第12話 推し活をしているのに、殿下のことが忘れられません
帰り道、ルシェルが声をかけてきた。
「あの、エレノア嬢」
少し言いにくそうに続ける。
「殿下のことですが……信じてもらって大丈夫だと思います」
私は足を止めた。
ルシェルは真面目な顔で言う。
「側近としてずっとお仕えしていますが、殿下が浮気をされるような方ではありません」
「むしろ……ずっとエレノア嬢のことを大切にしていると思います」
そして、小さく苦笑した。
「多分、すれ違っているだけかと」
「殿下、かなりわかりにくい方なので」
少し肩をすくめる。
「勉強とか剣とか、そういうのはすごくできるんですが……」
「それ以外は、結構ポンコツなんです」
そして困ったように笑った。
「エレノア嬢なら、ご存じだとは思いますが」
「……知ってます」
私は小さく笑った。
「殿下、昔からそうですから」
ルシェルは少し迷うようにしてから続けた。
「側近として言うのは間違っているかもしれませんが……」
「殿下は、青い花の思い出も大切にされています」
私は思わず顔を上げた。
「エレノア嬢は、青い花がお好きなんでしょう?」
「はい」
私が頷くと、ルシェルは小さく笑った。
「いつも殿下に聞かされていますから」
「それくらいは、私も知っています」
少し肩をすくめる。
「それに、不器用ですが、殿下って結構頑張ってるんです」
「あれでも毎日、“どうしたらエレノア嬢と仲良くなれるか”考えてるんですよ」
「あれで……ですか?」
「はい」
私は少し視線を落とした。
「私のことは、そんなに好きじゃないと思うのですが」
「そんなはずありません」
ルシェルは即座に否定した。
「……本当に不器用なだけです」
そして、小さな声で続ける。
「あと……エレノア嬢が来る日は、殿下かなり落ち着かないんです」
「え?」
「部屋を無駄に片付けたり」
「紅茶を確認したり」
「花の位置を変えたり」
「完璧だと言っていたのに、直前になると落ち着かなくなるんです」
「今日は変じゃないか、と何回も聞かれます」
「……殿下が?」
「はい」
「最近は、ルーカス様と比較して、“ああいう感じの方がいいのか?”と聞かれることもありますし」
「シリウス様と比較されたりもします」
「……」
「比較しなくてもいいと思うのですが」
「タイプが違いません?」
「そうですよね。私もそう言うんですけど」
「なかなか聞き入れてくれないんですよ」
「“好みも反映せねばならない”とか言い出す始末です」
ルシェルは小さくため息をついた。
「しかも、エレノア嬢が帰った後は、しばらく静かになります」
「何を考えてるんですか?」
「“嫌われていなかっただろうか”って」
「毎回です」
「……」
「反省会も毎回ありますから」
「……反省会?」
「はい」
「例えば……話の内容が悪かったとか」
「花は別のものが良かったんじゃないかとか」
「紅茶も違うものを出した方が良かったのかもしれないとか」
「絵を変えた方が良かったとか」
「色々あるんです」
「聞いてる私の身にもなってください、って思うんですけど」
「本当に大変なんです」
そして、ルシェルは少しだけ笑った。
「でも――」
「殿下は、本当に不器用なんです」
「殿下には秘密にしておいてください」
私は何も言えなかった。
青い花のことを――
殿下も覚えていたなんて、思っていなかった。
もう捨てようと思っていたのに。
どうして。
殿下のことを思わなかった日は、一日もない。
推し活を始めて、色んな人を見て、応援して。
元気をもらって。
そこに夢中になろうとしていた。
なのに。
どうして私は、まだ殿下のことを考えてしまうのだろう。
好きになってはいけないのに。
きっと殿下は、もっとふさわしい人と幸せになる。
その邪魔にはなりたくなかった。
ちゃんと幸せを願える自分でいたい。
ただ、それだけなのに。
今まで、何も言わなかったのに。
どうして今になって、引き留めるのだろう。
きっと、いつか前へ進んでしまうのに。
……やっぱり私は。
推し活をしないと。
今回は、ルシェルがかなり頑張ってくれました。
多分この作品で一番苦労している人です。
殿下の反省会に付き合わされ、
比較対象にルーカス様とシリウス様を出され、
「好みも反映せねばならない」と真顔で相談される側近です。
本当にお疲れ様です。
そしてエレノアは、推し活をしているのに全然殿下から離れられていません。
でも本人は、
「殿下の幸せのために身を引こう」
と思っているので、かなりすれ違っています。
なお殿下は、
「嫌われていなかっただろうか」
を毎回やっています。
次回もよろしくお願いします。




