第22話 推し活に割込みは禁止です
殿下が思っていた以上に、人と話すのが苦手だということもわかった。
でも、そのことばかり考えていたくはなかった。
少し、気分を変えたかった。
だから今日は、シリウスのところへ行くのではなく、騎士団へ来てみた。
剣の音が響く。
乾いた音と、金属が触れ合う音。
騎士たちは真剣な顔で訓練をしていた。
その中にいるルーカスを見る。
……やっぱり格好いい。
思わず目で追ってしまう。
顔立ちも整っているし、立ち姿まで綺麗だった。
令嬢たちに人気があるのも、少しわかる気がする。
「ルーカス様ー!」
あちこちから声援が飛ぶ。
……負けていられない。
何に対してかは、よくわからないけれど。
私も手を振った。
「ルーカス様ー、頑張ってください!」
ルーカスがこちらを見た。
目が合う。
……気づいてくれた。
少し嬉しくなる。
その時だった。
騎士たちが、にやにやしながらルーカスをつつく。
「エレノア様だぞ」
「ほら、行って来いよ」
「待たせるな」
ルーカスは少し困ったように笑った。
けれど、嫌そうには見えない。
軽く息をついて、こちらへ歩いてくる。
目の前まで来ると、小さく笑った。
「エレノア様。」
声を落とす。
「来てくださって、嬉しいです。」
少しだけ驚いた。
まさか、来てくれたことを喜ばれるとは思っていなかった。
ルーカスは少し視線を逸らした。
「あの……もしよろしければ、この後、少しお話しできませんか」
「まだ練習がありますので、終わってからになりますが……」
少し照れたように笑う。
「お待たせしてしまうかもしれません」
それから、こちらを見る。
「でも、もう少しで終わります」
「少しだけでも、お時間をいただけたら嬉しいです」
まっすぐ、私を見る。
……私?
一瞬、周りを見た。
ルーカスは変わらずこちらを見ていた。
その時だった。
扉が開いた。
「ノア。」
聞き慣れた声だった。
振り返る。
「……殿下。」
王子は少し眉を寄せた。
ルーカスを見て、それから私を見る。
「またここにいたんだな。」
少し黙る。
「推し活、やめてくれって言っただろ。」
私は小さく息をついた。
「殿下、前にも言いました。」
視線を返す。
「推し活をやめる気はありません。」
王子はすぐに返した。
「……嫌なんだ。」
静かな声だった。
「他の男を見てるのが。」
令嬢たちは思っていた。
空気を読んでくださいませ、殿下。
今、完全にイベント発生中でしたのに。
ルーカス様、自分から誘いましたわよね?
あれ、かなり貴重な場面ではありませんか。
何故、このタイミングで乱入を。
推し活に割り込みは禁止です。
皆、心の中だけで静かに嘆いた。
……惜しい。
実に惜しい。
ルーカスは少し戸惑ったように言った。
「あの……殿下。もしよろしければ、少しだけエレノア様とお話するお時間をいただいてもよろしいでしょうか」
王子はすぐに頷いた。
「ルーカス、騎士団の配置や勤務の相談なら俺が聞こう」
真面目な顔で続ける。
「改善するのも俺の仕事だ」
そして首を傾げた。
「で、何だ? ルーカス。話があるんだろう?」
殿下は、確実に善意だった。
「ルーカス、ここにかけるんだ」
殿下は近くの椅子を引いた。
ルーカスは固まった。
「……え?」
殿下は不思議そうに首を傾げる。
「どうした?」
「話があるんだろう?」
「騎士団のことか?」
「それとも何か困っているのか?」
完全に聞く姿勢だった。
ルーカスは一瞬だけこちらを見た。
……違います。
そんな顔をしていた。
「で、話は?」
こうして何故か、
ルーカスと殿下の面談イベントが発生した。
殿下は少し考えた。
……シリウスも、色々困っていた。
話を聞くことは大事だ。
きっとルーカスだって、何かあるのかもしれない。
ちゃんと聞いてあげないと。
殿下は頷いた。
「あ……よかったら、他の騎士たちも順番に話を聞くぞ」
静かに言う。
「気づいていないこともあるかもしれないからな」
騎士たちは止まった。
「……え?」
「はい?」
「何の話です?」
誰も状況を理解していない。
こうして突然、
騎士団面談イベントが発生した。
令嬢たちは思った。
違いますわ。
ルーカス様は労働環境改善を求めていたわけではありません。
今、恋愛イベントでした。
誰か説明してくださいませ。
……惜しい。
実に惜しい。
エレノアは思った。
……殿下。
やっぱり真面目ですわ。
困っている方がいたら、きちんと話を聞こうとする。
素敵なことだと思う。
そして、ルーカスを見る。
……なるほど。
ルーカス様も、そういうことでしたのね。
騎士団の環境改善。
確かに、大切なことかもしれない。
訓練も厳しそうだったし。
そういうことを考えるのも、良いことですわ。
エレノアは一人、納得した。
ルーカスだけが、何も解決していなかった。
今回は騎士団回でした。
推し活のつもりで来たはずなのに、何故か騎士団面談イベントが発生しました。
ルーカスは勇気を出したはずなのですが、まさかの方向へ進んでしまいました。
殿下は殿下で真面目に話を聞こうとしているだけなので、誰も悪くないのが少し困ります。
令嬢たちはたぶん一番状況を理解しています。
そしてエレノアだけ、普通に労働環境改善の話だと思っています。
果たしてルーカスは次回、ちゃんと話せるのでしょうか。
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