第十三章 湖水地方で家(その他)、建てます ~働いたら負けなんて怠惰、許さないのです!~
領主邸ホール。
ボルタはピエリーナにお茶を出された。
「どうぞなのです。この地方で採取できる薬草を用いた『ポーションティー』なのです」
「ポーションティーとは、またずいぶんすごいものを」
「強い苦みを持つギネー草は、料理の薬味としてもポーションの材料としても使われるのです。苦みを消せば栄養価と香りはそのまま、粉末にしてお茶にすることも、炒って潰してコーヒーにすることもできるのです」
「そんなことができるのか。僕はゴーレムしか研究してこなかったから、そんな錬金術の使い方があるなんて驚きだ」
「これはただの生活の知恵なのです。よくお母さんが作ってくれたのです」
「そうだったんだな。……ああ、とてもおいしい」
「ありがとうなのです!」
ピエリーナのポーションティーを味わったボルタは、乗ってきた馬の鞍から荷物を下ろした。大きな箱の中には、ピエリーナ用錬成炉及び錬金術に使えそうな薬剤数点、そして錬金術由来の保湿ジェルとコンディショナーインシャンプー、畑に蒔けそうな植物の種と、その詳細と育て方のメモなどが詰め込まれていた」
「これらは『アルケモート錬金術協同組合』からのプレゼントだそうだ。ルペシッサ錬金術組合のことがあって、同業者同士の緩いつながりや何かあった時の助け合いではなく、普段からの結束で悪徳会社や組合から町を守ろうと言う動きが起こったんだ。僕は旧組合との衝突は知らないけど、きみたちが活躍したと聞いて、今アルケモートに身を置かせてもらっている者として感謝せずにはいられない。わずかながら僕もお金を出させてもらったんだ。新組合からの気持ちとして、受け取ってもらいたい」
「そんな組合があったなんて。知らなかったのです」
「無理もない。組合に関するアイデアはあったらしいんだけど、組合が組合として運営され始めたのはつい最近だからね」
「納得なのです」
そこに、ひまりがボルタに尋ねた。
「しかしボルタ殿。何故そなたがここにいるのでござる? アルケモートの、先程の組合で働き始めたとかでござろうか」
「ああ、それに近い。冒険者をやりながら妻と娘と放浪しているうちに護衛としてアルケモートにたどり着いて、アルケモートの錬金術工房『ローリエの工房』の製品の出来栄えを褒めまくっていたらいつの間にか雇われちゃってね。今は家族と共にアルケモートに根を張って暮らしていると言うわけだ。上階のアパートだから、根を張るにしてもプランター暮らしかな?」
そこに、ピエリーナが手をポンと打ってうなずいた。
「ローリエさんのお店なのです? ローリエさんのポーションはどれもすごいものばかりなのです。傷薬に疾病薬、解毒薬、鎮痛剤、眠気覚まし、睡眠薬、その他いろんなポーションがあるのです。町民にはもちろん、荷運びギルドや護衛さんにも大人気で、うちの水虫薬も委託販売してもらっていて、どれも好評なのです」
「そう言えば、水虫薬はピエリーナが作っていたのですよね。売り上げは大丈夫ですか?」
「親戚のお兄ちゃんがニートなので、働いてもらうだけです。『働いたら負け』なんて怠惰、許さないのです!」
「あー」
誰もが絶句した。
「そのお兄さん、錬金術の腕前は?」
「そこは家族全員が保証するのです。ニートになったのは小学校時代のいじめが原因なので、趣味のガラクタを持ち込むことを許可して工房にこもらせればいいんじゃないかって」
そう言うピエリーナに、ボルタは言った。
「どこぞの大泥棒は言っていた。男には自分の世界があるんだ。男の宝物をガラクタなんて言うもんじゃないよ」
そんな彼の目は『オタクの目』をしていた。
「はっ、はい、なのです……」
話を戻す。
「であれば、ボルタ殿とも今後は交流する機会が増えるかもしれぬでござるな。しかしよかった。アイアンマウンテンの一件でかの町を追放処分されたと聞き、今頃どうしているだろうかと旅路の中で皆で心配していたのでござるよ」
「そうか。心配してくれてありがとう。だがそちらの錬金術師さんとは初めましてだね。っと、そう言えば自己紹介が遅れた。ボルタと言う」
「ピエリーナ・マルゲリータなのです。ボルタさんとゴーレムの会社のことは、ひまりさんたちから聞いているのです。聞けば聞くほど、パワードの工場長さんは人でなしなのです。あまり人の悪口を言うものではないのですけれど」
「そうだな。あんな人でなし、悪口を言ってやるだけの価値もない。さっさと忘れてしまうに限ると言うものだ」
そんなボルタの言葉を聞き、空はふっと笑った。
――「お前など罰してやる価値はない」。確かピエリーナも、ルペシッサに同じことを言っていましたね。ピエリーナとボルタさん、気が合うかもしれません。
今度はボルタが、空たちにこの土地に関して尋ねた。
「そう言えばここのことは『湖水地方の屋敷』としか聞いていないんだが、ここは何という場所なんだ?」
「そう言えば、名前の候補はあれから考えていませんでした。ひまりの案『フォーマメント』を、もう無意識に使っていましたね」
「然様。今更でござるが、この地をそう呼んでも構わんでござろうか?」
「今日に延びてまで案が出ないんッス。命名、ひまりってことで」
「然らば、『ここをフォーマメントとする!』、でござるよ」
こんな形で決まってしまった。
「それでいいのか、わが女神!? ……まあ領主陣が納得しているならそれでいいか。ところで、ここはみんなが管理しているのか? 畑と風車しかないみたいだが」
「はい。それはこれから開拓してゆく予定です。畑仕事や狩猟で食べてゆきつつ、ここをリゾート地として開拓できないかとも。せっかく手付かずの自然が残っているわけですし、あまり大きな開拓などせずわたしたちやほかの旅行者たちの癒しの空間になればと」
その中で、豪華な遊覧船もしくは船上ホテル運営の予定、また旅に出ている間の経営者の工面なども言ったのだが。
「経営者については任せてくれ。宛てがある」
「そうですか? では、この先一か月はこの先誰かがここにいるので、そちらの都合でお越しいただければと思います」
こうしてボルタは馬に乗って帰って行った。




