第十三章 湖水地方で家(その他)、建てます ~さすが社長令嬢ピエリーナ。人を見る目は厳しいですね。~
後日。
「えー……?」
空、アレット、ひまりの三人は顎が外れるほど驚いた。
その者は、黒いスーツに黒いハットに杖、白髪交じりの髪をオールバックにまとめている身なりの紳士。そんな、ボルタが連れてきた人物こそ。
「皆様、お初にお目にかかります。私、株式会社パワードの元社長、グレン・パワードと申します」
であった。これには四人目としてピエリーナも驚く。
「しゃ、シャッチョさんッスか!? そんなド偉い方が、なんでこんなところに!?」
「元従業員のボルタから、ここの経営者の話を聞かせていただきました。まずはこの土地フォーマメントについてお聞かせいただきたく、ぜひ私を雇っていただけないかと面接に参った次第でございます」
「わっ、分かったッス。まずはピエリーナのポーションティーで旅の疲れを取ってほしいッス……」
ちなみに来客用宿泊棟は建設中である。
ホールでお茶を飲み、パワードは「安らぐ……」とピエリーナのお茶を静かに絶賛した。
「ところで、現在パワードの損害補償に関してはどのくらい終わってるんっスか?」
「あらかた終わっています。弊社が加入していた損害保険もあり、金額的な問題は解決に向かっております。我が家の財産もすべて売り払い、無一文からボルタ同様にFランク冒険者として出直し、今に至るのです。冒険者と言っても力仕事はしたことがないもので、現在は経理や店番、法律問題の仲裁、その他ドイル卿のようにお悩み相談室を設けて食い扶持を稼いでいる日々です。工場長はアイアンマウンテンの別の工場に雇われ、同じく工場長ポジションで高給を得るも社員寮暮らしにかかる費用を除いて賠償請求されているらしく、事実上一生タダ働きでしょうね」
「申し訳ないッスがフォローできねえッス」
「世の中因果応報で成り立っていますからね。工場長がボルタにしていた仕打ちを見抜けなかったがゆえに、私は社長でいられなくなったこともまた因果応報。立ち直る機会があるのなら、それに向かって進むのみでございましょう」
世の中因果応報。それを空とアレットは、旅立ちの前に勇者卿アルスからも聞いていた。まさにその通りになっているなと今になって実感している。
そしてアレットは尋ねる。
「パワード氏は工場のブラック体制を認め、まさに身を切って賠償に当て、方々に謝りに行くほどの人格者ッス。自分としては、パワード氏こそこの地の経営者としてこの上ない人材ではないかと思うんッスが、みんなはどう思うッスか?」
空とひまりは迷うことなく賛成するが、ピエリーナだけは即断しなかった。
「でもそれって、工場長の横暴を見抜けなかったという欠点もあるのです。商売、人格だけで何とかなるものではないのです。むしろ会社の成長を第一に考えるサイコパス人でなし社長の方がなぜか結果的に人が付いてくる、という経営指南本を読んだことがあるのです」
「さすが社長令嬢ッスねえ、そんな本まで読むなんて」
「それはおっしゃる通りでございます。私もそれについては重々反省しており、それを指摘されて不採用が決まればそれも致し方ないと思っております。ただ『第三者監督官』を置けば、あのような工場長を早々に処分することもできたと思っております。その提案をご考慮いただきますれば」
「その第三者機関をここにも置くと?」
「ピエリーナ・マルゲリータ嬢。私に落ち度があれば、あなたに罰していただきたく存じます」
グレンのその言葉に、ピエリーナはしばし黙って聞き返した。
「あなたは、ロリコンのドMなのです?」
「そういう意味ではございません!」
「つまり、会社経営者の娘と言う立場から厳しく経営状況を管理してほしいと言うことッスね。言葉がかしこまっているのも誤解を招くと言うかなんと言うか」
すると、空がピエリーナの頭を撫でて言った。
「成長はこれからですよ」
「その慰めがただでさえ無い胸をえぐるのでやめてほしいのです! 空さん、その胸よこせなのですー!」
途端にピエリーナが空のセーラー服の裾に手を突っ込んで彼女の胸を揉み始めたため、グレンは首が「ごきっ!」と鳴るほど光速で視線をそらした。
「着物は……、ほどほどのほうがきれいに着られるので、拙者はこのくらいで」
「おーい、そういう話は夜にせーい」
ピエリーナのポーションティーをお変わりし、話を続ける。
とりあえずこれまでの流れを空がまとめる。
「では、グレン・パワードさんをここの経営者として迎え入れた場合、パワードさんに経営に関して何かしらの見落としがあれば我々の方で指摘し、株式会社パワードでの反省を活かす方向でここを経営していただく、と言うことでまとめて構いませんでしょうか」
「それであれば構わないのです。パワードさん、どうするのです?」
「ぜひお願いしたい。そして船舶型ホテル経営に関してもアテがございます。お金と時間がかかるでしょうが、その件に関してはぜひ私に一任させていただきたく存じます」
「時間は構いませんが、費用はどれだけかかるのでしょうか?」
「解体費、輸送費、再建造費、それだけで軽く一億ガルは越えましょう。しかし交渉次第で船のオーナーは『処分費が浮いた』と思ってある程度割引してくれることも考えられます。あとは呉様がどれほどのサイズの船をお求めか、それがあるのか、割引交渉後の価格をいつ用意できるか、それをクリアすれば話は進むでしょう」
「割引交渉ができる人がいるのは助かります。ところで、宛てと言うのは誰なのでしょうか?」
「はい。港町アンカーボルトの海上輸送ギルドです。パワードのゴーレムは、海の向こうのキュルスの町やメリクス共和国にも納品されることもあり、その縁で輸送ギルドと取引することもございます。ギルド名は確か、メイフラワーでしたね」
すると、空がずいと前のめりになってパワードに言った。
「わたしとアレットの名前を出すと、もっと安くなるかもしれません」
「お、そりゃあ確かに。パワード氏、メイフラワーに交渉に行くことがあったらよろしく伝えてほしいッス」
しばらく実現しないと思われた湖上ホテルだが、それほど期間を置かずに実現してしまいそうだ。




