表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者が外弁慶なボクを殺人犯だと疑ってるんだけど  作者: 御仕舞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/22

7 . 片付けの途中でつい別のことに夢中になるけど


 まあ、できなかったんですけど(わかってた)(残当)。

ボクは、この一連のレムに関する騒動から一刻も早く抜け出したかった。

アレス殿下やピーノたちからの、まるでボクが極悪人の殺人犯みたいな扱いに疲れ果ててたのもある。


 なぜそこまでアレスはボクを疑うのか?

大体アレスは、今までだって婚約者の割に、態度は冷淡極まりないどころか、瑕疵を見つけて即刻婚約破棄してやろうという気概が見えるほど、態度が悪かった。

それに輪をかけて、ひどくなることってあるんだなあ。


 アレスが調査していたレム事件が、ピーノが編入してから進展があったんだろう。

間違った方向に。

そして、その結果、ボクが犯人役に浮上し、アレスたちからの態度が悪くなったと。

ダイモンまでもボクに探りを入れていると。

すごく迷惑な話だ。


 一体何があって、加害者候補に名乗り上げたのか、ボクは騒動の収束を願い、渋々少しばかり探りを入れることにしてみた。


 授業後の人気のない教室。

ボクはいつものごとく、血族魔法第五階位【閲覧の権利】を発動させた。

便利で使い勝手がいい魔法で、なぜ他の王族が使わないのかがわからない。

残念ながら、閲覧できるのは王国民に限られるけど、他国に王国民を侵入させてしまえば、スパイし放題なんじゃないか?


 というわけで、いつものダイモンの周辺にいる王国民たちを通じてダイモンの動向を伺う。

脳に差し込まれた映像たちを取捨していく。


 訓練場で汗を流すダイモン。

剣術の指南役との打ち合い。

真剣な眼差しとキレのある動作。

普段の飄々とした態度とは違う一面に胸が高鳴る。

その後彼にまとわりつき、巧みにかわされながらも食い下がろうとする女子生徒たち。

汗を拭くダイモンに声をかける男子生徒たち。


 そういえば、習慣付いている、ダイモンへの監視はいつから始めたっけ?

子どもの頃の記憶は、自我の形成がされてなかったからか、ストレスのせいか、記憶があやふやだ。

人間とはそういうものかもしれないけど、今のボクという自我ができあがった時には、既に習慣的にダイモンを見ていた。

そういえば、一度体調を崩して一年間寝込んだ時があったらしい。

そのせいで、一年入学を逃したんだけど、怪我の功名で、アレスやダイモンと同学年になったんだっけ。

よく覚えていない。


「あれ?」


 背後から突然声がかかった。

振り返ると、そこにはダイモンが立っていた。

扉が開く音にも気付かないほど、集中してたのが敗因だった。

ダイモン本人を閲覧できないのが、この魔法の欠点だよな、と思考が現実逃避をし始める。


「こんなところで一人で何してるの?」


 ダイモンは珍しく眉を顰める。


「単独行動が好きなのはわかるけど、さすがに人気のないところでは駄目でしょ。ちゃんと護衛をつけなきゃ」


 まずい。閲覧の痕跡を消さなければ。

しかしダイモンの視線がボクの手元を捉えた。

いつも以上に探ってしまったせいで、何度も指を切りつけてしまった。

指先から滴り落ちるのは血。

閲覧権限の代償だ。


「…その血は?」

「気のせいですわ。ちょっと切り傷が」


 ダイモンの表情が変わる。

普段の軽薄さが消え、研ぎ澄まされた厳しいものに。

彼が一歩近づいてくる。本能的に後退する。


「嘘つくなって」


 ダイモンの声は低く、圧倒される。


「その傷、普通じゃない。魔法使っただろ?」


 お、怒ってる?

ボクは少しずつ後ずさる。

普段怒らない人が怒ると怖いというが、今怖いのは怒られることより、嫌われることだ。


「気のせいですわ」


 と言いかけたその時、鋭い痛みが指先を走った。

咄嗟に手を握りしめようとして…失敗した。

ポタリ。

真紅の滴が床に落ち、染みを作る。


「…姫」


 次の瞬間、彼の手がボクの手首を掴んだ。

強く、しかし壊れ物を扱うように慎重に。


「【治癒】」

 

 彼の手の平から柔らかな翡翠色の光が溢れ出し、ボクの指を包み込む。

痛みが嘘のように引いていく。

だけど、ダイモンはシャヘルの手首を固く掴んだまま離さない。

彼の目は真剣そのもので、普段の飄々とした空気は消え失せている。


「何をしていたかは聞かない。でも」


 彼は握っている手首に力を込めた。

怒りというよりも強い懸念が込められている。


「こんな怪我を何度もさせられるような無茶はするな。姫の魔法が危険だってこと、姫はオレより知ってるはずだろ!」


 ボクは言葉に詰まる。

手首を掴む彼の力が意外に強く、痛いわけではないのに離せない。

どうしてダイモンがここまで怒っているのか?


「オレが来るまで護衛もつけず、こんな人気のない場所で、しかも魔法を使うときは周囲を警戒するのが鉄則だろ!」

「え、えっと…」


 喉が乾いてうまく声が出せない。

ダイモンの真剣な瞳がボクを射抜く。

その目に浮かぶのは怒りだけではない。

もっと切迫したものがあった。

彼の指がボクの手首から離れ、次いで掌へと移る。温かい感触に身が竦んだ。

胸の奥がザワザワと落ち着かない。


「もう二度とするな」


 ダイモンは警告するように言った後、わずかに息を吐き、その手をようやく離した。

ダイモンがここまで人に怒ったところを見たことがなく、剣幕に呆然としてしまう。

でも、それが心配の裏返しだと、ボクは理解していた。


「…ごめん。わかった」


 ボクは小さな声で答えるのが精一杯だった。

ダイモンは少し驚いたように目を見開き、それからふっと息を吐いた。

強張っていた表情が緩む。


「よし。じゃあ行くよ」

「行くって、どこへ?」

「医務室だよ。オレは治癒魔法苦手で、全部は治しきれてないからね」


 出血は止まったけど、ボクの指にほんの少しだけ残った傷を、ダイモンは悔しそうに見つめる。


「でもこんなの、ほっといてもすぐに消えるよ?」

「少しの傷でも残してほしくない」


 だって、姫はオレの大切な…と言いかけて、ボクの瞳をじっと見つめる。

それから、諦めのような表情を浮かべ、


「…幼馴染で友人だからね」








 廊下を歩く二人の足音だけが響く。

ボクは黙ってダイモンの背中を見つめる。

ボクは、またダイモンが手を握ってくれないか、なんて考えてしまう。

いつ誰が見るかもわからないから、婚約者のいるボクに触れるわけないのに、ボクは、もっと触ってほしくて堪らなくなる。

もっともっと、とどんどん強欲になる心に、ボクは怖気づく。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ