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婚約破棄した悪役令嬢、騎士団推し活を始めたら王子の執着が止まりません  作者: ZERO POINT


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第16話 やめられない時間

 婚約者である殿下がいるのに。


 毎日こうして魔法通信をしている自分たちは——少し、おかしいのではないかと思う。


 でも。


 やめられない。


 別に、浮気をしているわけではない。


 ただ——気楽なだけだ。


 シリウスは端末を軽く指で弾いた。


「……便利ですよね、魔法通信って」


「ええ」


 私は頷く。


「こんな風に、好きな時に話せるなんて。


 昔は考えられませんでしたもの」


「そうですね」


 シリウスは少しだけ笑った。


「……本当は、婚約者がいる人に毎日連絡してるんですよね」


 少しだけ視線を逸らす。


「さすがに、まずいなって思います」


「……でも、やめられないんです」


「実は——やめないとって思ったこと、何回もあるんですけどね」


「私もよ」


 私は小さく息を吐いた。


「やめられないの。


 この時間……好きなのよ」


「……僕もです」


 ほんの少しだけ沈黙が落ちる。


「ただ——必要なのかもしれませんが」


「必要ね」


 私は、その言葉をなぞるように呟いた。


「……そうなのかもしれないわ」


 シリウスは、ふっと笑う。


「でも、エレノア様が推し活をしていなかったら、こんなことありえませんよね」


「そうね」


「だいたい、エレノア様と僕とでは身分も違いますし。


 こうして話すことなんて、本来はほとんどないですから」


 少し照れたように続ける。


「エレノア様と話すようになって、色々変わりました」


「視野も広がりましたしね」


「……わかったことは」


 シリウスは肩をすくめた。


「ご令嬢の世界は、大変だってことです」


 私は思わず笑ってしまった。


「意外と大変なのよ。


 私も、研究員の世界が大変だってことはわかったわ」


「今思ったんですが……殿下とは魔法通信しないんですか?」


「そういえば……しないわね」


 少しだけ間があく。


「今どき、誰でもしてるでしょう?」


「いや……それは、魔法が上手なあなたくらいでは」


「そうですか?」


 シリウスは、本気で不思議そうに首を傾げた。


「魔法が上手じゃない人は、あまりしないのよ」


「そうなんですか?」


「ええ。


 発達はしていても、魔法自体は難しいもの」


「……簡単ですが」


「確かに……殿下やルーカス様は、魔法がものすごく得意というより——剣の方が上手そうですね」


「ええ」


 私はあっさり頷いた。


「実際、使っているのは研究所とか、一部の人間なんじゃないかしら」


「……そうかもしれませんね」


「だから、私もシリウスに連絡してもらってるもの」


「確かに……僕から毎日してますね」


 シリウスは少し困ったように笑った。


「難しいのよ」


 私は小さく息を吐く。


「また、明日も連絡していいですか?」


「ええ。いつもの時間で」


「……楽しみにしてるわ」


「僕も、毎日楽しみです」


 少しだけ沈黙が落ちた。


「じゃあ……おやすみなさい」


「おやすみなさい」


 通信が切れる。


 私は端末をそっと置いた。


 静かな部屋に戻る。


 でも——少し前まで聞こえていた声が、まだ残っている気がした。


 こんな風に、毎日誰かと話すことなんて今までなかった。


 しかも相手は、婚約者でも令嬢でもない。


 魔法研究所の研究員だ。


「……変よね」


 小さく呟く。


 本来なら、殿下とこういうことをしていても、おかしくないはずなのに。


 でも。


 殿下とは、こういう空気にはならない。


 気楽に話せて。


 疲れたと言えて。


 少し愚痴をこぼして。


 そんな時間が、自然に続いている。


 ただ——一度でいいから、殿下とこういうことをしてみたかった。


 そんなことを思ってしまった。


 婚約者なのに、何もそういうものがない。


 いつも私の想いは、一方通行だった。


 私はベッドへ腰を下ろす。


 そして、また端末を見た。


 もう通信は切れているのに。


「……何してるのかしら、私」


 そう言いながら。


 少しだけ、笑ってしまった。


 明日も、きっと同じ時間になれば端末を開くのだろう。


 そんな自分を、もう想像できてしまっていた。


 ……どうしてかは、わからないまま。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。 

 

 毎日少しずつ距離が近づいていく回でした。


 恋というより、

 “気づけば隣にいる”みたいな関係を書きたかった気がします。


 でも、こういう時間って案外危ないですよね。


 次回もよろしくお願いします。

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