第19話 魔法通信は難しい
その後。
王子とシリウスは、二人で話していた。
「……先に言っておきます」
シリウスは静かに言った。
「殿下がいらっしゃるからといって、会話が変わることはありません」
「いつも、ああいう感じです」
「……でも」
「お二人の関係を邪魔するつもりはありません」
「ただ」
少しだけ視線を落とす。
「お友達でいられたら、嬉しいです」
王子は静かに頷いた。
「……シリウス」
「俺は、本当にノアのことが好きなんだ」
言葉が少しだけ不器用にこぼれる。
「だから……うまく話せなくて」
「二人だと、どうしても緊張してしまう」
シリウスは少しだけ笑った。
「……挙動不審でしたね」
「そうか?」
「はい」
少し肩をすくめる。
「でも」
「続けていけば、話せるようになると思います」
「……多分ですが」
王子は小さく息を吐いた。
シリウスは少しだけ視線を逸らした。
「本当は」
一瞬だけ言葉を止める。
「エレノア様と僕が話すの、嫌ですよね」
王子は答えなかった。
シリウスは静かに笑った。
「でも、見ていればわかります」
「殿下は、本当にエレノア様のことが好きなんだなって」
少し迷ってから続けた。
「……それと、もしかしてですが」
「常にエレノア様のことを考えていたり……しませんよね」
王子は黙った。
「……何で知ってるんだ?」
シリウスは答えない。
少しだけ目を逸らした。
王子は小さく息を吐く。
「……やっぱり、メルヘンなんだな」
少しだけ視線を逸らす。
「……だって、ノアはかわいいし」
「優しいんだ」
シリウスは一瞬だけ黙った。
「……大好きなんですね」
「ああ」
短く返す。
シリウスは少し考えてから言った。
「エレノア様は、多分……あまり気づいていません」
「そうだろうな」
「だから」
少しだけ笑う。
「はっきりしないと、ルーカス様に取られますよ」
「……ルーカスにか」
「はい」
「彼は、ぐいぐい来ますから」
王子は息を吐いた。
「……どうすればいいんだろうな」
「頑張るしかないんじゃないですか」
「……頑張ってるつもりなんだ」
少しだけ視線を落とす。
「今日だって、魔法通信を覚えて」
「……でも、空回りしてる気がする」
少し考える。
「声を聞いたら、かわいすぎてちゃんと話せないし」
「何を話せばいいかわからなくなるんだ」
「気づいたら、無言になってしまう」
王子は小さく笑った。
「……多分、ノアからしたら嫌だろうな」
「話しかけたのに黙られるなんて」
少しだけ肩を落とす。
「でも、緊張するんだ」
シリウスは少し困ったように笑った。
「……僕に、恋愛相談ですか?」
「他に聞けるやつがいない」
「ルシェルは……知りすぎてる」
シリウスは小さくため息をついた。
「一応、僕もエレノア様の“推し”の一人なんですけど」
「……まあ、そうだけど」
王子は少し言葉を探した。
「いきなり、清楚系ヒロインと付き合えって言われても」
「どうしたらいいかわからない」
シリウスはぽつりと言った。
「……清楚系ヒロインって」
小さく首を傾げる。
「ノア以外に、いるんですか?」
王子は少しだけ考えた。
「……いないだろう」
シリウスは目を細めた。
「……重いですね」
「それなら」
あっさり続ける。
「好きだって言えばいいんじゃないですか」
「……できたら、苦労しないだろう」
「まあ……確かに」
「簡単に言えたら、苦労しないですよね」
王子は小さく頷いた。
「……そうなんだ」
少しして、王子が聞いた。
「シリウスは、そういう経験はないのか?」
「僕ですか?」
少し考える。
「……いいな、とは思いましたよ」
視線を逸らす。
「ただ」
「そういう関係には、なってはいけないので」
王子は静かに聞いていた。
「……何か事情があるんだな」
シリウスは答えない。
王子は少し考えてから言った。
「……でも」
「本当に好きなら」
視線を逸らす。
「それでいいんじゃないかって……俺は思うけどな」
シリウスは少しだけ笑った。
「……殿下は、優しいんですね」
王子は少し考えた。
「あ……でも」
「ノアだったら——やめてくれ」
シリウスは思わず笑った。
「……シリウス」
王子は少しだけ視線を逸らす。
「ノア以外なら——」
少し言葉を探す。
「全力で応援するぞ」
小さく息を吐く。
「ルーカスのことも嫌いじゃない」
「多分、いいやつなんだろうと思う」
少しだけ黙る。
「……でも」
視線を戻した。
「ノアは、だめだろう」
シリウスは少し呆れたように笑った。
「殿下って……結構、天然ですよね」
「いつも、そんな感じなんですか?」
「……そうだが」
王子はあっさり答えた。
シリウスは肩をすくめる。
「まあ……お互い、頑張りましょう」
「……シリウスもだ」
王子は少しだけ笑った。
「俺みたいに、こじらせることになる」
そして、少し視線を逸らした。
「それと——」
「……ありがとう」
「魔法通信」
小さく息を吐く。
「本当に、嬉しかったんだ」
ここまで読んでくださってありがとうございました。
今回のお話は、珍しく王子側の恋愛相談回でした。
好きなのに話せない。
話したいのに、いざ声を聞くと何を言えばいいかわからない。
意外と、そういうものなのかもしれません。
そして、相談相手に選ばれたシリウスは少し大変だったと思います。
でも、魔法通信を覚えたことも、話そうとしたことも、王子なりの頑張りだったのかもしれません。
次回もよろしくお願いします。




