第10話 婚約者と騎士様は意気投合しました
「ルーカス。」
「イケメン。」
エレノアは、ぱっと笑った。
「……?」
ルーカスが目を瞬かせる。
エレノアは楽しそうに続けた。
「推しにそんなこと言われたら。」
「無理。」
令嬢たちが一斉に盛り上がる。
「きゃーーー!」
エレノアは、あっさりと言った。
「今日は冒険者ギルドやめる。」
ルーカスの顔が、一瞬で明るくなる。
「はい。」
エレノアは周囲を見回した。
「じゃあ今日は、この辺で解散して――」
少し考える。
「次回の推し活令嬢会議で。」
令嬢Aが首を傾げた。
「また集まるんですの?」
エレノアはにこっと笑う。
「ええ。」
「紅茶を飲みながら、推しについて語るの。」
令嬢たちの目が輝いた。
「楽しそうですわ!」
「最高ですわ!」
クラリッサが身を乗り出す。
「私、絶対参加します!」
エレノアは楽しそうに言った。
「招待制にしましょう。」
「でも、お友達を連れてきてもいいわ。」
「推しは多い方が楽しいでしょう?」
クラリッサが目を輝かせる。
「友達を連れてきてもいいですか?」
「もちろんよ。」
令嬢たちは大盛り上がりだった。
「きゃーーーー!」
「楽しみですわ!」
「次回が待ちきれません!」
その横で――王子がぼそっとつぶやく。
「……また増えるのか。」
ルシェルが静かに答えた。
「増えますね。」
その隣で、ルーカスも小さく言った。
「これは……大変ですね。」
王子とルーカスの視線が合う。
二人は同時に言った。
「……大変だ。」
ルシェルがため息をついた。
「始まったばかりですよ。」
クラリッサが小声で言う。
「エレノア様。」
「ルーカス様って、やっぱり格好いいですわね。」
エレノアは頷いた。
「そうね。」
「騎士っていいわよね。」
令嬢Aも頷く。
「背が高くて素敵ですわ。」
令嬢Bも続けた。
「腕もすごく鍛えていらっしゃいますわ。」
クラリッサが誇らしげに言う。
「王都騎士団の中でも有名ですもの。」
そして、ふと思い出したように続けた。
「そういえば、王都では騎士団人気が高いですわ。」
令嬢Aが頷く。
「研究所の方も素敵でしたわ。」
令嬢Bがうっとりする。
「眼鏡の方。」
エレノアが即答した。
「シリウス様ね。」
クラリッサが遠い目をする。
「王都、イケメン多すぎません?」
エレノアは満足そうに言った。
「推し活がはかどるわ。」
王子は真剣な顔で考えていた。
「……やっぱり、もっと鍛えるべきか。」
「筋トレと剣の訓練を増やすか。」
「執務もあるが……まあ全部やればいいか。」
小さく頷く。
「……ノアは格好いいって言ってたから、少しくらいは努力しないとな。」
さらに続けた。
「ノアに失礼だろう。」
そして、当然のように言う。
「ノアはいつでもかわいいんだぞ。」
ルシェルが静かに口を開いた。
「殿下。」
「なんだ。」
「誰に言っているんですか。」
「……。」
その横で、ルーカスが小さく頷いた。
「……確かに。」
王子が満足そうに言う。
「だろう?」
ルーカスは真顔だった。
「エレノア様はかわいいと思います。」
王子も深く頷く。
「ああ。」
ルシェルが冷静に言う。
「意気投合しないでください。」
王子がぽつりと言った。
「ノアは昔からかわいいんだ。」
ルーカスも頷く。
「知ってます。」
「昔から最高ですよね。」
少し照れながら続けた。
「俺も、ずっと好きで。」
王子がちらっと見る。
「やっぱり。」
ルーカスは真顔で言った。
「かわいいですよね。」
王子も真剣に頷く。
「ああ。」
二人は、しばらく無言で頷き合っていた。
その横で――ルシェルが静かに言う。
「殿下。」
「なんだ。」
「敵同士です。」
「……。」
王子は少し考えてから言った。
「でも、ノアはかわいいだろう?」
ルーカスは真剣に頷いた。
「そうですよ。」
「ルシェル様はわかってないんです。」
「エレノア様の素晴らしさを。」
王子は満足そうだった。
「そうだ。」
二人はまた真剣な顔で頷き合う。
ルシェルが、もう一度ため息をついた。
「殿下。」
「なんだ。」
「敵同士ですよね?」
「……。」
「……。」
王子とルーカスが同時に黙る。
少ししてから、王子が小さく言った。
「……そうだったな。」
しかし、次の瞬間には当然のように言う。
「でも、ノアは俺の婚約者だからな。」
ルーカスは少し考えてから答えた。
「でも。」
「婚約破棄するって聞いてます。」
空気が止まった。
王子は、ゆっくりルシェルを見る。
「……本当か。」
ルシェルは静かに答えた。
「殿下。」
「エレノア嬢が言い出したことですから。」
「かなり本気だと思います。」
王子は黙り込む。
ルーカスが小さく言った。
「だから俺。」
「諦めてないんです。」
王子がゆっくり顔を上げる。
「俺もだ。」
二人の視線がぶつかった。
ルシェルが静かにつぶやく。
「……始まりましたね。」
王子は何も言わなかった。
遠くで楽しそうに話しているエレノアを見る。
笑っている。
昔と同じ笑い方だった。
王子は小さくつぶやく。
「……やっぱりかわいい。」
ノアは昔からかわいかった。
子供の頃からずっとそうだった。
笑うだけで嬉しくて。
隣にいるだけで幸せで。
だから婚約者になれた時。
本当に嬉しかった。
王子は少しだけ目を伏せる。
そして、拳を握った。
「絶対に。」
「婚約破棄はさせない。」
今回は、推し活令嬢会議が本格始動しました。
令嬢たちは楽しそうですが、男側はかなり大変そうです。
特に王子とルーカス。
敵同士なのに、エレノア談義では普通に意気投合しています。
でも――。
婚約破棄問題も動き始めました。
王子は諦めていません。
ルーカスも諦めていません。
そして、エレノアだけがいつも通りです。
次回も、推し活は続きます。




