が少し曇る。
「……」
「それに」
「エレノア様は魅力的です」
「殿下だって、そこは否定しないでしょう?」
「もちろんだ」
即答だった。
「世界で一番素敵な女性だ」
シリウスは思った。
言えるじゃないですか。
「では、その言葉を本人に言ってください」
「無理だ」
「なぜです?」
「恥ずかしい」
「エレノアに言えたら苦労しないんだ」
「俺だって何回も言おうと思ったんだ」
王子は少し視線を落とした。
「でも、本番になると駄目なんだ」
「何を話せばいいのかわからなくなる」
「気づいたら帰る時間になっている」
シリウスは思った。
重症だ。
「ですが、言わなければ伝わりませんよ」
「わかっている」
王子は小さく頷いた。
「もうすぐエレノアが来てくれる日なんだ」
「その時に頑張って言うことにする」
「今度こそは」
シリウスは少し考えた。
正直なところ。
もう十分だと思った。
努力していないわけではない。
むしろ誰よりしている。
問題はそこではない。
ただ一言。
本人に伝わっていないだけだ。
「殿下」
「なんだ」
「本当に頑張ってください」
「わかっている」
王子は真面目に頷いた。
「今度こそは言う」
その顔だけは本気だった。
だからシリウスも頷いた。
多分、大丈夫だろう。
多分。
「ちなみに……何回目ですか?」
「覚えてない」
「覚えてないんですか」
「数えきれない。幼いころからだからな」
「失敗しすぎじゃないですか?」
「うるさい」
「それで毎回言えなかったのですか?」
「ああ」
「殿下」
「なんだ」
「それは少し反省してください」
「……そうかもしれない」
「今度こそは言う」
その顔だけは本気だった。
「今度こそは絶対に頑張るんだ」
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回は殿下視点(?)でお送りしました。
本人はかなり頑張っているのですが、なかなか伝わりません。
シリウスも思わず頭を抱えるレベルです。
そして殿下は「今度こそは言う」と決意しました。
果たして本当に言えるのか。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。




