第21話 比較検証です
今日は殿下が私に魔法通信をしてきた。
二人で話したのだった。
殿下と話が弾むかと言われると、そうでもなかった。
「あの……殿下」
「何だ」
「その……女の人が苦手なんですか?」
「いや……その……そういうわけじゃなくて」
会話が止まる。
シリウス様がいないと、続かない。
……ここまでだったとは。
もしかして、鍛えないといけないのかしら。
少し考えて、私は口を開いた。
「あの、思ったんですけど、これから毎日お話ししませんか」
「……え?」
もちろん、殿下は天にも昇るような気持ちだった。
婚約破棄と言われていたのに。
これは……前進なのか。
もしかして。
やっぱり、少しは慕ってくれているのか。
思わず口元が緩む。
……待て。
つまり、そういうことだろう?
「毎日、話したい」
「わかりました」
私は小さく頷いた。
「特訓して差し上げます」
「……何?」
殿下は止まった。
私は真面目に続ける。
「殿下には、会話トレーニングが必要だと思います」
「これは、シリウス様にもご協力いただいた方が良いかと思います」
「え?」
予想外だったのか、殿下が止まった。
「私と二人の時と、シリウス様と私と殿下、三人の時を作りましょう」
「比較検証です」
「……比較?」
「慣れれば改善するかもしれません」
私は頷いた。
「それしかありません」
殿下は静かに考えた。
待て。
毎日話せる。
そこは良い。
だが。
何故シリウスが増えた?
何故二人から三人になった?
これ、本当に前進しているのか?
私は説明する。
「やはり、二人だと話しにくい時もあるかもしれません」
「慣れるためにも、三人の時と二人の時、両方設けるべきです」
「……なるほど」
殿下は頷いた。
確かに。
いきなり二人だと難しい。
段階を踏む。
自然だ。
「あ……納得だ」
少し考えて、口を開く。
「つまり、その方が二人でうまく話せるようになるということだな」
「はい。そうです」
私は迷いなく頷いた。
殿下は少しだけ口元を緩めた。
なるほど。
まず三人。
そして二人。
そういう流れか。
悪くない。
……悪くないな。
そして最後には。
俺達は二人で話せるようになる。
それに。
シリウスとも仲良くなれる。
シリウスは、いいやつだし。
何も問題ないんじゃないか?
殿下は頷いた。
「シリウスがいてくれたら、少し話せるようになるかもしれない」
「ですよね」
私は納得した。
「シリウス様にお願いしましょう」
殿下はさらに納得した。
なるほど。
最初は三人。
少しずつ慣れて。
最後は二人。
完璧じゃないか。
少しだけ口元が緩む。
……シリウス。
協力してくれるよな。
「では、シリウス様にも繋いでください」
「……わかった」
殿下は魔法通信を操作した。
しばらくして、通信が繋がる。
「どうなさったのですか?」
シリウスの声が聞こえた。
(うわ……三人通信だった)
何も考えず、殿下からだと思って取ってしまった。
少しだけ姿勢を正す。
殿下が言う。
「シリウスと三人で話をしたいんだ」
「協力してくれないか」
「シリウス様」
エレノア様が真剣に言った。
「シリウス様だけが救世主なのです」
「……え?」
止まった。
何だろう。
急に責任が重い。
エレノア様が説明する。
「殿下が話せないのです」
「……は?」
殿下が少し視線を逸らした。
「だから、三人で話をしたいと」
「特訓です」
エレノア様は頷く。
「そうでないと、誰とも話せないのですから」
「……え?」
シリウスは目を瞬いた。
殿下。
エレノア様だけではなく、他の方とも話せなかったんですか?
それは。
確かに問題があるかもしれない。
少し考えて、頷いた。
「……わかりました」
「トレーニングに参加させていただきます」
殿下は少し安心した顔をした。
シリウスも納得した。
これは恋愛ではない。
友人として支えるだけだ。
協力して差し上げなければ。
「私も、トレーニングをして差し上げなければと思ったのです」
エレノア様は真面目に言った。
やはり。
そういうことか。
シリウスは少し納得した。
エレノア様は優しい。
きっと、放っておけなかったのだろう。
殿下も。
思っていたよりずっと不器用だった。
なら。
自分が協力するのは当然かもしれない。
少しだけ笑う。
「頑張りましょう。殿下」
殿下は頷いた。
「ああ」
これでいい。
これでいいのだ。
そう思った。
……それでも。
胸の奥は、少しだけ痛かった。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
今回は少し空気が変わった回でした。
殿下は頑張って話していて、エレノアは真面目に改善方法を考えて、シリウスは協力することになりました。
ただ、三人とも見えている景色が少しずつ違う気がします。
毎日話すことになりましたが、本当に会話トレーニングになるのか、それとも別の方向へ進むのか……。
比較検証は大事です。
次回もよろしくお願いいたします。




